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20章 ある者の決着  07

 戦いが終わったあと、俺は『白狐』の救命班を伴って碧さんの救出に向かった。もちろん青奥寺、雨乃嬢、三留間さん、そして九神世海が一緒である。


 一応精神魔法係としてカーミラにもついて来てもらった。カーミラはクゼーロを倒してからどうも妖しい目つきでねっとりと俺を見つめているのだが……魅了魔法をかけているとかそういう感じではなさそうだ。


 碧さんが捕らえられていた部屋に入ると、なんとそこには九神の兄・藤真青年の姿もあった。部屋の隅で膝を抱えて座っていて、俺たちが入っていくと生気のない顔を向けてきた。


「お兄様、ここにいらっしゃったのですね。お父様が心配なさっていますから戻りましょう」


 九神がそう言うと、藤真青年は力なく立ち上がった。


「お前がここに来たということは、権之内もあのクゼーロとかいう男もすべて片がついたということか?」


「ええ、恐らくそういうことになるかと思いますわ。ただまだ確認しないといけないことがありますけど」


「確認? 俺がどこまで関わっているかとか、そういう話か?」


「いえ、お兄様がそこまで悪人だとは私もお父様も思ってはおりません。そうではなく、この部屋に碧お姉さまがいらっしゃるのだそうです」


「碧お姉様、だと……?」


 やつれた顔の藤真青年が、眉を寄せて怪訝そうな顔をする。


「ええそうですわ。先生、どちらにいらっしゃるのですか?」


「カーミラ、頼む」


「わかったわぁ」


 カーミラが部屋の奥にあるクローゼットのような箱に近づき、「碧ちゃん、開けるわよぉ」と声をかけて観音開きに扉を開ける。


「……っ!? 碧……お姉様……!」


「な……っ!? 本当に碧……なのか!?」


 箱の中の拘束された少女の姿を見て九神兄妹が絶句する。


 九神世海は口をおさえながら、よろよろと碧さんの方に近づいていく。


「お姉様……碧お姉様……」


 九神が呼びかけるが、碧さんは眠ったままピクリとも動かない。もしかしたらまだカーミラの精神魔法が効いているのかもしれない。


 このまま目を覚まさせて対面させてもいいが、やはり身体を治す方が先だろう。


「九神、今起こすのはやめておこう。まずは彼女の身体を治す」


「先生……この状態を治せますの? それより本当に碧姉様はまだ生きていますの……?」


「呼吸をしているのはわかるだろう? 治すのも問題はない。そのための用意を『白狐』にしてもらってあるしな」


 俺が合図をすると、『白狐』の救命班が箱の前に担架と点滴やらバイタルチェックの機械やらの用意を始める。


「三留間さんも手伝ってくれ」


「は、はいっ。なにをすればいいでしょうか?」


「この人は今、この妙な機械につながれて命を保っている。これからこの機械を外し、彼女に身体を治す薬を飲ませるんだが、機械から外した瞬間が一番危険なんだ。そこでまず、機械を外す前から強い『癒し』の力を彼女にかけてやって欲しい」


「分かりました」


「そしてその後も継続して『癒し』の力をかけてやってくれ。可能なら彼女が病院に行くまでつきそってもらいたいんだが、魔力は大丈夫かな?」


「はい大丈夫です。余裕があります」


 三留間さんは力強く頷いた。彼女の魔力量は相当に高まっているので、緩い『癒し』なら2時間くらいは連続でかけ続けられるはずだ。


「オッケー、じゃあ始めようか」


 三留間さんが『癒し』の力を行使するのを確認し、俺は麻酔がわりに『無痛』の魔法を碧さんにかける。


 えぐれた脇腹に差し込まれている管をはずし、少し申し訳ないが顎に手をかけて口を開かせる。『空間魔法』から『エリクサー』のビンを取り出し、栓を開けて口に差し込み、むりやり嚥下(えんか)させる。


「ん……ぐっ、ごほ……っ」


 気管にも入ってしまっただろうが問題はない。この魔法の薬は体内に入ってしまえば物理法則を無視して身体に染み込んでいく。


「先生、今の薬はこのあいだ宇佐に使ったものですの?」


「いや、あれより強力な奴だ。死亡以外はすべて回復する最強の薬だな」


 九神に答えていると、碧さんの身体に変化が起こり始めた。


 まずはえぐれた脇腹が盛り上がってきて、続いて右腕と右足がにょきにょきと生えてくる。何度見ても奇妙な光景だなこれ。


「なんだと……俺はなにを見ているんだ……?」


 藤真青年が呆然としてそんなことを言う。もちろん青奥寺たちも同じような状態だ。そりゃそうだろう、こんなシチュエーションじゃなかったらどう見てもよくできた手品にしか見えない。


 数分で碧さんの身体は五体満足な状態に戻った。しかしその全身は骨と皮ばかりの痩せこけた状態で、やはりそのままではすぐに命の灯が消えそうに見える。


 俺はその体に手をかけ、彼女の身体を固定している箱の機能を『拘束』魔法で停止させる。俺の腕に碧さんの体重がかかってくるが、その重さはあまりに軽い。


『白狐』の救命班にも手伝ってもらって碧さんの身体を担架に横たえる。救命班はてきぱきと点滴をつけたり機械をつけたりして、大きな布を彼女の上にかけた。


「まずはこのまま様子を見ます。バイタルが安定しているようならそのまま運びます」


 救命班のリーダーがそう言うので、その場は彼らと三留間さんに任せることにする。


 九神と藤真青年、そして面識があるという青奥寺と雨乃嬢が担架の周りに集まって、横になった碧さんを見守る。


 これでとりあえずは大丈夫だろう。『エリクサー』の効果で身体的な欠損や、持病などがあっても完全に治っているはずだ。後は筋力や体力の問題だが、そこは三留間さんの力と現代医療の力でなんとかなるはずだ。


 俺は皆が碧さんに注目している隙にカーミラを連れて、そっとその部屋を出た。

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[一言] 魅了かけたのはアンタだよ先生w
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