Beating Hearts 心臓に悪魔を宿した妹はアイドルの劣等生が魔法学校を牛耳る成績優秀者をワンパンした結果、厄介ごとに巻き込まれるようになる物語 インスタント版 1.悪魔の囁き
完成したので投稿
ざまあだけ見たい方は、
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が出てきたら下まで進んでくださればよいかと。
ある程度読むと、もう少しだけざまあ度が上がるのでぜひ読んでください!
「えっ、な、何でですかっ!?」
「何で、って君ねぇ? いくら授業態度は良くてもこの成績じゃねぇ……」
俺の目の前で大げさに肩をすくめる進路指導の先生。
「今度の再試験、ダメなら退学してもらうからね。っとじゃ、もう行ってくれていいから」
俺の後ろの方を見て、顔色を変える先生。
早々に俺との会話を切り上げる。
「いやぁ―待たせたね。悪いね君のような優秀な人間の大切な時間を!」
「いえいいんですよ。……ところであのさえない男は?」
「……失礼しました」
俺は静かに職員室を去った。
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「はあ……。もうやめてもいいんだっけ……」
俺はこぶしを握り締める。悔しいが先生の言うことはもっともだ。自分でもよくわかっている。
俺が今通っている学校はいわゆる普通の学校とは違って、この国に3つしかない魔法を学べる学校だ。
無事に卒業できた者には「魔法を街中で自由に使用する証」が与えられる。
これなしに街中で魔法を使用すると、それが正当防衛と認められる場合を除いて全てが処罰の対象になってしまう。例外はない。
卒業するのも難しい所だと言われていて、だからこそ証を用いた仕事の報酬は破格だ。
……そう、俺にはお金が必要だった。ついこの間までは。
「よ! 見たぜ? あれ、お前の妹なんだって? 今度紹介してくれよ?」
「何言ってんだよ? デビュー直後から瞬く間に新人賞。そんな暇も余裕もないだろ」
この2人はクラスメートだ。ただついこの間まで話したこともなかったので名前は知らない。
「おっとそりゃそうか、失礼しましたお兄様。何とかサインだけでも頂きたいのですが」
「それは俺だってそうだ。俺はデビューしてからずっとファンだったんだ!」
いや、デビューしたのはついこの間だ。ジュニア時代のレッスンやらの苦労も知らないで……。
「ちょっと2人とも、困ってるじゃない、ね? 拳一くん?」
「ああいや、いいんだ。すまない、迷惑をかけた」
この人は向日葵さん、クラスでも面倒見のいい人だ。
ただ本人の成績はあまり良い方ではなく、親のコネで入れたってのがもっぱらの噂だ。
そしてこんな感じだが、俺も会話するようになったのはつい最近だ。
「おいおい向日葵さんよぉ? 何とか兄経由で妹と繋がろうなんてズルい真似するねぇ」
「だ、だってしょうがないじゃない。まさかあの子のお兄さんがこのクラスにいただなんて……」
そりゃそうでしょ。あなた俺の顔知らなかっただろうし。
「いや、けっこー顔似てるよ? 俺はデビュー当時から気付いていたけどね!」
「おっ? だからあの時声かけてたのか!」
「そういうことー。いやーちらっと顔映ってた時はマジびびったね。似てる似てるとは思ってたけど」
「それは私もびっくり。この間妹さんがブログに上げた写真に拳一くんが写ってたんだから。学校中の話題だったんだよ? あれ」
「そうなんだ」
「そうなんだ、ってそんなことないだろ? 校門前に記者が大勢押し掛けたとき、呼び出しくらってたじゃないか」
「まあ、それはそうだけど」
「なーんか冷めてるよな。名前はもっと熱そうな名前してるのに」
「私も思った。妹さんは明るいし、妹さんの話に出てくるお兄さんも明るい方だったからてっきり――」
何かを言いかけて慌てて口をふさぐ仕草を見せる。言いたいことは伝わってるけどね。
「いや、いいんだ。それにもう迷惑をかけることもなくなるだろうし」
「何だどうした? 成績なんてどうにでもなるさ。俺たちはお前にやめられたら困るんだよ!」
バンバン、と背中をたたかれる。
「……やっぱり体、出来上がってるよなー。そいつで強盗をとっちめたんだっけ?」
「たまたまさ」
「そのたまたま居合わせた学校の偉い人の目に留まって試験なしに入学できたってんだから相当なもんだったんだろ?」
「そうだぜ、謙遜は良くないよ、お・に・い・さんっ!」
またしても背中をたたかれる。
全然痛くないわけじゃないんだけどな、これ。
「そうだよ。きっと再試験だって何とかなるよ。だから気にしないで?」
「……ありがと」
思惑のある言葉でも今の俺には嬉しい。
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結局その日は特に何かが起こるわけでもなく。
放課後。
「なんだよ。いつも帰るの速いのな」
「今からちょっと用事があって」
「おーそうか。おつかれー」
俺は急いで教室を出る。
今日もバイトだ。
この町での生活は、最初は妹の為だったけど、それももう必要ない。
そうなってもこの学校に居続けたのは俺の意思だ。
俺は――。
ドンッ
「す、すいません!」
誰かにぶつかってしまったようだ。
考え事をしていた俺が一方的に悪い。なので精一杯謝る。
「……ああ、誰かと思えば昼間の」
――!
