21章 勇者の日常 06
一通り掃除が終わり、夕食を作ってもらい二人で食べた後、ようやく魔力トレーニングの時間になった。
まずは俺の魔力をとらえるところからだ。宇佐さんには座っていてもらい、目をつぶって魔力を感知してもらう。
その間俺は魔力を垂れ流しつつ、PCで作業をしたりと自分のことをやっていればいい。トレーニングとは言うがよく考えたらこっちは楽なものである。
かなり鍛錬を積んでいるはずの宇佐さんだが、さすがに1日で身につくものではない。とはいえ彼女も九神家に仕えている以上毎日来るわけにもいかないので、長めに2時間ほどトレーニングをしてもらった。
「確かにご主人様のお腹のあたりから何かが流れ出しているのは感じるのですが、その流れはまだ見えません。これが見えないと次の段階には進めないのですね?」
今日のトレーニング終了を告げると、宇佐さんはふぅと息を吐きだしてそう言った。
「そうですね。まずは見えるところからです」
「ちなみに雨乃はどのくらいで身につけのでしょうか?」
おや、知り合いだとは聞いているが雨乃嬢は下の名前呼び捨てなのか。かなり仲がいいんだな。
「う~ん、2日でしたかね。時間としては3時間くらいです」
「それでは私も次回には見えるようになっていないといけませんね」
「頑張ってください。宇佐さんくらい鍛錬を積んだ方なら上達は早いはずです」
「ご主人様の期待に応えられるよう精進します」
という感じで今日は終わりという雰囲気になった。
なったのだが、どうも宇佐さんはお茶を用意したりと給仕を続けていてなかなか帰る素振りを見せない。
さすがによそさまの娘さんを夜遅くまで安アパートにとどめておくわけにもいかないので、
「宇佐さん、今日はもうメイドのお仕事は終わりで大丈夫です」
と言うと、さも意外そうに宇佐さんは首をかしげた。
「いえ、ご主人様がお休みになるまでお仕えするのがメイドですのでお気になさらないでください」
「へ……? いや、宇佐さんのような方を夜遅くに帰すわけにもいきませんし」
「帰す、ですか? 私は寝袋で大丈夫ですが」
「寝袋? 寝袋に入って帰るんですか?」
「いえ、寝袋は寝るものですので、こちらのテーブルの脇で寝ます」
「ん?」
「?」
あれ、なんか話がかみ合ってないような気がするな。
「え~と、宇佐さんは今日は家にお帰りになるんですよね?」
「そのつもりだったのですが、さきほどのお話を聞いて泊まりでお世話をさせていただくことにいたしました」
「そんな話をしたつもりはないんですが……」
「もともと可能なら泊まりでのお世話を考えていました。すでに複数の女性が泊まっているのでしたら問題ないと判断したのですが、なにか差し障りがございますでしょうか?」
「えぇ……」
う~ん、なんかリーララといいカーミラといい宇佐さんといい、なぜ平気で男の部屋に泊るとか言えるんだろうか。リーララはともかく大人の女性がそれを言ったらだめだと思うんだが……まさか俺が男として認識されてないだけだったりするのか?
いや、勇者だからなにもしないという信頼感があるんだな。きっとそうだ。きっとそうなんだろうがダメなものはダメである。
「さすがに女性を泊めるわけにはいきませんから。カーミラとかは無理矢理泊まっていっただけなのでノーカンです」
「ご主人様のお世話をさせていただけないのはメイドとしては最大級の恥なのですが……」
「ダメなものはダメです」
その後も粘る宇佐さんを無理矢理駐車場にある車に押し込んで、なんとか帰っていただいた。車を出すときにすごく悲しそうな顔をされたのだが、そこまでメイドとしてのプライドを持っているというのは敬意を感じるところではあった。
まあでもどちらにしろ宿泊はNGである。青奥寺どころか九神にまでなにを言われるか分からないからな。