1章 元勇者、教師になる 13
『……っ!?』
俺の言葉に、銀鎧がビクッと反応した。
まあさすがにこれは気付かないとね。今までの流れもあるけど、銀鎧のお嬢さんの体技が新良のものと同じなんてのは勇者の目にかかれば一目瞭然だし。
銀鎧……新良は諦めたのかヘルメットを取った。取ったというよりシュウンッ音がして消えた。なにそれSFっぽい。
「なぜ分かったんですか?」
ショートボブの美少女が、眼力強めに見上げてくる。
「身体のさばき方が同じだったからな。それより俺が敵じゃないと認めて欲しいんだが。そうだな……独立判事の名にかけて、って感じで」
新良は少しだけ目を見開くと、渋々といった感じで宣言した。
「相羽先生を私の敵でないと認めます。これは銀河連邦独立判事の公的発言として記録します」
俺が首筋から『ディアブラ』をどけてやると、新良は立ち上がろうとして、そこで少しよろめいた。
俺は支えてやり、『回復』の魔法をかけてやる。勇者パーティの大僧正ほどじゃないが結構強力な回復魔法も使えたりする。
「受けたダメージが消えていく……? スーツのリカバリシステムより強力な再生力……」
「俺が与えたダメージだからな。これで文句はなしだ」
まあ鎧……パワードスーツは直せないけどな。そこは謎SF装置でなんとかして欲しい。
「さて、話を聞かせて欲しいんだが、新良は銀河連邦とかいうところから派遣された判事……裁判官ということでいいのか?」
「正確には警察官兼検察官兼裁判官兼刑務官ですね。犯罪に関わることすべてを任されています」
「ああ、昔そんなキャラクターが映画でいたな……。銀河連邦ってのはやっぱりあれか、色んな宇宙人が集まって作った組織みたいな感じか?」
「……だいたいそのような感じです。ちなみに地球は所属していません。あくまで観察対象地域という扱いです」
なんだ、国民に秘密で加盟してるとかそういうんじゃないのか。まあ一部権力者とは接触してるとかそんな可能性はありそうだな。
「それで、新良はなんでその観察対象地域にやって来たんだ?」
「連邦内の一部犯罪者や違法な組織が観察対象地域に干渉することを監視し防ぐためです。独立判事はそのための権限を与えられています」
「なるほど。そうするとやっぱり俺は犯罪者と間違われたってことか。それはヒドくないか?」
「先生には怪しい点がいくつもありましたので。そしてこのクルーザーと関係があるという時点で、『違法者』だと判断しました」
悪びれずに言うのはどうかと思うが、司法関係者ってのはそういう態度を常に取っていないとマズい部分があるんだろう。
「それで、先生は結局なんなのですか? 絶対にこの星の人間ではありませんよね。しかし使っている技術は銀河連邦でも見たことがない系統ばかりですが」
「あ~それなあ……」
青奥寺たちから聞いてはいないのだろうか? 彼女たちも一応そのあたりは約束を守ってくれたのかもしれないな。
「信じてもらえないだろうが、俺はちょっと前まで異世界に行ってて、そこで勇者をやってたんだよ。だからメチャクチャ強いし魔法も使えるんだ」
「確かに信じられませんね」
即答ですか。一瞬くらい間を開けてもよくないですかね。
「話の信憑性でいったら新良が宇宙人ってことと同じくらいのレベルだと思うけど……」
「は?」
ちょっ、光のない目の圧が激強なんですけど。そんな怒るとこ!?
「まあいいです。先生については『正体不明者』ということで処理します。しかし先生が関係ないとなると、このクルーザーで上陸した『違法者』がどこか別にいるということになりますね。追跡しなくてはなりません」
「『違法者』ってのはそんなに危険なのか?」
「『違法者』は地球人よりはるかに高い能力を持ちます。その上短絡的な者が多いですから、何をするかは分かりません。早急に探す必要があります」
「なるほど。じゃあこっちだ。行こうか」
「はい、え……?」
俺はさきほど見つけていた、何者かが山に入って行った跡が残る場所に向かう。
不審そうな顔をしながらも、新良も後をついてくる。
「その『違法者』とやらはここから山に入ってる。跡を追いかけて行けばどこに行ったかある程度わかるだろう」
「先生はトレーサーを持っているのですか?」
「なんだトレーサーって?」
「目標を追跡するための探知システムです。微細な痕跡を感知して行動ルートを特定するものですね」
「ああ、そんなものまであるのか。俺のはただ経験によって見分けてるだけだよ。おっとそういえばクルーザーはあのままでいいのか?」
「さすがにあれはラムダ転送の容量を超えているので置いておくしかありません。光学迷彩を切ったのはミスでした」
新良は少しだけバツの悪そうな顔をする。
いくら山奥とはいえ、上空から見とがめられないとは限らない。宇宙船なんて見つかったらそれこそ一大事だ。
「じゃあ俺がいったん預かっておくか。言えば渡すから罰するのはなしで頼むよ」
俺は空間魔法を発動。クルーザーの上に巨大な黒い穴が開き、それが下に下りて行ってクルーザーを丸ごと飲み込む。
空間魔法は俺が使える魔法の中でも特に便利な魔法だ。長い勇者生活の中でどれだけの戦利品を異空間倉庫に入れたのか、自分でも把握できなくなって久しい。
クルーザーを収納し、出発を促そうと新良を見る。
普段表情をほとんど動かさないクール系(?)少女が、珍しく目を丸くして驚きの表情を見せていた。
「どうした?」
「どうした……と言われても。今のは一体なんですか? ラムダ転送の限界をはるかに超えているのですが」
「あれは空間魔法って言ってね、別の空間にモノをぽいっと放り込んでるだけだよ。自由に出し入れできるから大丈夫」
「……先生、物理法則を無視した力は使わないでもらえませんか」
いやそれは新良も大概無視してるよね。
「ラムダ転送」とか言ってるけど、名前がそれっぽいだけでやってることは魔法と同じ……って言ったら多分また睨まれるだろうから俺は口にしないけどね。
勇者って学ばないと生きていけない仕事だったし。