18章 食い破る者 08
翌日は早朝に合宿所を全員で掃除し、無事合宿は終了した。
昨日の最後の感じだと全員が数段強くなったように見えたので、非常に有意義な合宿だったといえるだろう。どうも影の最強軍団を作ってしまったようにも思えるが、彼女らの身の安全のためであるし教師としては正しいことをしたはずだ。
さてその後は普段通り授業を行っていたのだが、昼休みになって双党が急に早退を申し出て来た。
「九神関連で大きな動きがありそうなのか?」
「はい、情報が入ったそうです。『白狐』も全面協力することになってます」
小動物系女子がいつになく真剣な顔をしているところを見ると、前々から重要な作戦になると伝えられていたようだ。
俺は『生活相談室』に双党を連れていき、そこで『空間魔法』から細長い包みを取り出した。
「『タネガシマ』と『デュランダル』、それからちょっとした武器が入ってる。『デュランダル』は絢斗に渡してやってくれ」
「えっ、いいんですか!?」
「貸すだけだぞ。後で返せ」
「え~、くれたっていいじゃないですかぁ。それともあげる相手はやっぱりお嫁さん候補限定なんですか?」
「なんだそれ」
「だって美園にはあげたんですよね。話によると宇佐さんにもあげたとか。雨乃姉が泣いてましたよっ」
「えぇ……」
そう言えば青奥寺も宇佐さんも昨日『特Ⅰ型』相手に使ってたからな。さすがに魔力が見える子たちには分かってしまうか。しかしお嫁さん候補って……。
「あ~、わかったわかった、後できちんとした形でやるから、今回は貸し出しってことにしとけ」
俺がそう言うと、双党は嬉しそうに笑って俺の胸をポンポンと叩いた。
「約束ですよっ。それと、これで私と絢斗もお嫁さん候補ってことでいいんですよね」
「そういうこと言うなら約束は反故にするぞ」
「あっ嘘です、お嫁さん候補はまた後でいいのでっ。それじゃお借りしますね」
そう言って双党は逃げるように去っていった。
ヘビーな作戦の前なのにあのメンタルは見習うべきところがあるが、さすがに今回はちょっと心配だな。
クゼーロも結構本腰を入れてきているようだし、俺としてももう少しだけフォローを入れておくか。
放課後、俺は久々に定時で上がってアパートへ戻ってきていた。
俺の予想が正しければこの後クゼーロかレグサあたりから連絡なり接触なりがあるはずだ。
ただその前に、俺にはちょっとだけやることがあった。
「え~、おじさん先生がわざわざ呼ぶから期待して来たのに、そういう話はガッカリなんだけどぉ」
今ベッドの上でぶーたれているのはもちろんサイドテール褐色小娘のリーララだ。
スマホで呼び出して来てもらったんだが、用件を伝えると急に不機嫌になったんだよな。というか来たときにやたらと上機嫌だったのも謎ではある。
「いやすまん。というか何を期待してたんだ?」
「別になんでもいいでしょ。少なくともモンスター退治をしてくれとか言われるのは期待してなかったから」
「まあそりゃそうかもしれんが……」
「それにベッドも変わってないし。明日来るんでしょ、清音」
「ああ、そういうことになってる。ベッドは大丈夫だ、『空間魔法』にしまってあるから」
「ふ~ん、それならいいけど。で、さっきの話はどういうこと?」
多少機嫌が戻ったのか、リーララはベッドの上に座り直して聞く体勢に入った。
「ああ、今夜どこかにモンスターが大量出現するはずなんだ。それを見つけたら上空から退治しといて欲しい。多分戦ってる人たちもいると思うんだが、その人たちを援護する感じだな」
「モンスターって青奥寺先輩が倒してる奴でしょ? 大量に出るってどういうこと?」
「モンスターを召喚できる人間がいるんだよ。それが一部『あっちの世界』の連中とつながって悪さしてるんだ」
「ふぅん……。この間船の上で戦った奴らとか?」
「あ~……あの時のモンスターは宇宙人が連れて来たやつだったから微妙に違うが、まあ似たようなもんかもな。『クリムゾントワイライト』って知ってるよな?」
「双党先輩が戦ってる相手だよね。背後にあっちの世界の人間がいるっていう」
「そうそう。そいつらがモンスターを操る技術を手に入れたみたいなんだよ。それでいろいろと面倒なことになっててな」
「要するに双党先輩たちを助けるって感じなわけか。なるほどね~」
と言いつつリーララは顎に手をあてて考える様子をみせた。俺の頼みを引き受けるかどうか悩んでいる……のではなく多分報酬としてなにをねだるかを考えてる顔だな。
「そうだな~、聞いてあげてもいいけど、タダってわけにはいかないよねぇ」
「いつも魔法を教えてるんだからそれでいいだろ」
「アレは休みに予定のない悲しいおじさん先生に付き合ってあげてるだけだし。あ、じゃあ今度一緒にお買い物しよ。それで好きなものを買ってもらうの。どう?」
「休みに教師が生徒とお買い物なんてできるわけないだろ……」
「そんなの魔法でちょっと変装すれば楽勝でしょ。じゃあそれで決まりね」
う~ん、どうもリーララの中ではそれで決定してしまったようだ。まあそこまで大した話でもないし、今回無理を言ってるのは俺の方だからなあ。
「しょうがない、それで頼む。ああそれとモンスター退治の時はくれぐれもお前は姿を見せないようにな。万一ヤバそうなのがいたら逃げろよ」
「そんなのがいるの?」
「ああ、『クリムゾントワイライト』の支部長で見た目怖そうな男がいるんだが、そいつだけはヤバい。お前でも相手にならないからな」
「ふ~ん。分かった、モンスターだけ倒したら撤収する。っていうか、おじさん先生はその場には行かないの?」
「間に合えば行くが、多分先約が入るはずなんだ――」
そこで俺のスマホの呼び出し音が鳴った。着信は未登録の相手からだが、予想通りの相手なのは間違いないだろうな。