姿は見ていないが、この声は。
「君のような無能、さっさとこの学校を去ってもらえないかな?」
「……すいません。急いでいるので」
はやくこの場を立ち去ろう。
「なんだ? この僕が時間を割いてやっているというのにその態度、気に食わないな」
……これ以上関わったら負けだ。それにバイトの時間に遅れる。
「すいませんでした!」
もう一度深くお辞儀をし、この場を立ち去る俺を男は再び呼び止める。
「ここはまだ学校の敷地内だぞ? ……優秀な僕をそこまで無視するというなら仕方がない」
パチンッ!
「君は確か成績不振だったかな? ……今! この場で、僕に勝てたなら、君の再試験を免除するよう取り計らうと約束しよう。審判!」
男の指を鳴らす音にどこからともなく現れた機械が、彼の声に反応する。
「ハイ、成績優秀者特権による特別指導を許可、シマス」
「んん? どうだ、これで君にとっても不都合なことはないが? それでも帰るかね?」
「いや正直バイトの時間に遅れるので申し訳ないですが。俺はあなたのような普通の人とは違うので」
そう、俺のようなカスのことなんて――。
「おい待て! 今のは聞き捨てならないなぁ!? 審判!!」
「ハイ、成績優秀者特権による特別指導の強制発動を許可、シマス」
何かがおかしい。絶妙にかみ合ってない感じがする。
「待ってください! 俺には――」
時間がないんです、とは言い切れずに事態は進行していく。
「だぁーれが『普通の人』だってぇ? あぁ!? いい度胸だな!? さっさと構えろ、審判!!」
「ハイ、成績優秀者特権による特別指導の為のフィールドを展開、シマス」
俺たち二人を包み込むように半円形のドームが出来上がる。
「貴様はどうやら戦闘での実績で入学してきたようだなぁ? 特別に貴様の得意な方法で追試してやろう!!」
「そう言われてもな……」
今の俺にはあの時のような力はない。
あの時、俺の中から聞こえた声はあの一度っきりだ。それ以降はただの一度もない。
「なんだ、その表情は!? いまさら謝っても無駄だぞ? 俺様の試験はもう始まっている!!」
「なんなのこれ!?」
!? どうして向日葵さんがこの中に?
「成績優秀者特権による特別追試、開始シマス」
「ちょっと待ってくれ、彼女がまだ中に――」
「知ったことか! 貴様のみじめな姿を間近で見てもらえるいいチャンスじゃないか……いくぞ!!」
「くそっ!」
やるしかない、か!
「いいぞその目……絶望に染めてやる!」
男の攻撃をかろうじて受け流していく。
俺が使っているのは補助式の肉体強化系。それ以外は戦闘で使えるレベルにはない。
「ふんっ、しぶといな。なら、これでっ!」
突然の突風に足元をすくわれて少し後ろへ後退してしまう。
「あいつが悪いんだからな? あいつのせいで”彼女の”お前は大けがを負う……はぁ!」
!?
「えっ私!?」
あの男、無関係な向日葵さんをわざと狙って攻撃したってのか?
これは俺の追試。彼女は手を出せないだろうと踏んだのだろう。
ッ――。
彼女は俺と同じく劣等生。それにこの状況、とっさに身を守れるかは分からない。
くそっ――。
俺は全力で駆け出す。間に合うかどうかギリギリといったところ。
なるほどあの男、俺が体を何とか入れられる速さで攻撃したのか――。
ドックンッ――。
!!
この感じ、あの時の――。
俺は右手を心臓に当てる。
頼む、もう一度だけ力を貸してくれ――。
――俺っちの力、貸してほしいって?
頼む、時間がないんだ。
――次やったら拳一が耐えられないかもしれないけど?
いいから早く!!
――了解。頼むから耐えてくれよ?
心臓から聞こえる声が全身を包んでいく。
急加速した俺は男の放った気弾を左手ではじき飛ばず。
「何!?」
彼女を男の視線から外す。
「何でもありなんだな、あんた」
「くそっ、舐めた目で見やがって! 俺様は特別な! 選ばれた人間だ! 次はないぞ、はっ!」
半円形のドーム目一杯まで飛び上がり彼女の方に向けて蹴りの体制をとる。
「これで終わりだ」
あいつ、向日葵さんを直接狙うつもりだ。もうなりふり構ってないな。
「出来るだけ身を守るようにして!」
「でも逃げないと!」
「大丈夫。”俺たち”が何とかするから」
しゃがみ込み、力を溜める。
「諦めたか、2人してそこで死ね!!」
男の矢のような蹴りが迫る。
相手の蹴りに合わせて、体全体をバネにして――蹴りこむ!
「なにっ!?」
「はぁーっ!」
受け止めていた片足を伸ばし、そのまま男を蹴り飛ばす。
「ぅがぁ――」
男が半円形のドームに衝突し、周りの景色が揺れる。
「審判、結果は?」
「特別追試合格、デス」
「ありがと。俺この後バイトあるからさ、早くここ、開けてくれないかな?」
「あ、あの」
「カシコマリマシタ」
半円形のドームが消えていく。男はどこかに運ばれていったようだ。
と同時に俺を包んでいたものも消えていく。
「巻き込んじゃってごめんね、それじゃまた」
「え、あっ」
ただでさえ時間を使ってしまったんだ、急がないとな。
ま、これで追試が無くなったんならその分バイトにも入れるし、今日は少しだけついてるかもな。
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