18章 食い破る者 05
トレーニングに熱が入りすぎて、晩飯は少し遅い時間になってしまった。弁当にすればよかったと思ったが、疲れているはずの青奥寺たちはかなり乗り気で厨房に入っていった。料理は別体力なのだろうか、女子のモチベーションがどうなってるのか本当に謎である。
ちなみに九神と宇佐さんも泊まっていくということで、宇佐さんも厨房を手伝いに行ったようだ。お嬢様の九神も皿をだしたりして手伝っているのが面白い。こういったところで普段見られない姿が見られたりするのも合宿の醍醐味だろう。
しばらくしてから食堂のテーブルに並べられたのは、合宿お約束のカレーライスであった。サラダはともかくポテトフライなどもついていてカロリー的にかなり重いのだが……まああれだけ動いたのだから問題はないか。魔力を使うのは相当に体力を消費するからな。
いただきますとともに食べ始めるが、メチャクチャ美味くて軽く感動してしまった。同じ市販のカレールーなのになんでこんなに違うのだろうか。
「ん~、カレーが美味い……」
とつい口に出すと、青奥寺と新良がピクッと反応した。俺の方を見てなんかそわそわしてる感じなんだが……え、なんか褒めて伸ばすを適用しないといけない感じかこれ。
「サラダもきちんと作ると美味いんだな」
と言うと目の前に座っている宇佐さんの眼鏡がキラッと光った気がする。
「カレーにポテトフライって合うな」
とカレーをつけたポテトを頬張っていると、三留間さんがニコッと笑った気がする。
俺がカレーをお代わりすると、双党が横から俺をつついた。
「先生、今日の料理誰がどれを作ったか分かりますか?」
「いやそれは……」
「さすがにわからない」と言おうと思ったが、多分さっきの反応の通りな気がするな。
「カレーは青奥寺と新良、サラダは宇佐さん、ポテトフライは三留間さんだろ」
別に外れてもいいかくらいのつもりで軽く言ったのだが、食堂に妙な緊張が流れた気がする。
「ええ、なんでわかるんですか?」
「それは秘密だ。というか双党はなにしてたんだ?」
「私と絢斗は味見要員だからいいんですぅ~」
と言ってすねる双党。その向こうで雨乃嬢が「うう、胃袋を寝取られた……」とか意味不明なことを言っていて、青奥寺が「師匠、料理の練習をしましょう。私が師匠の師匠になります」などとフォロー(?)をしている。
俺がカレー二皿目に挑み始めると、宇佐さんがコップに水をついでくれながら言った。
「ところで相羽先生、生徒の皆さんはなにか特殊な力を使っていらっしゃるようですが、あれはやはり先生がお教えになったものですか?」
「ええそうですね。魔力という特殊な力を使う技です」
「魔力……ですか?」
「はい。宇佐さんにお渡しした武器に特別な力が宿っているのはお分かりになりますか?」
「分かります。『深淵獣』に効果のある力ですね」
「それが魔力なんです。武器に付与されたものと同じような力を身体から発生させて操る、そういうトレーニングを彼女たちは積んでいます」
俺がそう言うと、宇佐さんはじっと俺を見た。となりに座る九神も興味深そうに俺の顔を見ている。
「その力を……私に教えていただくことは可能でしょうか?」
「時間がかかりますよ。例えばこの双党のように使えるようになるまでに毎日トレーニングをして最低でも一ヶ月半はかかります」
「むしろそんなに短期間で可能なのですか?」
あ、言われてみれば一ヶ月半は短いくらいなのか。そりゃそうだ、未知の力を使えるようになるまでの時間と考えれば逆にメチャクチャ短時間かもしれない。
「ただ人によっては身につかないこともあります。それでよければお教えしますが、ただ宇佐さんもお時間にそれほど自由がないのでは?」
「そこは私がなんとかしますわ。もちろんお礼もいたしますので」
そこで九神が横から割って入ってきた。主人としてもボディーガードに力をつけてもらいたいということか。
「では詳しいことは後ほど相談をしましょう」
という感じで話がまとまったのだが、気付くと青奥寺と新良と双党が白い目で俺を見ていた。
絢斗が呆れ顔、三留間さんが困り顔なのも気になるが、雨乃嬢が「宇佐朱鷺沙、まさかネトラーだったとは……」とか言っているのはもはや完全に意味不明である。
いやまあ顧問が美人メイドさんと妙な約束をしているというのは女子にとっては問題があるように見えるのかもしれないな。あくまで業務上の話みたいなものなんだが。