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必要な警備と必要な装備


 メモ用紙、タイプ用紙、インクリボン、魔石。普通のリボン、ロープ、ナイフ、布。それから服に資料と、資料を入れるフォルダ2つ、髭剃り用具、石鹸。

 消費したものを購入しに行くたびに、店の面々から「おっ!お前にもついに彼女ができたのか!」と言われるので、アルゴは気が滅入っていた。


「いちいち言われるってのも精神に来る……そんなに女っ気がないってのかよ」

「まあまあ、そう気を落とさないでくださいよ……」


 一応エルは育ちに応じて見た目は整っているから悪い気はしないが、それはそれとして独り身をついに!なんて風に思われるのが面倒くさい。


 それに自室を質に取られて仕事をしなければぶっ壊すと言われているようなものなので、このあとやるべき作業で彼は頭がいっぱい。弓を引いているときに虫がやってきて気が散るような腹が立つような気分だ————彼は最後の買い物をするために、ロンバード通りを下って行った。



「後は……ここだが、さすがに君を連れていくわけにはいかないと思うんだ」


 アルゴは鬱蒼としたツタと植物で囲まれた路地を示し、後は家で待ってくれないかと続ける。


「どうしてです?ついていけないような場所があるのなら、これからの取材でも手伝えないじゃないですか」

「そうだが、しかし…………」

「見た目には怖いですが、これもさっきのチョコレートでしょう。見てみるまではわからないじゃないですか!」


 いや、見た目がチョコレートでも中身がセミのときだってあるだろう?


そう言いたかったが、よく考えなくても自分が言ったことだ、それについての責任は自分で取らないといけないか。


「……わかった、じゃあ我が助手よ」


 細かいことを教えたら、余計な先入観が入ってしまうからな。


「なら、俺が扉を開けると同時に、しゃがんではくれないか?」


「…………?はい、いいですけど」

「わかったな?絶対だぞ?」


 彼はそれからさらに二度念押しすると、深呼吸をして胸ポケットに手を当てた。


 それからドアノブをしっかりとつかんで回し、錠が落ちたことを確認してから、声を出す。


「じゃあ、行くぞ…………3、2、1!」


 引き開けると、ほんの一瞬前に彼の頭があったところめがけて斧が飛び出した。鎖でつながっている斧はブーメランのように弧を描き、石畳に弾かれる。

 エルの身体を飛び越したのを横目で確認したら、アルゴはマギア・リボルバーを引き出して二発を発射し、家の中にある的の真ん中に命中、前転して足元のワイヤーを抜けて、残りの四発を周囲のオートマタへ。


 ご丁寧に腹と心臓に的を描いてあるそれらは、綺麗にインクをばらまいて機能を停止、倒れこむ。

 ちょうど六発。


 蒼く光る眼で彼は奥から人がやってくるのを確認して、マナ・リキッドとキャップを使い切ったなとガンスピン。


「お見事。このやり方は……マドリニオ君!」


 少しずつアルゴから光が失われていき、普通の状態に戻ったならば、彼はまた切り抜けられたなと息を吐いて、銀貨を投げつける。


「毎回思うけどさ、こんな面倒なトラップ仕掛けてまで守りたい店かね、ここは」

「君みたいな腕利きばかり集められるんだから、もちろんのことだよ」


 顔に放られた銀貨を受け止めた、メガネをかけた白シャツの青年は、後ろでうずくまっているエルを見つける。


「おや、君にもついに恋人かい?」

「それ、もう何回も聞いたよ」

「……今日もいつもの通りに最後か。鮮度いい方がいいけどさ」


 もう大丈夫だとアルゴは言って、エルを店の中に案内した。


 一体何の店なんです?こんなことをするところは?そう真っ当な質問をするので、彼は店主のローラン・ガリオを軽く説明する。


 顔なじみのの店主。自分でも何回か死にかけながらトラップを作り続ける狂人でありながら、同時にウルミド一の戦闘魔導使いでもある————先の大戦ではそれで軍を一つ救ったと言われるほどであり、その功績と退職金でこの好き勝手な生活を送っている、やっぱり頭のイカれた狂人。


「僕としては狂人と言われるのはうれしくないんだがね…………好きなことを突き詰めていただけだよ、猫どころか悪魔をも殺すくらい」


 当人は不服そうに申し立てた。


「斧は刺さらないように逆防護と衝撃吸収魔導、ワイヤーでつながる落とし穴も同じく、オートマタは全部寸止め。タネは知っているが、誰がやってくるんだよ、こんな店に。紹介ないと基本はお前追い出すじゃねえか」

