15章 → 16章
―― 銀河連邦捜査局 局長室
「……報告は目を通させてもらった。非常に興味深いレポートだった、ネイザリン・ブライト調査官」
「はい。ですがレポートを作成した今でも私は何が起きたのか理解できておりません」
「それはそうだろう。ラムダキャノンの砲弾を３発無効化し、しかも大気圏内から衛星軌道外の戦艦に一撃加えて撤退させるなど、連邦の軍事基地でも不可能に近い。それをたった一人の人間が無手で行ったなど……ふふっ、信じる者がいたらむしろ回復ポッドに直行することを勧めるな」
「しかし調査船の観測では間違いなく起こったことです。その直後の地上の爆発についても……」
「目の前で見たのだろう？」
「はい。レポートに記述した通り、何もない空間からエネルギーが突如発生して着弾。爆発を起こしました。威力は中口径ソリッドラムダキャノン並だと隊員の一人が言っています」
「私もまさかそこまでとは思っていなかったよ。アルマーダ独立判事はとてつもない人物の協力を取り付けたものだ」
「……その、彼は本当にリリオ……アルマーダ独立判事の現地協力者なのですか？ あれほどの力を持つ人間がいる惑星など、本当にあるなら恐ろしい話なのですが……」
「安心したまえ、彼が特別なだけだそうだ。しかし『アンタッチャブル・エンティティ』か。銀河連邦が秘密裏に育成している超人……そんな都市伝説が捜査官レベルでまだ信じられているとは少し驚いたな」
「皆そう信じて疑っておりません。私も局長からお話を聞くまではそう思っていましたので」
「ふっ。まあそう思ってもらったほうが助かるかもしれん。ただ彼が都合よくまた現れると勘違いだけはして欲しくないものだ」
「そうですね。私からもそれとなく皆に言い聞かせるようにします」
「そうしてくれたまえ。ともかく我々としてはこのチャンスに惑星ファーマクーンの怪しげな施設を全面的に調査しなければならん……む、緊急回線か？」
「どうした……ファーマクーンに砲撃？ 研究所付近が？ 砲撃した船は……リードベルム級……『ヴリトラ』か。フィーマクードめ、よほど探られたくない研究をしていたか」
「ライドーバン局長、今のは……？」
「残念ながら例の地下研究所にラムダキャノンが撃ち込まれたようだ。大穴が開いたとのことなので、恐らく研究所自体は消え去ってしまっただろうな」
「そんなことが……。しかし局長」
「ああ、彼はもしかしたらこうなることまで予測していたのかもしれない。しかしフィーマクードも重要な機材がすでに全部接収済みだとは思ってもいないだろう。なんとも愉快な話だが、こちらとしては彼の心遣いを無駄にしないようにせねばならんな」
―― リードベルム級戦闘砲撃艦『ヴリトラ』 中枢区画 統合指揮所
『ソリッドラムダキャノン着弾、ラムダエネルギー解放ヲ確認』
『対象ノ消滅ヲ確認。作戦ノ終了ヲ報告』
「……今度はきちんと作動したようだな。前回なぜ３発ともエネルギー解放が行われなかったのか解析できたか？」
『解析ハ完了。シカシ依然トシテ原因ハ不明。ヤハリ外的要因ニヨルモノト推定』
「あそこにいた船がラムダキャノンを無効化したと？ 連邦の主力艦でも不可能のはずだ。あり得ん」
『状況分析上ハ人間ガ行ッタモノト推定。直後ノ砲撃モ同人間ガ放ッタト観測』
「それこそあり得ん。……ふむ、やはり艦載のアイソレーションAIでは限度があるか。ギルメルト」
「お呼びですか、ボス」
「帰港したら今回のデータと合わせて本部のリンクAIで再解析にかけろ。それと『シード』の入手先の件はどこまで進んだ？」
「実はそのことなんですが、一つ気になったことが」
「なんだ？」
「実はファーマクーンからこの『ヴリトラ』に飛んできた砲撃と、先日『シード』の見つかった未開惑星でウチの強襲揚陸艦を落とした砲撃、エネルギーの質が同じなんでさ」
「なに……？」
「まさかとは思いますが、未開惑星の化物がファーマクーンに来てたなんてことがある可能性もあるんじゃないかと」
「そんな間抜けな話を信じろと……いや、待て。『ヴリトラ』、ファーマクーンにいた二隻の船の内、一隻は連邦捜査局の機動支援ユニットに似ていたと言っていたな？」
「独立判事ニ与エラレル機動支援ユニットトノ一致率ハ98％」
「とすると、その未開惑星に駐在していた独立判事が正体不明の化物を連れて来たというわけか？ 捜査局……ライドーバンめ、そんな手を隠していたとはな」
「ですが研究所も消えましたし、奴の目的も大半は達成できずで終わったんじゃないですかい？」
「だがいくつかの機材は持ちだされたろうな。それでも調査をされるよりはマシだがな。それとジェンゲットの収容場所はつかめたのか？」
「へい。すでに部隊は向かわせてますんで、じきに回収できるかと」
「ならいい。あいつにはまだ働いてもらわんとならん。だがそのためには『シード』が必要だ。未開惑星を取り込む計画を早急に立てて実行する必要がある。正体不明の化物を倒す算段もな。ギルメルト」
「へい、今回のデータと合わせて急ぎ計画を再立案しまさあ。ですが惑星制圧艦隊レベルの作戦となると、準備に時間も金もかかりますぜ」
「連邦評議会が弱腰なうちに終わらせたい。こちらの主力艦隊が消えた隙に連邦に動かれると面倒だ」
「ですな。そこはまた評議会がらみでなにか仕掛けますかい？ それともどこか辺境惑星の一つでも襲って陽動ってのもありですぜ」
「ふん……。今回少しケチがついたからな。気晴らしも必要かもしれん。どこか適当な星を見繕っておけ」
「へい、承知しやした。リストはできてますんで、ボスの気が晴れるようないいところを選定しますわ」
