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16章 歪みの拡大  03

 放課後は3日ぶりの『総合武術同好会』指導を行う。


 三留間(みるま)さんが俺のところに来て、わざわざ「先生が戻ってきてくれてよかったです」と言ってくれたり、雨乃(あまの)嬢が新良に「璃々緒(りりお)ちゃん、逆寝取りはだめだからね」とか言ってたりしたが、いつも通り魔力トレーニングを行った。


 三留間さんと絢斗(あやと)、そして双党はまず魔力の放出を練習させる。絢斗はすでに実用レベルでものにしているが、まだ魔力の圧縮など課題は多い。三留間さんは護身術の一環となるだろうか。双党はもちろんクリムゾントワイライトとの戦いに役立つだろう。


 一方で青奥寺と雨乃嬢、そして新良は魔力の硬質化の練習をさせる。3人は剣を使うため、その剣に魔力の刃をまとわせるトレーニングだ。実は3人共すでに実用レベルになっているので、あとはひたすら練度を上げ実戦で使うのみではある。


 青奥寺もそう感じているのだろう、魔力を込めた木刀を構えながら


「先生、この技はもう『深淵獣』相手に使っても大丈夫ですか?」


 と言ってきた。


「そうだな、いけるんじゃないか。ただ最初は弱い相手に試せよ」


「分かりました。丙型以下に試します。師匠ももう使えますよね?」


「いけると思う。どれだけの威力になるか楽しみ。ところで相羽先生はこの技は常に使ってる感じですか?」


 雨乃嬢が木刀を振るのをやめて俺のそばに来る。なんか心なしか距離が近いような……。


「ええ。あっちの世界のモンスターはこれがないと斬れないので使うのが当たり前になってますね。ああ、そうか……」


 ここに来て、なぜ俺が普通のミスリルの剣で『深淵獣』を斬れるのかがようやく分かった。俺は常に魔力の刃を使っているからどんな剣でも『深淵獣』が斬れるのは当たり前だったのだ。もはや魔力の扱いが呼吸同然の扱いになっていることに今さらながらに驚く。


「相羽先生、どうしたんですか?」


「いえ、なんでもありません。とにかくこの技が使えれば『深淵獣』に対してより有利に戦えます。期待しててください」


「はい。相羽先生に教わったこの技で『深淵獣』をばったばったと倒します。見ててください!」


 そう言ってさらに近くに寄ってくる雨乃嬢。なんかこの間から明らかに俺に対する態度がおかしいよなあ。青奥寺は「言い聞かせた」と言っていたんだが……。


 青奥寺をちらと見ると、じっと俺のことを睨んでいる。ここで少しでも態度を崩したらすぐさま飛び掛かってきそうな眼光である。リーララの件もあってこれ以上青奥寺にマイナスイメージを持たれるわけにはいかない。だって怖いし。


「え、ええ、頑張ってください。青奥寺もな」


 そう答えて俺は再度三留間さんたちのほうに向かった。雨乃嬢がふらふらとついて来ようとしたのだが、青奥寺がその襟首を強引に引っ張っていって鍛錬を再開させる。しばらくは青奥寺に手綱を握っていてもらうしかなさそうだ。


 その時、俺の首筋にまたチリリ……と妙な感覚が走った。この感じは『深淵窟』出現の前兆かもしれない。俺は『空間魔法』から水晶の形をした魔道具『龍の目』を取り出した。これを使うのは久しぶりだ。


「先生っ、それって何ですかっ!?」


 目ざとい双党が近づいてきて、餌を見つけた小動物みたいな目で水晶球を見つめる。


「これは『龍の目』っていって、遠くの魔力を感知する魔道具だ」


「魔道具っていうと『ゲイボルグ』と同じ?」


「『魔導銃タネガシマ』、な。さて……」


『龍の目』を起動すると、6つの小さな点が水晶の中に表示される。使用者である俺以外の、この場にいる子たちの魔力反応だ。


 そのまま感知範囲を広げていく。半径1キロ、10キロ、20キロ……。


「う~ん、これはちょっとまずいことになるんじゃないか……?」


「なにかあったんですか?」


 双党が俺に身体を寄せてきて、水晶の中を覗き込む。


 他の子たちも鍛錬をやめて近づいてくる。雨乃嬢が双党に対抗するように俺に身体を寄せようとするが、なぜかその場にはすでに三留間さんがいた。まさかブロックしてくれたのだろうか。いや今はそれはいいか。


「どうやら『深淵窟』が3つ同時に発生したみたいだ。しかも反応からしてすぐに開ききってしまう感じだ。ちょっとヤバいかもな」


 俺がぼやくと、闇で戦う系女子5人の間に緊張が走った。さすがにその雰囲気を察してか、『聖女さん』こと三留間さんも俺の手を取って心配そうな顔をするのであった。




「やはりここが一番大きいか」


 俺は今、以前青奥寺と訪れたことのある廃工場に再び足を踏み入れていた。どうやら『深淵窟』というのは基本的に人気のないところにできるようで、現れる場所は限定されるようだ。もっとも今回の『深淵窟』も自然発生のものかどうかはまだ分からないのだが。


