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1章 元勇者、教師になる 14

 さてそんなわけで『違法者(イリーガル・ワン)』の跡を追って山の中を歩くこと約1時間、ふもとの住宅街に出た。


 森の中では痕跡を辿(たど)るのは容易(あくまで俺にとってはだが)であったが、市街地になるとそうはいかない。


 アスファルトもコンクリートも足跡を残すことを許さないからだ。


「ここに出たのは間違いないんですか?」


「ああ、それは信じてくれ。ただここからは追跡するのはちょっと無理だな。聞き込みでもするか?」


「いえ、この辺りの家は監視カメラを設置しているところが多そうですから、その映像を入手して追いましょう」


 ちなみに新良はすでに銀鎧(アームドスーツと言うらしい)は「転送」して解除している。かわりに制服のブレザー姿なんだが、これ下手すると俺が職務質問されかねないんだよなあ。


 と俺がちょっと不安になっている間に、新良は腕時計のようなものを操作して空中に画像を出した。


 そこに映っているのは確かに家の玄関などに設置されたカメラの映像のようだ。もしかして各カメラにハッキングして影像を解析してるとかそんな感じなんだろうか。メチャクチャすごいな銀河連邦。


 見ていると、いくつかの画像に共通の人物が映っているのが確認できた。猫背の大男のように見えるが、帽子を目深にかぶっていて顔がよく見えない。


 ただその姿にはどことなく異物感がある。『あの世界』にいたシェイプシフターというモンスターが人に化けるとちょうどこんな感じだった。


「これですね。あちらに向かったようです。行きましょう」


 今度は新良を先頭にして歩いて行く。


 しばらく追跡を続けていくと、住宅街から商店街に入って行った。2~3階建ての建物が並ぶ、いかにもな地方の商店街だ。


「『違法者』ってのは他の星に行くとどんな行動を取ることが多いんだ?」


「それは星の文明レベルにもよりますね。地球の場合はすでに社会制度が整っていますから、普通ならその社会に溶け込もうとするはずです」


「さすがにいきなり暴れたりはしないか」


「短絡的な人間ならあり得ます。彼らは犯罪者ですから、短絡的な者である可能性は当然高くなります」


「ああ、そりゃそうだよなあ」


 とか話していたら、離れたところで自動車のクラクションの音がけたたましく鳴り響いた。しかも複数だ。


 続いて自動車同士が衝突するような音が連続で聞こえてくる。映画のカーチェイスシーンの効果音みたいだ……となれば、だいたい何が起こったのかは察しがつく。


「あれはちょっと短絡的すぎないか?」


「そうですね、すみやかに確保しないと危険かもしれません」


 新良が走り出す。


 追いかけていた犯罪者エイリアンが暴れて死人が出たなんてことになると俺としてもちょっといたたまれないな。ここは急ぐか。


 俺は走る新良を後ろから無理矢理お姫様抱っこすると、『光学迷彩』スキルを発動、さらに『風魔法』を使って空中に飛び上がる。


「先生っ、いきなり何をっ!」


「舌噛むからちょっと我慢してろ」


『風魔法』を連続で発動し、空中をステップするように飛んでいく。


 じきに商店街の通りを蛇行しながら飛ばしていく一台のSUVが見つかった。


 周りの車にクラクションを鳴らされつつ、さらには対向車と軽く接触しつつ爆走する様子はやはり映画の1シーンのようだ。


 俺はそのSUVの上まで飛んでいき、ボンネットの中に鎮座しているであろうエンジンに『拘束』魔法を行使する。


 いきなりエンジンを固めると車体が予測不可能な動きをするので、徐々に『拘束』を強めてやると、SUVは200メートルほど走ったところで停止した。


 運転席側のドアが内側から弾け飛び、中から猫背の大男が下りてくる。それは監視カメラに映っていた奴に違いなかった。


 問題はそいつが、手に何か怪しげな道具を持っていることだ。見た感じ、『クリムゾントワイライト』の兵士が持っていたマシンガンを少し長くしたような形状をしている。ということはやっぱり武器なんだろうなあ。


「携帯プラズマキャノン……!? なぜ対拠点兵器を犯罪者が!?」


 えらく物騒な単語を新良が口にする。


 それが聞こえたわけでもないだろうが、猫背の男はその銃――『携帯プラズマキャノン』とやらを構えた。え、こいつ何考えてんだ? ただの無差別殺人犯とかそんな奴なのか?


