表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

7 完璧なイケメンは好きですか?





 時は流れ、父が再婚してから4年が経った。

 ヴィクトリアは14歳になっている。現在、王立貴族学園の2年生だ。

 一つ違いの異母妹ミアも今年学園に入学した。ピカピカの1年生である。


 最近のヴィクトリアは【ドアマットヒロイン】になる夢をすっかり諦めていた。

 継母エイダはいまだにヴィクトリアに対して遠慮がちだし、異母妹ミアは、あのまま素直な良い子に育ってしまった……

「さようなら。憧れの【ドアマット】……」


「何だよ、それ? 君は『ドアマット』に憧れてるの?」

 不意に背後から声を掛けられた。

 ここは学園の中庭だ。誰もいないと思って呟いたのに、不覚!

 ベンチに座っていたヴィクトリアが後ろを振り向くと、そこにいたのは同級生の男子生徒だった。

 彼の名はサイラス・エマール。

 この国の筆頭公爵家であるエマール家の三男だ。彼は金髪碧眼の爽やか系イケメンで、頭も良い。成績は入学以来不動の学年トップだ。尚且つ運動神経抜群でスタイルもピカイチ。まだ成長途中の14歳であるにもかかわらず、大方の成人男性よりも背が高く、とにかく足が長い。お尻の形も綺麗だ。おまけに明るい性格で、学園の人気者ときたもんだ。完璧過ぎる。ヴィクトリアが1番嫌いなタイプの男である。彼の全てが鼻につく。けっ、調子乗ってんじゃねぇぞ、ごらぁ!

 

「誰かと思えばサイラス様ですか」

 つい、声が低くなるヴィクトリア。

「私を見てイヤそうな顔をするのは君くらいのものだよ。ヴィー」

「愛称呼びは気持ち悪いのでヤメテくださいませ」

「酷い言い草だな。泣いちゃうぞ?」

 と、泣き真似をするサイラス。

 鬱陶しいったらありゃしない。

「キショっ」

「声に出てるぞ、ヴィー」

「ワザとです」

「アハハ。君といると楽しいな~」

 これは【おもしれ~オンナ】認定だろうか?

 やめてくれ!

 そういうの、ホントに要らないから!


「私に何か御用ですか?」

「私の素敵な婚約者様と親交を深めたくてね」

「はぁ……」

 そうなのだ。

 サイラスはヴィクトリアの婚約者なのである。

 もの凄く不本意ではあるが。


「ヴィーと仲良くなりたいんだ」

 自分が1番カッコよく見える角度を知り尽くしているサイラスは、ベンチに座っているヴィクトリアの右斜め25度前方に立ち、左に30度、下方に15度顔を傾け、そう言った。

 ヴィクトリアも負けじと、自分が1番美しく見える角度に合わせ、ベンチから立ち上がるとサイラスの後方左32.6度に歩み寄り、距離34.7㎝を保ち、上方47.3度の上目遣いで彼を見上げる。

「ノーサンキュですわ。サイラス様」

「ハハ。つれないな」

 と言いながら、頭を搔くサイラス。

 父と違って髪の量が多いな、と思うヴィクトリア(サイラスはまだ14歳です!) 


「……それにしても、私のヴィーは本当に美しい。その上目遣いで『死んでくれ』と言われたら、うっかり死んでしまいそうだ」

 それって自殺教唆? この男は、ヴィクトリアを犯罪者にするつもりなのだろうか?

「サイラス様こそ、嫌味なほどに格好良いではありませんか。その色香で、今までに一体何人の女性をダメにしてしまわれたのかしら?」

「ヴィー。私はまだ14歳だ。女性をダメにした経験など無いよ」

「あら、私としたことが。ごめんあさーせ」

「アハハ。どうしてだろう? ヴィーに何を言われても嬉しい」

「私はサイラス様に何を言われてもイラっとしますわ」

「またまた。冗談だろう? 私の愛しいヴィー」

「オホホ。本当ですわよ(この金髪くそイケメン野郎!)」

 傍から見れば、似た者同士で実にお似合いのカップルなのだが、ヴィクトリアは気付いていない。





 ヴィクトリアとサイラスの婚約が調ったのは、つい1ヶ月前の事である。

 エマール公爵家からバルサン伯爵家に「うちの三男坊をそちらに婿入りさせてくれないか」と打診があり、優秀な婿を探していたヴィクトリアの父が、二つ返事で承諾したのだ。

 ヴィクトリア本人には何の相談も無しにである。

 ヴィクトリアはカチンときたが、貴族令嬢の婚約はほぼ政略であり、各家の当主が勝手に決めるのは普通のことだ。カチンとはきたが。

 それでも相手が自分の好みのタイプであれば「お父様、グッジョブですわ」と父を褒めてあげても良かったのだが、よりにもよって完璧イケメンと名高いサイラスだとは!  


 サイラスとの婚約を告げられた瞬間、もの凄くイヤそうな顔をしたヴィクトリアを見て、父は焦っていたっけ。

「え? え? ヴィクトリア? 嬉しくないのかい? 優秀で見目も良い、あのサイラス君が婿入りしてくれるんだよ? え? まさかのイケメン嫌い!? え~っ!? お前が嫌いなのはピーマンだけだと思っていたよぉ~ん!?」

 父はヴィクトリアを一体幾つだと思っているのか? 

 ヴィクトリアは既に14歳になっているのだ。

 ピーマンくらい(鼻を摘まめば)食べられる。

 だが、完璧イケメンは、その姿を見ただけで胸やけがするのだ。

 

 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