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19章 想定外  02

 清音ちゃんのお泊り会は翌日の山歩きまでがセットということで、次の日の午前は鍛錬場代わりにしている山の採石場跡地へと来ていた。


 どうもリーララがすでに俺が魔法を使えることを話してしまっていたようなので、清音ちゃんをお姫様抱っこして空を……と思ったらリーララまで俺に抱き着いてきたので、なぜか二人を抱えて空を飛ぶことになった。


 ちなみに昨夜は新しく購入したベッドで寝たわけだが、恐れていた通り右にリーララ左に清音ちゃんという川の字になって寝ることになってしまった。リーララも清音ちゃんも父親的な存在を求めているのだろうと思えばなんてこともないのだが、山城先生に知られたらちょっと問題になる気もしないではない。いやほぼ確実に知られるよなこれ。怒られたらひたすら謝ろう……いやその前に熊上先生に謝り方を聞いておいたほうがいいか?


 そんなことを考えながら数分で採石場跡地へ到着する。


 清音ちゃんは空を飛ぶことに最初めちゃくちゃ驚いていたのだが、俺の腕から下りる時には「もっと飛びたいです!」と言っていた。さすがに子どもは順応の早さが並ではない。


 ともあれリーララの魔法トレーニングをガッツリやっても清音ちゃんには面白くないだろうということで、いくつか魔法を見せたあとは山道を3人で歩くことにした。


 採石場跡地からはもちろん車で麓まで出られるような道もあるのだが、それ以外にも山頂まで続く登山道のようなものが辛うじて残っている。


 清音ちゃんもリーララも、体重の軽さもあってスイスイと斜面を登っていく。今の子ってこういうの楽しいのかちょっと気になったのだが意外と面白がっているようだ。


「清音ちゃんはこういう所に遊びにいったりはあまりしないよね」


「そうですね。おじいちゃんの家に行った時に裏山に登ることはありましたけど、おじいちゃんが足を悪くしてしまったので、それからは山に行くことはなくなりました」


「そっか。お母さんとはお買い物とかに行くことが多いの?」


「はい、お母さんとはお買い物に行くことが多いです。ときどき遊園地とか映画とかにも行きます。先生は行かないんですか?」


「う~ん、さすがに一人で行くところじゃないしね……」


 こういうことを子ども相手に言うのはツラいものがあるな。リーララがニヤケ顔でこっち見てくるし。


「おじさん先生は休みの日に一緒に遊んでくれる人もいないからね~。可哀想すぎてわたしが同情するくらいだし」


「大人はそんなに友達と遊びにいったりしないんだっての」


「オトナなら友達じゃなくてもっと別な感じの一緒に遊びに行く人がいるんじゃないの~?」


 くっ、こめかみグリグリしたいこの笑顔。清音ちゃんが不思議そうな顔をして俺を見てなければ『高速移動』を発動したところだ。


「それじゃお兄ちゃん、私とお母さんと一緒に遊びに行きませんか? 遊園地とか楽しいですよっ」


「いやそれはちょっと難しいかな……。休みの日もやることがないわけじゃないんだよ。授業の準備をしてたりもするしね」


「それなら余計にお母さんと一緒の方がいいんじゃないですか? お母さんが授業のやり方とか相談してるって言ってましたけど」


「うわぁ……。おじさん先生もしかして清音のこと親子で狙ってるワケ?」


 とんでもない罪を捏造しはじめる褐色娘。一方で清音ちゃんはまた不思議そうな顔をする。


「親子で狙う……? なにを狙うんですか?」


「いやそれは……リーララ、お前が言ったんだからお前が答えろ」


「はぁ? そんなの言えるワケないし。あ、もしかしてそういうことわたしに言わせて楽しむカンジ? キモすぎなんですけど~」


「お前は自分が言ったことに責任持て。清音ちゃん、今の言葉は忘れてね。それとリーララはときどきすごく下品なことを言うから気を付けて」


「そうなんですか? お兄ちゃんが言うなら気を付けます」


「ちょっと清音、そこはわたしをかばうところじゃないの?」


「だってリーララちゃんが悪い言葉を使うのは時々あることだし」


