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兄弟と、兄妹 2

 

 ※



 世界には基礎となる五大元素、火、水、地、風、(くう)がある。元素の神力(しんりょく)が色濃く出ると、それは髪色に現れる。色濃く出るのが珍しいため、一般的には殆どが茶髪として生まれてくるが、それでも神力がないわけではないので簡単な神術(しんじゅつ)くらいであれば扱える。

 しかし、生まれつき神力を持たずして生まれた者や、なんらかの理由で神力を無くした者は白髪になる。珍しいその髪は一部の愛好家から特に好まれる為、高値で売れるとも聞く。

 そしてそれは、ゼロにとっても例外ではなく。



「お、そこの兄ちゃん!今日こそ髪売ってくれよ!」

「いやいや、アタシんとこだよぉ!そうだろう?」

 町に入ってからはずっとこうである。ゼロも慣れたもので「次髪切る時な」や「ハゲちまうから勘弁してくれ」など流している。民もわかっているのだろう、あまりしつこくは言い寄ってはこない。それで痛い目にあったことがあるのかもしれないと考え、町では、自分よりやはりゼロのほうが目立つのだなと改めて感じた。

「どこへ向かっている?」

 ゼロは剣を指差し、それからハヤトの銃も見ながら

「整備。一応、馴染みの店あるからさ。ハヤトも覚えといたほうがいいだろ?」

 確かにそうだと頷く。昨日は気づかなかったが、ゼロの剣も神機(しんき)らしい。神力のないゼロにとって、自分の銃くらいは大事なものなのだろう。



 活気のあった通りを抜けると、居住区がある。中心にサガレリエットの城があり、それを囲むように居住区、そして商業区がある。ちょうど昼時だからか、漂う香りはどこも美味しそうだ。しかし通りには人影が見当たらない。ハヤトは疑問を持ちつつもついていく。

 そのうちのひとつ、あまり豪華とは言えない家の前でゼロは立ち止まり、門についている鐘を鳴らした。しばらく待つと、家の中から返事があり扉が静かに開けられた。

「はーい、どなたでしょうか?」

 背丈は100センチほどだろうか。子供といっても過言ではない少女だが、その手には似合わないスパナと、立派なゴーグルが、少女が子供ではないことを示していた。

 彼女はゼロを確認すると、小さく「あ」と呟き、先ほどのきょとんとした顔はどこへやら。急にゼロを睨むと勢いよく扉を閉めてしまった。

「閉めんなよ、サナちゃん。せっかく来たんだぜー」

 招かれてもいないのに門を開けると、今度は扉を開けようと手をかけるが、鍵をかけられたらしく、扉はうんともすんとも言わなかった。

「ライビッツ、何しに来たのさ!この間壊したばっかなのにまた来たの!?」

 サナ、とゼロが呼んだ彼女の言葉を察するに、神機(しんき)を壊しては修理ばかりしているのだろう。どれだけ扱いが雑かがよくわかる。

 ハヤトも神機(しんき)を持つ以上わかるが、神機(しんき)を造る側からすると、扱いが雑な持ち主はとても嫌われる。それは神機(しんき)を使う側としても、雑な持ち主は好まれたものではない。

「違うってサナちゃん。今日はお客さんの紹介。オレのじゃないって」

 町に来たのは整備の為とか言ってなかったかとハヤトは思うが、この空気でそれを言うほどハヤトも経験不足ではなかった。ただ、冷たい視線だけをゼロに投げておくことにする。

「……わかった、入ればいいよ」

 渋々招いてくれた彼女に、心からの感謝と、そして自分をダシに使ったゼロへ呆れを持ちながら、ハヤトも家へと入っていった。




 家の中には、女性的な家具などは少なく、むしろ神機(しんき)を整備するための大きな机。さらに上に散らかったままの工具たちが、サナの性格を表しているかのようだ。

 一応客人が来た時用なのか、隅のほうに心ばかりのテーブルとソファがある。そこで少し待っていると、カップを3つ乗せたトレイを持ってサナが戻ってきた。

「やっぱりライビッツのやんか。この嘘つき、アホ」

 ことりと置いたカップの中身が、ゼロの分だけ少ないように感じるのは気のせいだろう。

「まぁまぁサナちゃん。確かにオレのだけど、ハヤトもこれから世話になると思うし、嘘は言ってないだろ?」

 嘘だと思う、とは言わないが、ハヤトは出されたカップに口をつけつつゼロを横目で見た。2人のやり取りから察するに、ここに通い続けてそれなりに長いのだろう。自分が口を挟む必要はどこにもない。

