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15、過去の断片

【気持ちはエネルギーを持つ。強い願いは、精霊さえ産み出す】

清水先生はそう言った。ならば、


『精霊である彼女に活力を与えるもの・・どうか・・どうか・・』

静まり返った病室で、光一は目を閉じた。

ひかりを救う不思議なエネルギーが集結することをひたすら願った。


・・三日月谷みかづきだにの姫よ・・

唐突に声が聞こえた。


・・天に風雨雷ふううらいをまねく黄金玉おうごんぎょくの納所、青蛇せいじゃの剣、我はこの手に携えた・・

声と共に唇が小さく震えた。そう、声の出所は光一の口だった。

目を開けると、ひかりを抱きかかえた自分の腕が、青白い光を帯びていた。


視界のすみに、白い着物に身を包んだ女性の姿が映った。遠くにいるのか、かなり小さい。映像はひどく揺れている。女性の周囲には稲光が激しく光り、土砂降どしゃぶりりの雨が降っている。


・・そなたの祈りは天に通じ、恵みの雨をもたらした。さあ、もうよい。雷に魂を重ねてしまう前に、この剣に玉を納めるのだ・・


心の奥で誰かが叫んでいた。同時に光一の口は細かく動き、その叫びをささやき声でもらしていた。


『これは僕が作り出したものじゃない・・誰かの記憶・・』

光一は悟った気がした。彼は、今、自分に宿っている何者かが体験した映像を見つめているのだ。


遠くに見えていた女性の映像が近づいてきた。

日本人形のような白い肌と整った顔立ち。ひかりだ。荒れ狂う川に突き出した岩に、一人立って横笛を吹いている。彼女の前にある小さな台座には、フラッシュライトのように輝く玉が置かれている。


・・あと僅かで行き着く。姫よ、時を持ちこたえよ。あっ!・・

目の前にまばゆい光の柱が立った。と次の瞬間、急に幕が降ろされたようにひかりの姿が消えた。

「う!」

左手に激しい痛みを感じた。光一の腕の青白い光が、抱きかかえたひかりの細い体に移ったように見えた。光一と一緒にいた誰かは、既に気配を消していた。


「・・」

ひかりの体に力が入った。額の切れ目がわずかに開き、中から光が漏れている。

「この場で力を使うことは、多大な霊力を消耗いたします。おそらくは、我が力の流れを遮断する床のせい。それにしても私は、光一殿によって力を取り戻した。一体、いかなる方法にて?」


ひかりに力を与えたのは光一ではない。彼に宿った誰かが、体を介して、ひかりに力を流し込んだのだ。

そしてやはり、ひかりは元々は人間だった。しかし、雨乞いの祈りの果てに、雷と魂を重ねてしまったのだ。「誰か」がもう少し早く、玉を納める剣を届けられていれば、ひかりは精霊にはならなかったのだ。彼女の前に置かれていた眩しく輝く玉…それは、今、彼女の額にはまっている雷光の瞳に違いない。


「ひかりちゃん、いや・・」

光一は言葉を切り、首を振った。今見た映像の内容を話せば、以前、放課後にあった時以上に、ひかりの心は混乱してしまうだろう。

『いつか、落ち着いたときに話そう。彼女は元は人間で、そのことをよく知っている人のエネルギー体、精霊のようなものが、この世に残っていた。あるいは今も何処かにあるかも知れないということを・・』


「どうなされた光一殿」

「いや、本当に良かった。本当に」

支えていた華奢きゃしゃで柔らかい体から、光一はそっと手を離した。






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