「止めないと危険です!」


「わかってる」


 俺は猫背の男に『拘束』魔法を行使。だが効きが悪い。


『拘束』は生命力や魔力が強すぎると抵抗されるのだが……それでも勇者の『拘束』を弾くにはドラゴン並の力が必要なはずだ。


 ともかくも『拘束』対象を武器に変更。


 猫背の男は引き金を引こうとしたようだが、ロックされていることに気付いて銃を調べ始めた。


 その隙に男の側に着地する。周囲の人々は男が銃を構えた時点でほとんど逃げている。


「どうする、ここで戦ったら目立つぞ?」


「問題ありません。フォルトゥナ、ラムダ空間封鎖」


 新良は腕時計を口に近づけ、誰かに何かを命じた。


 一瞬の浮遊感。


 そして気が付くと、周囲の景色が一変していた。


「は? なんだここ」


 間抜けな声が漏れてしまったが、これは仕方ない。何しろいきなり妙な空間に飛ばされた、いや、新良の言葉から考えると閉じ込められたのか。まあとにかく、おかしな場所に連れてこられたのだ。


 立っている地面こそさっきまでいたアスファルトの道路だが、周囲を見回すとそのアスファルトの地面が見渡す限り地平線まで続いている。


 建物は一切が消え、かわりに異様な空が……いろんな色の絵具を水面にぶちまけて軽く混ぜたような、マーブル模様の空が頭上を覆っていた。


 そしてその奇妙な世界の中に、俺と新良、そして猫背の大男だけが立っている。


「説明は後にします。まずは『違法者』を処置しなくては」


 新良はいつの間にか銀鎧の姿になっていた。ただ俺が破壊した部分はそのままなんだが……大丈夫だろうか?


 彼女は猫背の男の前に進み出ると、山で俺に対してしたのと同じようなアクションを行った。


 猫背の男はじっと聞いていたが、甲高い声で急にケタケタと笑い出した。


「マサカコンナ僻地(へきち)ニマデ独立判事ガ出張ッテイルトハ驚イタ。ダガ隔離空間ナラ、オマエヲ殺シテモ足ハツカナイダロ。マダ暴レタリナイ、邪魔ヲスルナラ消スマデダ」


『そちらの意志は確認した。独立判事法5条により強制執行を開始する』


「ケエッ、ソンナチンケナあーむどすーつデ俺ガ殺セルカヨ!」


 あらら、やっぱりそうなるのね。


 見ると猫背の男は銃とコートと帽子を捨てその正体をあらわにした。


 四肢の筋肉が異様に発達したトカゲ人間……とでも言えばいいのだろうか。頭がトカゲっぽく、尻尾の生えたマッチョな二足歩行の生物がそこにいた。


 もっともあの世界にはトカゲ人間リザードマンが大勢いたので俺としては驚くほどではない。


 俺が見てる間に2人の間で格闘戦が始まった。新良が銃を抜く前にトカゲ人間が距離を一瞬で詰めたのだ。


 新良はいつもの『真ギンガ流』……『真銀河流』か……の技を駆使しての戦いである。


『アームドスーツ』で威力が増幅された突きや蹴りを、トカゲ人間は生身で受け止めている。


 アレを正面から受け止めるのはマッチョなだけでは不可能だ。


 そういえば新良は「違法強化処置を受けた『違法者』」と言っていたな。とすればあのトカゲ人間は、マンガとかによく出てくる強化人間とかそんな奴なのか?


