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17章 絢斗の秘密 + α  01

「あっ、相羽先生、おはようございます」


 九神危機一髪の翌日、俺が朝学校に向かって歩いていると、後ろから挨拶をしてくる女性がいた。


 栗色の髪を肩のあたりまで下ろしている、目鼻立ちのはっきりした明るい感じの美人、同期の白根 陽登利(ひとり)さんだ。


 白根さんは乗っていた自転車を下りると俺の隣を歩き始めた。


「おはようございます白根先生。朝会うのは珍しいですね」


「いつもは一本早い電車で来るんですよ。今日はちょっと寝坊しちゃって」


「もしかしてまたお疲れですか?」


「ちょっと昨日は遅くまで教材研究をしてて……。最近授業が『今日は上手くいった』っていうことがなくて、このままじゃダメだなって思ってまして」


「はあ、白根先生は真面目ですねえ。自分はもうなんか最近すでに授業は惰性になってる気がしますよ」


「またそんな。そうそう、この間の活躍で相羽先生は中等部でも話題になってましたよ」


「三留間さんから聞きました。でももう下火でしょう?」


「そうですねえ。若い子は情報が移り変わるのが早くて確かにもう話はしてないかも。あ、ただ三留間さんは先生のところで部活をやってるからそれでちょっと話はしてますね」


「彼女はもう健康面では問題ありませんよね?」


「はい、むしろ以前より明るくなった気がします。そのせいで友達からは『やっぱり聖女さんも恋で変わるんだ』とかいじられてますけど」


「ああ、女子はそういうの好きですよね」


 とはいえ彼女が明るくなったのは確かで、そこに何か心理的な変化があったという指摘は鋭いのかもしれない。勇者的には鍛錬して自信がつくと人が変わる説を唱えたいんだが。


 白根さんは一瞬だけジトッとした目で俺を見てから、前を向いて話を続けた。


「そういえば大紋(だいもん)さんも先生のところに通ってるんですよね? 転校してきてからいつも三留間さんと一緒にいるんですけど、彼女ってどんな子なんですか?」


 大紋とは絢斗(あやと)のことだ。白根さんはあまり接点がないのだろう。


「う~ん、とりあえず武術が得意な子ですね。言動は大人っぽい感じですが、ちょっと戦い好きというか、身体を動かすのが好きみたいです」


「見た目通りな感じなんですね。生徒の間ではかっこいいって評判なんですけど、とらえどころがない気がして……」


「それは自分も感じますね。そうか、今回ちょうどいいタイミングか……」


 昨日は突発的な事態とはいえ絢斗の力を借りてしまった。彼女の背後にある機関『白狐』には貸しがあることはあるが、さすがに勝手に力を借りたままではマズいだろう。絢斗については聞きたいこともあるし、『白狐』の東風原(こちはら)所長とコンタクトをとってもいいかもしれないな。




 朝のホームルームが終わった後、俺は双党を廊下に呼んだ。


「どうしたんですか先生?」


「ああすまん。ちょっと絢斗のことで聞きたいことがあるんだ」


 と言うと、双党はちょっとムッとした顔をした。


「いきなり呼びつけて他の女の子の話はひどいと思いますっ」


「なにを言ってるんだお前は」


「えっ、だって先生が私を呼ぶことってあんまりないじゃないですか。せっかく呼ばれてそれじゃガッカリです」


「勝手に意味の分からん期待はするな。それより絢斗のことだが、昨日勝手に連れ出してしまっただろ? さすがに彼女の保護者にも悪いと思うから一度話をした方がいいかなと思ってるんだ」


「ええ~、先生ってそんなに律儀だったんですか? っていうかそれ以前に私の扱いが軽いと思いますっ。私も昨日駆り出されたんですけど」


「お前は青奥寺の手伝いをしただけって扱いな。だからその話は青奥寺にしてくれ」


「ぶ~、そういうこと言うならもう先生の手伝いはしませんっ」


 ぷいと横を向く双党。だが甘い、主導権はまだこちらにあるのだ。


「ほう、じゃあもうゲイボルグは必要ないな」


「あっ、それで絢斗のことですよね! あの子の保護者は東風原所長ですから、そっちに話をすることになると思いますっ」


「ん? 東風原さんの娘さん……な訳はないよな。やっぱり訳ありなのか」


 俺がそう言うと、双党は急に真面目な顔になって頷いた。


「あの子は色々ある子なんですけど、さすがにそれは私からは言えません。所長から話を聞くのがいいと思います。ただどこまで教えてくれるかは分かりませんけど」


「やっぱりそうか……。分かった、放課後本人に当たってみる」


「そうしてください。あっ、それからあんまり不用意に絢斗ちゃんの懐に入って色々しちゃダメですよ。すでに大変なんですから」


 双党がちらっと青奥寺や新良の方を見ながらそんなことを言う。


「大変? やっぱり絢斗にはそんなに重い話があるのか? 分かった、注意しておくわ。ありがとな」


「あ~、たぶん分かってない気がしますけどしょうがないですよね。先生ですから」


 溜息をつきながら諦め顔をする双党。なぜそんな顔をされるのか理解できないが、まだまだ俺は教師としては未熟ということだろう。


 ここのところ勇者業務のほうがメインになっている気もするからなあ。白根さんを見習って精進しなくてはいけないよな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あやとさん、キメラとかクローン的な科学の子なイメージ
[一言] そういうとこやぞ先生、あっちの世界にも被害者多そう
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