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19章 想定外  01

「今日はよろしくお願いします!」


 俺のアパートの玄関で勢いよく頭を下げるのは、おさげが可愛い初等部の女の子だ。同僚の山城先生の娘さんで俺が勤務する明蘭学園初等部の女子である清音(きよね)ちゃんは、嬉しそうな顔で俺を見上げた。


「いらっしゃい清音ちゃん。とりあえず上がって。かなり狭いけどね」


「はいっ。お邪魔します!」


「おじゃましまーす」


 きれいに靴を揃えて部屋に入ってくる清音ちゃんに続いて、褐色娘のリーララがもはや自分の家みたいな気安さで上がってくる。


 清音ちゃんはリビング兼寝室の部屋に入ると、ベランダに続く窓の方に行って部屋を見回したり外の景色を見たりしている。


 一方でリーララは当たり前のようにベッドに腰掛けてリラックスしている。


 さて、今は金曜の午後6時 。山城先生の頼みで清音ちゃんのお泊まりイベントの主催を頼まれ、そのイベントがまさに始まったところである。


「自分の部屋だと思って過ごしてね」


 と言いつつ、一応ペットボトルなどを冷蔵庫から出したりして応対をする。


「おじさん先生いつもはジュースなんて用意しないクセに清音は特別扱いするんだ。ふ~ん」


「お前はいつも来るからだろ」


「最初の時も何もなかったし」


「不法侵入した奴にジュース出す人間なんていると思うか?」


「はぁ? 寂しいおじさんの相手してあげてるんだからなにかするのが人間として当然なんですど〜」


「先生とリーララちゃんって仲いいんですね」


 見るといつの間にかテーブル脇に正座をして、清音ちゃんが俺をジッと見ていた。口をちょっと尖らせているその顔は、どこか()ねているようにも見える。


「仲がいいんじゃなくて、コイツが勝手に絡んでくるだけだから。清音ちゃんも知ってると思うけど」


「私も絡めば仲よくしてもらえますか?」


「へっ? いや別にコイツみたいにウザ絡みしなくても仲よくするよ?」


「ウザくないように絡みますからよろしくお願いします!」


「おう……?」


 真面目な初等部女子の謎の圧におされる高等部教員。う~ん、青奥寺といい真面目な女の子はプレッシャーが強いな。


「清音はそんなこと言ってるとおじさん先生に襲われちゃうからね。ただでさえ街歩いてると変な目で見られてる時があるんだから注意しないとダメだよ」


「先生は襲われたときに助けてくれたもん。リーララちゃんこそ先生にはムボウビだよね?」


「はあ? わたしはいつもケーカイしてるし」


「警戒してたら一緒のベッドで寝たりしないからね。それにデートの約束とかまでしてるんでしょ」


 二人の会話を聞いてるとなんかもうリーララ全部しゃべってる感じだな。俺としては社会的な死という谷に張られたロープを渡っているようでかなり怖いんですけど。


「まあまあそこまで。まずはご飯を用意しようと思うんだけどお腹は空いてるかな?」


「あっ、お母さんが相羽先生に料理を教わってきなさいって言ってました。よろしくお願いします!」


 清音ちゃんは立ち上がって両手をグーにして力をこめるポーズをする。


 しまった、そんな話を山城先生としていたような気がする。完全に忘れてた。


「あ~、清音ちゃんごめん、夜の分はもう用意しちゃってあるんだ」


「えっ!? そんなあ、すごく楽しみだったのに……」


 一転して泣きそうな顔になる清音ちゃん。罪悪感が半端なくて勇者のヒットポイントがゴリゴリ削られていく。


「あ~っ、おじさん先生清音を泣かせてる! 最低最悪の男だね~っ!」


「いやホントにゴメンっ! 明日の朝は一緒に作ろうね。ピザトーストだけど」


「うぅ……。本当に明日は一緒ですか?」


「ホントホント。一緒に作って一緒に食べようね」


「一緒に作って一緒に食べる……。夫ふ……親子みたいですねっ!」


 ん? 清音ちゃんなんか妙な事を口走ったような……いや気のせいか。でも親子もちょっとアレな気もするな。熊上先生の話じゃないけど実際になることも不可能ではないしな。いや事実上不可能なんだけど。


