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ホラー

入院中の父から電話がかかってきたが、電波が悪いせいで何を言っているのかわからない

作者: 鞠目

 大学生の時に父が入院した。

 父はかなり厄介な病気だったらしい。手術ができる医者は少ない、近所のかかりつけ医に父はそう言われたそうだ。

 どうしたものかと困っていたある日のこと、母方の親戚の家の近所にある、大きな私立病院にいる先生なら手術ができるということがわかった。その後話はとんとん拍子で進み、翌週にはかかりつけ医に紹介状を書いてもらい、父はすぐに入院した。


 父と私は仲が良くない。いや、仲が悪いわけでもないが、家に一緒にいてもあまり話すことがないのだ。嫌いじゃないが会話に困るので、二人でいるとなんとなく気まずさを感じる。

 さて、そんな私だが父が入院して一週間が過ぎた頃、一度だけお見舞いに行った。親が入院しているのに一度もお見舞い行かないのはどうなんだろう、そう思うとなんだか申し訳ない気持ちになり行くことにしたのだ。

 夏の炎天下の中、私は一人で病院に向かった。母方の親戚の家には何度か行ったことがあったので、病院までは迷わず行くことができた。

 最寄り駅から病院に向かう途中、『◯◯神社まで500m』と書かれた看板があり、私はそれが何故だかすごく気になった。


 前日に手術を終えた父は、私がお見舞いに行くと想像していたよりもかなり元気そうだった。病室に顔を出すと「談話室で話そう」と言って、父は私の前をすたすたと歩いて行った。

 経過観察後、うまくいけば来週にでも退院できそうだと話す父の顔には、どこか安堵した雰囲気を感じた。そんな父から入院食の味が薄いという愚痴を聞き、それから私が大学のゼミの先生の愚痴をいくつか話すとぱたりと会話が続かなくなった。

「わざわざ来てくれてありがとうな」

 気まずさを感じ、飲み物を買いに行こうと誘おうとした時だった。父はそう言って一人病室に戻っていった。すたすたと遠ざかる父の背中は、どこか寂しげに見えた。

 病院から出た私は、気まずい空気から解放されて嬉しかった反面、気の利かない自分が情けなくて、少し悲しい気持ちになった。悲しい気持ちを引きずりながら、どんよりとした気分で駅に向かって歩いていると、また神社の看板が目に入った。

 最初は真っ直ぐ帰るつもりだった。でも、看板が気になった私は神社に行ってみることにした。『次の角を右へ』『100m直進』など、次々と出てくる案内看板に従って歩いていくと無事に神社にたどり着いた。赤くて立派な鳥居が目立つ神社、そのすぐ後ろは木々が鬱蒼とした山になっていた。

 神社の中に入ろうとした時、今度はすぐ側の電柱にもたれかかっていた、『◯◯寺まで500m』と書かれた看板が目に入った。理由はよくわからない。でも、私はお寺のことが気になって仕方がなかった。少し悩んだ挙句、私は鳥居をくぐるのをやめてお寺に向かうことにした。


 看板に従って歩くうちに、気がつけば私は山の中にいた。山と言っても道路は舗装されているし、道幅も二車線分ぐらいある。唯一気になるのは誰も人がいないということだった。

 ぽつぽつと家はある。家の前には車も止まっている。郵便ポストもあるし、商店らしき建物もある。なのにどこにも人の気配がない。寺に着けば誰かいるだろう、私はそう思い歩き続けたが、寺に着いても誰もいなかった。

 引き返そうかと思った時だ。『この先、国有林』と書かれた看板が目に入った。またもや理由はわからない、でも、看板を見た瞬間、私はまた看板が示した場所に行かなければいけないと思った。少し悩みはしたものの、私は再び看板に従い国有林を目指して足を踏み出すことにした。

 そんな時だ、ポケットの中の携帯が鳴った。画面を見ると父からだった。


「か……こ……」

 山の中で電波が悪いのか、父の声はかなり途切れ途切れにしか聞こえない。

「お父さん? どうしたの?」

「は…………え……こい」

「は……くかえ……こい」

 私は「帰ってこい」と言われていると気づきはっとした。周りには誰もいないはずなのに、突然身体中突き刺さるような視線を感じた。私は電話を切ると来た道を全速力で走った。


 山道を抜け、神社の前を通り、開けた場所に出るまで走り続けた。駅の近くまで出て来て安心した私は、やっと走るのをやめた。息が整うのを待ってから携帯を見た。すると何故か着信履歴に父の番号はなかった。不思議に思った私は父に電話をかけてみたが、いっこうに電話は繋がらなかった。

 不安になった私は、慌てて病院に戻ることにした。何かあったらどうしよう、不安になった私は父の病室へ急いだ。でも、私の心配を他所に父はベッドの上で気持ちよさそうに寝ていた。


 寝ている父を起こすかどうか悩んだけれど、電話のことが気になった私は父を起こして電話の件を聞いてみた。

「電話なんてかけてないぞ。そもそも病院だから携帯の電源は切ったままだし」

 そう言う父は不思議そうな顔をしていた。それでも納得ができなかった私は、念のため父の携帯を見せてもらったがそこに発信履歴はなかった。


 父は私がお見舞いに行った翌週に無事に退院した。だから、父が入院した病院にはお見舞い以来行っていないし、母方の親戚の家にも、あの出来事があってから今もずっと足が遠のいたままである。


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― 新着の感想 ―
[一言] ヤバい存在に呼び寄せられて、別のヤバい存在に引き戻された感じですね〜。 引き戻してくれたのはご先祖の霊かなにかかな? 個人的に、家や車が普通にあったり、道が舗装されてたのがよかったです。 日…
[良い点]  ガチで洒落怖案件やないですかーいいなー(何  携帯電話はきっと守護霊の方に違いない。  身内でも肉親でもソリが合わなかったり相性最悪の人は居ますし逆もまた然り。  そんなに気に病む必要…
[良い点] 鞠目さんのお父さん、容態が急変してなくて良かった。 [一言] こんにちは。 通信機器って、時々妙なイタズラしますよね。 自分はスマホからってのはありませんが、ナビに騙されて変な場所へ案内…
2023/02/07 12:49 退会済み
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