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20章 ある者の決着  04

 その部屋は学校の体育館の4倍はある広さの部屋だった。地下にこんな空間があるのも驚きだが、そこで『白狐』機関員と九神家の護衛部隊(宇佐さんの実家筋の腕利きたちらしい)が、20体ほどの『深淵獣』と戦っているのが凄まじい。


 もちろん最前列にいるのは強化アームをつけた双党と、剣を手にした絢斗、そして二本の棍を構えた宇佐さん、そして青奥寺と雨乃嬢と新良だ。


 『深淵獣』側は乙型カマキリや甲型ゴリラ、そして特Ⅰ型のグレーターデーモンもどきまでいるが、彼女らは一歩も引かずに戦っている。直前の合宿の成果が遺憾なく発揮されていてなによりである。カーミラも魔法で援護していて、後方では三留間さんが怪我人を回復しているのも見える。


 九神家サイドには九神世海だけでなく父親の仁真氏もいて、執事の中太刀氏とともに結界を張って戦いを援護しているようだ。20人ほどの『白狐』機関員の中には所長の東風原氏の姿もあり、強化アームを装着して対物ライフルを撃ちまくっている。


 『深淵獣』側の後ろには10体ほどの人造兵士(エージェント)に囲まれて権之内氏が立っていて、次々と『深淵獣』を召喚しているようだ。ただその召喚スピードは九神のそれより遅く、召喚能力に差があることが見て取れた。


 俺が入ってきた入り口(『掘削』で開けた穴)は、戦いを真横から見られる位置にあった。


 俺は『深淵獣』たちに向かって横合いから『ロックボルト』の魔法を連射で叩きこんでやる。乙型カマキリはそれだけで頭部を吹き飛ばされて消え、ダメージを受けて怯んだ甲型ゴリラやグレーターデーモンもどきは青奥寺たちに止めをさされていく。


 今まで拮抗していたらしい戦いが一気に『九神白狐連合』優勢に流れた。


 残りの『深淵獣』を青奥寺たちが駆逐すると、『白狐』の機関員が射線を集中させて人造兵士(エージェント)を倒し始めた。数体の人造兵士(エージェント)とともに権之内氏が下がろうとするが、左右から宇佐家の腕利き10人が接近して人造兵士(エージェント)を倒し、権之内氏を取り押さえようとする。


「貴様ら、九神の犬がッ!」


 権之内氏もやはり格闘術にも優れているようで、宇佐家の人間をまとめて吹き飛ばす。


 しかしそこに宇佐さんが飛び込んできて、二本の棍で嵐のような連撃を叩きこんだ。


「ぐうぅッ!」


 さすがの権之内氏もあごや胸に強烈な打撃を受け、吹き飛んで倒れ込む。そこを宇佐家の者たちが飛び掛かって3人がかりで取り押さえた。人造兵士(エージェント)も全部倒されたようだ。これでここの戦いはひとまず決着だろう。


「先生っ、助かりました」


 青奥寺と雨乃嬢、そして新良が走ってくる。双党や絢斗たちはまだ周囲を警戒しているが、こちらをちらっと見て軽く礼をしたようだ。


「皆で来てよかったな。いい援護ができたんじゃないか?」


「はい、思ったよりも戦えるようになってました。それより戦いはこれで終わりでしょうか?」


「まだ敵のボスがいるからな。その前に助けないとならない子もいるし」


「世海が言ってました。碧さんですね。私も昔仲よくしてもらったので生きているなら嬉しいんですけど」


「えっ、碧ちゃん生きてるの!?」


 青奥寺の言葉に反応して、雨乃嬢が驚いた顔をする。


「青納寺さんも知ってるんですね」


「ええ、私と同い年で、友達だったんです。事故で亡くなったと聞いてお葬式にも出たんですけど、生きてるってどういうことですか?」


「どうもここのボスが色々仕組んだみたいですね。『深淵の雫』を加工させるためにさらったみたいです」


「そんなことが……。生きているなら早く助けないと」


「そうですね。ただ助けるには双党たちの力が必要なんですが――」


 見ると拘束された権乃内氏のもとに、仁真氏と九神世海が歩いていくところだった。周りを宇佐家の者が囲み、さらにその外側を『白狐』の機関員が周囲を警戒しながら囲んでいる。


 仁真氏が前に出て、権之内氏を見下ろしながら口を開く。


「もう今さらなにも言うまい。権之内、お前には正当な裁きを受けてもらう。それだけだ」


「正当な裁きなどよくも言えたものですな。他人(ひと)の娘を殺しておきながら……」


「あれは事故だと何度も言っている。しかも仕組まれた事故だった……それが分かったのはつい最近なのだがな」


「ふざけたことおっしゃいますなご当主様。そこまでして九神を正当化したいのですか」


「権之内……お前はそこまで視野の狭い男ではなかったはずだ。その目を曇らせたのは娘に対する思いか。それともその思いを利用したクゼーロという男か」


 仁真氏がその名を出すと、権之内氏の顔色が微妙に変化した。


「……なぜその名をご存知なのか? 表には一切出ていないはず」


「娘の先生が色々知っていてな。その人はお前の娘……碧ちゃんが生きているとも言っている。クゼーロにさらわれてここに幽閉されている、とな」


「な……っ!?」


 権之内氏が驚愕の顔で周囲を見回し、俺を見つけて叫んだ。


「おいお前、相羽と言ったな! なぜそんなことが言えるっ!?」


「実際に見たからです。話もしました。ああ、自分も彼女が生きていると知ったのはつい最近のことですから黙っていたわけではありませんよ」


「なんだと……! ならば会わせろ、会わせてみろ! つまらぬ空言で私をバカにする気か!」


「大人しくしていれば会えると思いますよ。ただまだ片づけないとならないことがありますからね」


「たわけたことを……っ」


 権之内氏は忌々しげに俺を睨むと、また仁真氏のほうに向き直った。


「ところでご当主さま、ご子息のことはよろしいのですか?」


「どうせお前から連絡をもらって、勝手に自分で真相を聞きだそうなどとしたのだろう。正直どうなろうとも構わぬと言いたいところだが、親としてもそうはいかん。どこにいるのか聞いてもいいか?」


「そのような扱いをなさるから若は手柄を求めるようになったのですぞ」


「あれが14~5の頃ならその話も耳に入れようが、藤真はすでに子どもではない。もしやクゼーロのところにでもいるか」


「さあどうでしょうな。クゼーロに引き渡したのは確かですが、その後のことは存じませぬ」


「そうか。どちらにせよクゼーロは倒さねばならん。ただ人質に使われると厄介ではあるな」


 そう言うと、仁真氏は俺の方を見た。


「相羽先生、クゼーロに関してはお願いできますか?」


「ええ、そういうお話でしたので。それに向こうも我慢できずにやってきたようですし、いやでも戦いにはなりそうです」


「なんですと?」


 今さっき急に『気配感知』に強烈な魔力反応が現れたのだ。どうも大勢の手下を従えているらしい。


 奥の扉が開き、黒づくめの人造兵士(エージェント)を多数従えた偉丈夫が現れた。


 厳めしい顔にたてがみにも見えるオールバックの髪。ライオンを擬人化したような容姿と、魔王軍四天王にも匹敵する魔力を持つ男。


『クリムゾントワイライト』日本支部の長クゼーロは、部屋に入ってくるなり周囲を睥睨するように見渡した。

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