「ケエェッ!」


「くっ!」


 トカゲ人間の回し蹴りを新良が受け止める。が、体勢を崩したのはアームドスーツが十全に稼働していないからか。


 どうも俺とやったときに比べて新良の動きに精彩がない。彼女の体調は俺の回復魔法で整っているはずなので、理由があるとすればスーツの方だろう。


「コレガ独立判事ダッテ? 弱イネェッ!」


 トカゲ人間の嵐のようなラッシュ攻撃に新良は防戦一方になる。


 何発かはガードをくぐりぬけて身体にヒットしてるようだ。これはちょっとマズいな。


 新良が腕と足からジェットを吹かして距離を取ろうとする。銃による攻撃を行おうというのだろうが……。


「死ネェッ!!」


 トカゲ人間が『高速移動』スキルにも似た動きで新良に迫る。身体の後ろにまで引いた右腕には、とてつもない破壊力が込められているのが俺には分かった。


「グベェッ!?」


 瞬間、俺の右拳がトカゲ人間の頬にクリーンヒットしていた。


 きりもみ状態になって吹き飛んでいくマッチョトカゲは、アスファルトに叩きつけられて二度三度バウンドする。


 不意打ちで悪いが、新良は一応ウチの生徒だからなあ。


「新良、今だ」


「え? ……あ、はい」


 新良は素早く銃を構えると、よろけながら立ち上がったトカゲ人間に光線を連射した。


「ギャアァアァ……ッ!」


 うわ、容赦ねえ。と思ったが、どうやら撃ちぬいたのは四肢だけのようだ。


 新良は虫の息のトカゲ人間に近づいて拘束具のようなものをつける。


 「フォルトゥナ、被疑者をラムダ転送。スーツ解除。空間封鎖を解除」


 新良がまた誰かに指示をするとトカゲ人間がシュンッと消え、周囲の景色が商店街の路上に戻った。


 周囲は交通事故現場のままだった。緊急車両のサイレンの音が近づいてくる。


 俺は素早く新良のそばにいって『光学迷彩』スキルを発動。そのままこっそりと現場を離れた。


「解除するならひとこと言ってくれ」


「すみません。それとありがとうございます。助かりました」


「どういたしまして。というか俺が手を出してよかったのか? その、銀河連邦の規則的に」


「独立判事には現地の人間に協力を要請する権限が認められています。問題ありません」


「それならいいけど。それでさっきの奴はどうなるんだ?」


「送還ポッドで回収地点まで射出します。あとは連邦の判事が取り調べをするでしょう」


 なんかよく分からないけど、犯罪者を送り返して裁判を受けさせる、みたいな感じかな。


 まあこれ以上詳しく聞いても俺としては意味がないからやめとこう。また新良に疑われてもつまらないしな。


 しかしとりあえず今回の件はこれで解決っぽいけど、結果として俺の悩みがまた増えたんだよな。


 謎の怪物と戦う生徒と、謎の国際犯罪組織と戦う生徒と、宇宙犯罪者と戦う生徒。そんな子たちを預かってるって明蘭学園おかしくない?


 というかおかしいのはこっちの世界か。一般人が何も知らない裏でこんな戦いが日夜行われてるとか、できれば知りたくなかったというのが正直なところだ。


 まあでも、それを知ったから彼女たちを助けることもできるのか。それを思えば仕方ないと感じるほどには俺も教師らしくなっている気はするな。


 でも普通の教師なら、化物と戦ったり宇宙人を殴ったりする必要はないんだけどなあ。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさか『時空戦士スピルバ○』や『ウルトラマ○ネクサス』みたいな空間変異まで可能とは…やるなぁ独立判事。 流石に『機動刑事ジ○ン』みたく対バイオロ○法に基づいて犯人抹殺はしないみたいですが(笑…
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