19章 想定外 07
結局午後はいつもの採石場跡地でトレーニングをして過ごした。
ついてきた青奥寺たちは相当に驚いていたようだが、魔力が使えるようになったといっても勇者から見ればまだまだヒヨッコであるので仕方がないだろう。
一方で一緒についてきたカーミラは俺の力を見て妙にうっとりしていた気もするが、こっちはいつもあんな感じな気がするので無視でいいな。
さてその日の夜、俺はカーミラを連れて夜間飛行をしていた。もちろんお姫様抱っこなどはしておらず、カーミラも自前の『機動』魔法で飛んでいる。
目的はクリムゾントワイライト日本支部の本拠地の場所の確認なのだが、もちろん場所を知ったところでいきなりカチ込んだりするつもりはない。
本拠地については九神家と『白狐』の方で調査中であり、実際行動を起こすのは彼らが場所を掴んでからと決めている。勇者がすべて解決するのはいい結果をもたらさないしな。
しかしそうは言っても事前に知っておいていいだろうということで、結局偵察に行くことにしたわけである。
「しかしまさか無人島に基地を作るとはなあ。なんていうかいかにも悪の組織って感じだな」
「うふふ、先生たちから見ればそうなるわよねぇ。でも当然クゼーロたち自身は悪の組織とは微塵も思っていないのよぉ。それなりに信念と目的があって活動しているみたいだから」
「そりゃ自分が悪いと思って行動してる奴なんて基本いないだろ。とはいえクリムゾントワイライトはどう考えてもこっちからすりゃ悪以外の何物でもないけどな」
「まあねえ。彼らの目的はあくまでもあっちの世界に関わることだしねぇ。こっちの世界については迷惑しかかけてないわよね」
「ちなみにその目的ってのは……っと、もしかしてあの島か?」
夜の海上は遠くに船の光がまたたく以外は基本的に闇である。とはいえ月も出ているし、勇者の目には昼間のように……とはいかないが、島の姿くらいははっきり見える。
それはドーム球場5個分くらいの大きさの、切り立った崖に囲まれ、上部には木が生い茂ったどう見ても無人の島であった。
ただ『気配感知』で見るとその島の内部に多くの人間がいて活動していることが分かる。どうやら島の地下に大規模な施設があるらしい。
「ホントに秘密基地を作ってるんだな。しかしこれどうやって中に入るんだ? 船が接舷できそうな場所はないよな」
「船は使わないのよ。すぐにバレちゃうでしょ? 実は転送魔導装置があって陸地の建物とつながってるの」
「転送魔導装置なんてものがあるのか。それはそれで大した技術だな」
俺が勇者をやってたあの世界にも転送魔法は存在したが、それはかなり特殊な魔法で大がかりな施設が必要になるものだった。もちろん個人で使えるようなものではなく、勇者でも勇者パーティの賢者でも個人での行使は不可能であった。
「それにクゼーロにとってここは研究所みたいなものなのよ。基本的には議員の久世として活動してるから、頻繁に行ったり来たりはしないの」
「なるほど……。研究ってのは人造兵士の開発だよな? ということはエージェントはここで作られてるってことか」
「そうね。ここで作られているみたい」
「そしてそのエージェントの研究のために『深淵の雫』が必要で、それで権之内と組んだってわけか」
「そうみたいねぇ。実際は権之内もクゼーロに使われてる感じなんだけどね。彼もまさか自分の娘が生きてここにいるなんて思ってもみないでしょうしねぇ」
「は……?」
いきなりの衝撃発言に、俺は振り向いてついカーミラの両肩を掴んでしまった。
「あらぁ、先生が気になる話だったかしら。良かったらその娘のところまで案内するわよぉ」
俺の反応に驚いた顔をしたカーミラだったが、すぐに妖艶な笑みを浮かべてそう言った。