 ともあれ廃工場の中はやはりダンジョン化しており、奥から流れ出す魔力はかなり強い。最奥部には間違いなく甲型以上がいる感じだ。


 さて今回、青奥寺家としても前代未聞の状況、しかも早急な対応が必要な事態とあって、あの場にいた人間で対応すると自然と決まってしまった。


 とはいえ『深淵窟』に入れるのは俺と、専門家である青奥寺と雨乃嬢だけである。さすがに双党や絢斗、新良が強いとはいっても、『深淵窟』に突入させるのはためらわれた。そもそも本来なら彼女たちが対応すべきものでもない。


 じゃあどうするのかというと、一か所は俺が単独で攻略、もう一か所は青奥寺・雨乃嬢ペアで攻略してもらい、もう一か所については双党、絢斗、そして新良で出口付近を見張っていてもらう形とした。もちろん双党たちも『深淵窟』から溢れてきた『深淵獣』は倒してもらわないとならない。とはいえそこは『魔導銃タネガシマ』などを貸し与えたので、戦力的には問題ない。困ったのは三留間さんまでがついて来たがったことで、絢斗まで「彼女を参加させてあげてもらえませんか」と言うので、『守りの指輪』を持たせて双党たちに随行させた。彼女は強力な回復役なのでパーティメンバーとしてはアリなのだが……あとで校長には報告が必要だろう。


 そんなわけで、俺はまず目の前の『深淵窟』の最速攻略を開始した。


 『深淵窟』自体は前回と入った時と同じく、工場の内装がそのままダンジョン化した感じであった。次々出現する丙型をすれ違いざまに斬り捨てながら、ところどころの中ボス部屋で乙型甲型を瞬殺していくと30分ほどでボス部屋まで到達した。ほとんど『雫』も回収せずに走って来たからこんなものだろう。


 ボス部屋で現れたのはなんとこの間戦ったグレーターデーモン型の『特Ⅰ型』である。さすがにコイツ相手は青奥寺たちにはまだ早い。俺が来てよかった。


 『魔剣ディアブラ』の不可視斬撃投射で一撃両断して攻略完了。『雫』を回収すると『深淵窟』は消滅した。どうやら自然発生のものだったようだ。


 俺はすぐに外に出て『機動』魔法を発動、すでに暗くなった空に飛び上がり、双党たちのところへと向かった。




 俺が山裾にある木材集積場跡地の上空に着いた時、双党たちは『深淵獣』と交戦中であった。


 6本足のトラ型深淵獣が5匹かたまっていて、『聖剣デュランダル』を手にした絢斗と『タネガシマ』を構えた双党と新良がそれを囲んでいる。


 離れたところに三留間さんがいるが、気丈にもその様子をじっと見ているようだ。


 俺は近くに着地すると、三留間さんが気付いて寄ってきた。


「先生、お疲れさまです」


「遅くなったね。ところでどんな感じ?」


「はい、あの『深淵獣』というのが出てくるのはこれで4回目です。皆さん強くて私の出番はないのですが……まさか知らない所でこんなに恐ろしいことが起こっているなんて驚きました」


「まあそうだよね。俺も最初は驚いたから」


「先生でも? でも私にとっては先生のことが一番の驚きです。まさか空を飛んだり魔法を使ったりするなんて思いませんでした」


 と妙に力を込める三留間さん。


 うん、何かよくわからないけど意外と平気そうだな。『深淵獣』を見てもそこまで怖がってないあたり、見た目と違ってかなり肝の座った娘なのかもしれない。


 そんなことを話しているうちに先ほどの『深淵獣』を片づけた3人が集まってきた。


「先生、一か所は終わったんですねっ。じゃあ次はここに入るんですか?」


 双党が興味津々な顔で、木立の間に開いた『深淵窟』に目を向ける。


「そうだな。さっさと片付けてくるか。悪いが少し待っていてくれ」


「相羽先生、ぜひ僕も参加させてください。こんな面白いことができるチャンスはそんなにないと思うんですよ」


 俺が入り口に向かおうとすると、絢斗がそう言ってついて来ようとする。というか他の3人も普通に後をついて来ようとしてるんだが。


「いやまあ気持は分からないでもないが……」


「この間いいシチュエーションがあったら参加させてくれるって約束したと思いますが?」


 言われてみればそんなことを言った気もする。確かに絢斗レベルが暴れられるシチュエーションなんてそんなにないし、今回の件を逃す手は彼女としてもないだろう。


「分かった。あ~……皆も『深淵窟』体験したい感じか?」


 一応聞いてみると、双党も新良も、そして三留間さんまで力強く頷いている。


「……じゃあ一緒に行くか。そんなに面白くはないと思うから期待はしないようにな」


 今回の件に関しては彼女らには好意で参加してもらってる感じだし、これくらいはさせてやってもバチは当たらないか。今回のイレギュラーを考えたら、今後も協力を頼む可能性はあるしな。

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