「おやおや、リーララさんは信用がないんですねえ」


「はぁ!? おじさん先生には言われたくないから!」


 とか言っているうちに山頂に着いた。里山とはいえ樹木の切れ目から見える街の遠景はなかなかのものがある。


「おじさん先生、わたしちょっとお腹空いたし喉も乾いた。出して」


「お前はもうちょっと目上の人間を敬った言葉を使えよ」


 とは言っても清音ちゃんも同じだろうから、俺は『空間魔法』からペットボトルとお菓子を出す。それを見て清音ちゃんが目をキラキラ輝かせているのが微笑ましい。3人でジュースを飲んでお菓子を食べるとなんとなく楽しい気分になる。勇者パーティの連中とモンスターの死骸が転がる戦場で飯を食ったことを思い出してちょっと涙がでてきてしまった。


「お兄ちゃんどうしたんですか? ちょっと泣いてる……?」


「目にホコリが入っただけだから大丈夫」


「可愛い女の子二人と休日を過ごせて感動してるんでしょ。ホントにしょうがない大人だよね」


「違うわ」


 まあ自分でもなぜ涙が出たのかはよく分からない。懐かしいというよりは、この平和な世界に戻ったことに感激したのかもしれない。でも言うほど平和じゃないんだけど。


 だってほら、また首筋がちょっとチクリとしてるし、リーララも急に真面目な顔になってるし。


「おじさん先生、多分またアレが来たっぽい。わたし行かないと」


「ああ。ただちょっと嫌な感じがするから俺も一緒に行ったほうがいいかもしれないな」


「えっ、どこに行くんですか?」


 清音ちゃんが俺の袖を引っ張る。雰囲気を察してちょっと怖くなってしまったようだ。


「清音に前言ったでしょ、わたしの任務。それをしに行くの」


「それって汚いゴミが空から来るから掃除するってお話のこと?」


「そうそれ」


「でも今お兄ちゃんが嫌な感じがするって。それってリーララちゃんが危ないってことですか?」


「う~ん、そこまでは分からないかな。ただちょっと面倒になりそうかもって感じたんだ」


「えっ、ちょっと怖いです……」


 と言いながら俺の腕をつかむ清音ちゃん。リーララがそれを見て面白くなさそうな顔をする。


「とりあえず行くね」


 リーララは背中に羽を展開すると、ふわりと飛び上がった。全身が光に包まれ、例の魔法少女っぽいコスチュームを身にまとう。


「すごい、リーララちゃんが変身した! カッコいい!」


「でしょ? あ、おじさん先生はそのいやらしい目で見ないでね」


「そんなコスプレに興味ないから。それよりどうしようか、清音ちゃんはいったん部屋まで送ろうかな」


 俺が聞くと、清音ちゃんは首を横に振った。


「リーララちゃんがなにをしてるか見てみたいです。友達なのに大切なこと知らないのは悲しいんです」


「う~ん、かなり驚くし、多分めちゃくちゃ怖いと思うよ」


「でもお兄ちゃんが守ってくれるんですよね? それなら大丈夫です」


「清音ってだんだん遠慮がなくなってるよね。恐ろしい子……」


 リーララが呆れた顔をして肩をすくめる。そうこうしてる間にちょっと首筋のチクチクが強くなってきた。思ったより時間がないっぽいな。


「オーケー、それじゃ一緒に行こうか。ただしこれから見ることは絶対秘密だよ」


「はい! 絶対秘密にします」


「しゃべっても嘘だと思われるだけだけどね~」


 リーララがゆっくりと上昇を始める。


 俺は清音ちゃんを片手で抱え持って『機動』魔法を発動、その後を追った。


 いわゆる『不法魔導廃棄物』の処理だが、リーララはあれからも何度か行ってはいるらしい。ただ今回のは勇者の勘に引っかかるやつだからいつもと違うことになりそうだ。清音ちゃんは相当に驚くことになるかもしれないが……まあ『平静』の魔法をかければ大丈夫だろう。ショックさえ受けなければ子どもの方が順応性は高いしな。

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[一言] 清音ちゃんも魔法少女になって、リーララと組んで ふたりは◻︎リキュア
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