「紹介ナシで対応できるくらいの人間じゃないと、武器を扱う資格なんてないね」


 そしてローランは珍しく、武器を出さなかったエルに手を差し伸べる。普通は対処できない人間は放っておくはずなのにと思ったが、よく見れば鎖が球状に歪んで伸びていた。


「そこんところで言うと、君の彼女さんは合格かな」


 防壁魔導を張ったというわけか。

 アルゴは存外やるじゃないかと、連れてこられるエルを見た。


「マドリニオさんとは恋人じゃなく、助手にしかなった覚えはないんですけどね…………ともあれ、これからはよろしくお願いします」


 太陽のようではないが、確かに光を持つ星のように、彼女は微笑んでいた。



「それで、今日は何をお買い求めだい?パーシー&ミーガンズのダブルアクション?それともJBのガバナー?それとも…………」


 ローランは後ろを向いて、パチンを左指を鳴らして手を開く。アームがぐにゅりと奥からやってきて、折りたためばコートの下に入りそうな連射式を持ち出してくる。


「タイプ・キル・マシーンかい?」


 それを見たエルは、驚きの声をあげた。


「ちょ、ちょっと待ってください!それ少し前にギャングが使うからって禁止になったロールガンじゃ…………!」

「おおっといけない」


 彼は人差し指を伸ばし、エルの顔に平行につきつける。


「ここで売っているのはあくまで全部合法の品。ちょっと構造が似ているだけのレアものなだけだよ————決して初期型のロールガンなんかじゃない。ましてやソウドオフだのなんて扱っていない、いいね?」


 その後ろでは単語が示すものが、10、20と並んでいた。


 僅かにひきつった顔でエルが横を向き、アルゴに耳打ちする。


「良いんですか?この店割とアウトなんじゃ?」


 彼は別に隠す意味もあるまいと、普通に答える。


「表向きはライセンスあるから問題はない。つーかだから店先のトラップだよ……アホな闖入者を門前払いするための装置さ。それに」


 銃を取り出したのとは逆のポケットから彼は手帳を取り出して、挟まっている一枚のカードを取り出す。紙幣以上に偽造防止テクノロジーの詰まったそれは、魔力を流し込めばマグマのように光る。


「これを持ってないやつが入って来た時だけ、罠は作動するのさ。それももっとヤバイ方が————だから俺がいないと、嬢ちゃんは死んでたかもな、はっは」

「笑い事じゃないじゃないですか!」


 アルゴのようにローランも笑う。


「まあ細かいことは置いておくよ。いつものマナ・リキッドと交換のシリンダーだろ?」


 そして彼はカウンターから、フルートのない円柱を5つ、スキットルを2つ取り出し、ついでに彼の名前で書いてある領収書を置く。


「もう用意してあるか」

「毎回君は愛情のない使い方してくれるからねぇ。普通は破裂するまで使わないんだよ?そうなったらおててが死んじゃうんだから」

「そこまでできるのは信頼の証と見てくれたまへ」


 アルゴは肩をすくめた。


「わかった。んでもって今日はもう一丁いるんだろう?」


 そして用意しておかなければと思っていた新しい買い物を、見透かされたので述べるのだった。



「この嬢ちゃん……エル・シュテリニって言うんだがな、この子の分の自衛のを一つ二つ見繕ってほしいんだ。まだガンはライセンス取れないから、法的にフォールションくらいの位置のやつで」


「なんかの間違いで飛んじゃうナイフくらい、か。了解」


 そしてエルを見せの奥へと押し込んでローランに任せ、彼はゴースト・スモークを一つ取りだす。先をパキッと折ると、煙草のような煙が出て吸えるというものだ————火器厳禁の場所でも使えるようになっているので、常備しているもの。


「練習はライト・サバイバルのラーでいいか…………魔導適性前提とはいえ、ライターとは変わらないし」


 何を持たされることになるやら。

 存在しない煙を吸ってはいて、魔力の流れを風に感じて、彼は店の奥から聞こえてくる試射と魔導回路と導通の音を聞きながら、昔連れられた時のことを思い出す。あの時は確か、14だったか。


 鐘が5度響いた。まだしばらく余裕はある。出世払いでキャブでも借りるかな。

 どうせだったらと愛銃を分解し、彼はゆっくりと時を過ごした。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


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何をどう入れてくれても構いません。


ブックマークも頂けると嬉しいです。


繰り返し、読んでいただきありがとうございました。

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