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25、光一の課題

日は流れていった。

事件後、光一らは精霊のいなくなったパソコンを、こっそり英才ゼミナールに返しに行った。

総本塾長は、インターネットを通じて全世界を騒がした張本人として逮捕された。しかし、そのコンピューターに関する知識は、どう考えてもお粗末なものでしかなく、おまけに、パソコンの精霊だの、白い鳥に変身する少女など・・妙なことばかり言い続けるので、容疑は確定されずに精神科の病院に入院させられた。

警察は、塾の他の職員も調べてみたらしいが、当然のことながら、天才的ハッカーらしい人物は浮かび上がってこなかった。こうして世界を揺るがした大事件は、うやむやのままにニュースから消えていった。


結局、英才ゼミナールは、事件のことで信用をなくしてしまい、さらに、あまりにも金を遣い過ぎたので建て直しがきかずに潰れてしまった。

信二はめでたく退院し、塾に通っていた生徒たちには、明るい笑顔が戻った。


大事件を解決した後だったが、塾に記録されていた光一らのデータは総て削除済みになっていたし、なにせ世間には公表しない【精霊密使】の仕事のために、光一自身の生活には大きな変化はなかった。

勉は、地底霊のエキスを飲んだ日の活躍ぶりが皆の目に焼きついて、一目置かれるようになっていた。「宇宙人」というあだ名は、尊敬を込めて呼ばれるようになった。

清水先生は、当たり前だが、以前と同様に先生らしく授業を教えた。放課後や、誰もいない場面では、光一らに秘密の話を教えてくれたが、皆のいる場面では、かえって厳しくなったようでもある。光一はひかりの昔のことを話したが、驚くことはなかった。先生も本人から聞いて知っていたのだ。


ひかりはといえば、言葉遣いはおかしなままだったが、人との間の見えない垣根のようなものがなくなり、より人気が高まっていた。音楽の先生に惚れ込まれ、冬休み前の生徒集会で横笛のソロ演奏をする予定になっている。その美しい調べには、踊りだしたくなるような陽気なリズムも刻まれるようになった。

清水探偵は、毎朝、光一の前に現れてはじゃれついた。人間であったなら既に五十才を過ぎたおじさんである。光一はあきれを越えて感心するようにもなっていた。


そんな清水探偵だったが、事件が解決して三日後の朝に、一度だけ妙なことを話した。

「一枚の蔦の葉が、苦しみの赤色に染まっている」

「え、先生は何もいってないよ」

「昼間、学校がある時間しか見えないので絵里子は知らない。しかし、この問題にわしは手を出さない。なぜなら解決の行き末は、坊やが決めることだからだ」

謎かけのような言葉を残して、清水探偵は離れていった。次の日からは、いつものおふざけがはじまった。


『清水探偵は何を言いたかったのか・・』

しばらく考え込んだ光一は、はたと気が付いた。

先生の家の蔦の中央情報センターが反応できるのは、家の外にいる精霊のことについてである。もし、精霊が苦しんでいても、あの家の中にいる時は、蔦の葉には何の変化も起こらない。


「ひかりちゃんが苦しんでいるんだ」

その日から光一の心に雲が張り出した。ひかりの笑顔を見る度に、その雲は厚くなっていった。







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