「う~ん、親子というより兄妹かなあ」


「うわっ、おじさんのクセに清音と兄妹とかありえないし。清音に『お兄ちゃん』とか呼ばせようとしてるんでしょ。ヘンタイすぎ」


「んなわけあるか。清音ちゃん、そういう意味じゃないからね。実は俺にも妹がいるんだけどリーララ並みに可愛げがなくてさ。清音ちゃんみたいな妹がいると嬉しいなって」


「あっ、じゃあ妹になります! 先生のことお兄ちゃんって呼んでいいですか?」


 急にぱあっと嬉しそうな顔になる清音ちゃん。


あれ? 妹になって欲しいって話をしたつもりはなかったんだが……リーララも汚物を見るような目を俺に向けてるし、さすがに山城先生にも怒られそうな気がする。


「いや、まあ、お兄ちゃんはちょっと……。歳の差的にはやっぱりおじさんとかかなあ。もし清音ちゃんのお母さんに弟さんがいたら俺くらいの年だろうしね」


「ええ~、お兄ちゃんって呼びたいです。ずっと憧れてたので」


「あ~そうなの? ん~、じゃあ明日までの限定でってことでどうかな」


「はい! 明日までは先生のことをお兄ちゃんって呼びますね。あっ、じゃあごはんの用意をしましょうお兄ちゃん」


 清音ちゃんはニコニコして妹のロールプレイを始めた。まあおままごとの延長と思えば問題はないか。


 どっちかというと問題はリーララの方だ。なんか明らかに不機嫌になってるし。


「うわぁ……、やっぱりヘンタイだし。いたいけな女の子にお兄ちゃんとか呼ばせて心の中でニヤニヤしてるんでしょ。キモっ」


「だったらお前にもそう呼ぶように強制してるわ。いいからお前も手伝え」


 清音ちゃんとリーララに食器を用意してもらうタイミングで、俺は冷蔵庫から取り出すふりをして『空間魔法』から料理を取り出してテーブルに並べた。一部はレンジで温めて皿に盛りつければ、そこには立派な夕食が出現する。


 ちなみに料理は新良に作ってもらった。今回のお泊り会については、先日の処刑台の件もあってあらかじめ青奥寺や新良には話をしてある。下手に秘密にした方が危険度は増すというのを学んだ結果である。


 しかし料理を前にして、清音ちゃんが俺を尊敬のまなざしで見るのが痛い。さすがにこれを俺が作ったということにはできないよな。作り方を教えてほしいとか言われたら完全に詰むし。


「うわぁ、すごく美味しそうですね。お兄ちゃんは本当にお料理が上手なんですねっ」


「いやまあ、実はこれは店で作ってもらってもってきただけなんだ。俺は料理はあまり上手じゃないんだよ」


「ええっ、そうなんですか?」


「そうそう、今はお店の料理を家に持ってきてもらうとかそういうサービスがあるんだよ。でもそれはお母さんには内緒にしてね。栄養がかたよってるとか怒られちゃうから」


「お母さんお兄ちゃんにそんなこと言ってるんですね。あっ、じゃあお母さんにお弁当作ってもらうのはどうですか? 多分お兄ちゃんの分も作ってくれると思うんですけど」


「いやいやいや、それはダメだから。そういうのは職場ではマズいからね。気持ちは嬉しいけどね」


 山城先生にお弁当を作ってもらうなどそんな(おそ)れ多いことなどできるはずもない。そもそも教え子2人に作ってもらっているというだけでもアウトなのだ。


 そんな感じで清音ちゃんをなだめていると、リーララが「いいから早く食べよっ」と言い出してその話はそこまでになった。


 しかしやはり嘘でごまかすのは限界があるな。リーララも清音ちゃんには魔法を使えることは話をしているみたいだし、俺も魔法くらいは使っているところを見せてもいいのかもしれないなあ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ガンガンくるJS鬼つええ!このままお兄ちゃん社会的に抹殺していこうぜ!
[一言] 親子丼…
[一言] 清音さん、結構な暴走幼女だなw 中々の勢い!!押しが強い!! この勇者、こっち方面では押しに弱そうだからワンチャン!?(お巡りさんこっちです)
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