表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/416

18章 食い破る者  04

「これはどういうことですの?」


 九神が目を丸くして周囲を見回す。


 九神だけでなく、俺と新良以外はだいたい同じ反応だ。双党にいたっては走り回ってあちこちを調べ始めていたりする。


 九神の質問に答えたのは新良だった。


「これは『ラムダ空間封鎖』という、地球で言うと未来の技術。特定空間を切り取って連続させることで対象をその空間に封じることができる」


 という説明だが、残念ながら理解できる人間はゼロだ。


 分かっているのは今俺たちが、道場の床が無限に広がる謎の空間にいるということだけ。消えた天井のかわりに広がる空には極彩色のマーブル模様がうねうねと動いていて、謎空間っぽさをいやがおうにも高めている。


「話には聞いてたけどこれが空間封鎖かあ。さすが璃々緒(りりお)の科学力、意味がわからないねっ」


 調べるのをあきらめたのか、双党が戻ってきて肩をすくめる。


「大切なのはこの空間でならどれだけ暴れても誰にも迷惑がかからないってことだ。さて、この空間はそこまで長い時間はもたないらしいからさっそく始めるぞ」


 俺は『空間魔法』からいくつかの『深淵の雫』を取り出す。こんなこともあろうかと、いくつかを青奥寺家に渡さずにパク……確保しておいたのだ。


 九神にまずは丙型の雫を三つ渡す。


「最初は青奥寺(あおうじ)青納寺(せいのうじ)さん、それと新良だ。準備はいいか?」


「はい」


「大丈夫です」


「問題ありません」


 手に持った木刀を握り直して頷く。普通の得物だとすでに『丙型』は相手にならない3人なので、木刀+魔力硬質化で戦うというトレーニングである。


「では参りますわ。あちらの方に3体呼び出しますわね」


 九神は雫を両手で持ち、胸の前に捧げるようにして持つと、目をつぶって精神集中を始めた。3つの雫がぶるぶると震え出し、表面にひびが入ったように赤い光が走る。


 不意に3つの雫が九神の手から離れ、30メートルほど向こうまでバラバラに飛んでいく。放物線を描いて床に落ちると一瞬だけスライムみたいにべちゃっと広がったあと、6本足のトラ型深淵獣に変化した。


「すごいな、これが召喚か」


「ええ、九神家とその近しい家系にのみ伝わっている技術です。もっとも召喚そのものを使うことはほとんどありません。このようなことに使おうなんて考えるのは先生くらいのものですわ」


 俺と九神が話している間に青奥寺たち3人はそれぞれ別の深淵獣のところに走っていき、そのまま格闘戦を始めた。


 すでにある程度まで『魔力硬質化』をものにしている3人だが、得物が木刀ともなるとそう簡単には丙型は倒せない。弱点を正確に見抜き、弱い部分をピンポイントの魔力で斬る。そんな技術が求められる。


 しばらく見ていると、まず雨乃(あまの)嬢が深淵獣の首を落とし、次いで青奥寺、そして新良の順で討伐を完了した。床に転がる『雫』をそれぞれ拾って俺のところに戻ってくる。近くで見ると多少怪我をしているようだ。さすがにまだ無傷とはいかないか。


三留間(みるま)さん、回復を頼む」


「はいっ、わかりました」


 三留間さんが聖女よろしく回復スキルで怪我を直す。さすがの九神もそれを見て驚いた顔をした。


「話には聞いていましたけれどこれが癒しの力。すばらしいですわね」


「そうだな」


 と言いつつ、3人が持ち帰ってきた『雫』を再度九神に渡す。次は双党と絢斗の番だが……


「宇佐さんも参加されますか?」


 九神の話だと、宇佐さんが勇者の指導を受けたいという話だったはずだ。メイドの宇佐さんは少しビクッとしてから「はい、是非参加させてください」と答えた。


「宇佐さんはご自分の武器を使ってください。ただ俺が渡した奴はちょっと強すぎるので、片方はこれで」


 彼女は前回の戦いで愛用の武器を一本失っており、せっかくなので俺のコレクションから『如意棒(俺命名)』という持ち主に合わせて長さが変わる棍棒を渡してあった。


 ただそれは強力な魔力武器で鍛錬に適さないため、今回は適当な片手棍を『空間魔法』から取り出して宇佐さんに渡す。


「今回は『深淵獣』に対してどう立ち回るか、弱点を突けるかのトレーニングだと思ってください」


「分かりました。ありがとうございます」


 宇佐さんが太ももから得物を出そうとしたので慌てて目を逸らし、今度は双党に小型の盾と片手棍を渡す。このあいだ本部で絢斗の相手をしていた『白狐』の機関員は盾と警棒で戦っていた。恐らく双党も使えるだろう。


「双党も今回は格闘戦な。上手く立ち回って『魔力放出』で倒すように」


「ええ~、私格闘戦は苦手なんですけど」


「苦手だからこそやるんだろ。常に距離を取って銃で戦えると思うな」


「う~、先生のオニ!」


「これもお前のためだ。強くならないといけないんだろ?」


 肩に手を置いてちょっと真面目に言うと、双党はきょとんとした顔をした後、頬を赤くして「やりますよう」と言って離れていった。


 それをちょっとだけ冷ややかな目で見ていた九神だったが、俺が「頼む」と言うと再び『深淵獣』を召喚した。


 絢斗と宇佐さんは躊躇せずにそれぞれの獲物に向かって走っていき、慣れた動きで格闘戦を始めた。双党は遅れて走っていき、おっかなびっくりな感じで戦い始める。とはいえやはり盾と片手棍の格闘は一通り学んでいるらしく、守りに徹しつつも上手く立ち回っている。


 3分ほどで絢斗と宇佐さんは決着がつき、双党も何度目かの『魔力放出』で『深淵獣』を倒すことができた。怪我についてはやはり三留間さんに回復を頼む。


 何度かこれを繰り返すと討伐までのスピードが上がっていく。やはり優秀な生徒たちである。


 三留間さんについても俺が補助をして、『魔力放出』で『深淵獣』を倒す経験を積んでもらった。聖女さんだけに生き物を攻撃することを躊躇するかと思ったが、皆が戦っているのを見ていたためか、まったく容赦なく攻撃するのは少し驚いた。


「よし、じゃあランクを上げるぞ。次は二人一組で『甲型』と戦ってもらう」


「はいっ!」


 ということでこの日は少し遅くまで実戦トレーニングを行った。やはりこの形式だと魔力を使う技術が格段に上がっていくな。明日とあわせてどこまで強化できるか楽しみだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