「あ、ハヤト、さんだっけ?」

「ハヤトで構わない」

「うん、じゃハヤト。さっき見せてもらった神機(しんき)なんだけど……」

 サナは興奮を隠しきれないのか、頬が微かに紅い。いきなり机をバンと叩かれ、衝撃でゼロのカップがぐらりと傾く。少なくてよかったのかもしれない。

「これ、オリジナルだよね!?てかハヤトはなんで神機使ってんの!?神術(しんじゅつ)使えるよね!?」

 なんだろう、めんどくさい。

 顔に思いっきり出したつもりだが、サナの興奮の前では殆ど意味がなかったらしい。話を聞きたくて仕方ないと言っているようだ。これだから西(ウェス)の技術者は……と渋々答えようとすると、

「ねぇサナちゃん、最近恐慌派はどんな感じ?」

 割って入ったゼロに若干不思議がりながらも、サナは顎に手をやり、少し考えた後、ふるふると首を横に振った。

「変わってないよ。いや、んー、むしろ高揚してるかも。もうすぐ王女様が神生(しんせい)の儀を迎えるからね」

 神生の儀。ハヤトもそれは聞いたことがある。



 中央大地(セントラルガイア)の女性の王族は15歳の誕生日を迎えると、神女(みこ)としての力を授かる。その為の儀式が神生の儀だ。どのような儀式かというのは、立ち会う王族と、数人の騎士ぐらいしか知らない。



 伝統的な由緒ある儀式が開かれるとあれば、町は賑わっていてもおかしくないはずだが、ここに来るまでそのような空気はどこにもなかった。人が歩いている様子すらない。

「恐慌派は焦ってるの。神生の儀が近いというのに、儀式に必要な何かがないらしくて。それを探すために」

 そこまで話して、サナは慌てたように周囲を見渡す。顔色もあまり良いとは言えない姿に、さすがにハヤトもおかしいと感じ声をかけようとした時だった。

 外からけたたましい鐘の()と、女子供の悲鳴。続く激しい男の怒声。入り交じるそれらは、明らかに日常のそれとはかけ離れていた。

「サナちゃん、神機(しんき)どれくらいにできる?」

「え?えっと、3日くらい、かな……」

 おどおどと答えるサナに「サンクス」と笑いかけたゼロは、次にハヤトに扉を示し

「多分、恐慌派が来てる。会わずに帰れるといいけど、無理そうならどうにかして帰ろう」

 いつものゼロらしく軽く言ってはいるが、その表情は固く、ハヤトは黙って頷くしかなかった。大事そうに神機を抱えるサナに、手だけで挨拶を軽くすると、裏口へと向かっていった。



 ※



 扉を蹴破って入ってきた茶髪の少年2人組は、その家の娘であろう幼い少女の首にナイフを突きつけていた。母親が「やめてください」と必死に請うが、2人がそれを聞き入れる様子はない。背が高く、腰まである髪をゆるくひとつにまとめた少年がにやりと笑う。

「かわいそうになぁ。王女サマから反感もらっちまってなぁ。可愛く生まれちまったからしょーがねぇよなぁ?」

 ナイフの先を少女の頬に当てると、栓が切れたかのように、さらに少女は泣き叫んだ。もう一人の少年がうるさそうに耳を塞ぎつつ、長い前髪の間から母親を睨み付ける。

「ねぇ、この煩いの、どうすれば静かになるか知ってる?」

 母親は何かを悟ったらしく、真っ青になった後、床に頭をこすりつけさらに許しの言葉を吐き続ける。そんな母親を、長髪の少年は蹴飛ばし唾を吐きかけて嘲笑う。

「そんなんしてさぁ、どうにかなると思ってる?本気で?」

 母親は動くことができず、小さくうめき声を上げながらも、微かにその口からは同じ言葉を呟いている。

「……ショウ兄さん、もうつまらないよ。あれ、同じことしか言わなくなった」

 あれ、と母親を指差しながらつまらなさそうに、前髪の長い少年は欠伸をする。ショウと呼ばれた長髪の少年は、ナイフで少女の腕を軽く切りつける。少女が悲鳴をあげると、さらに楽しげに高笑いをした。

「こっちは遊べるぞぉ。ケルン、お前もやるかぁ?」

「やだ。それ煩い」

 前髪の長い少年ーーケルンは、ため息と共に隅にうずくまる母親の元に行くと、しゃがみこみ、髪を鷲掴みにし無理矢理顔を上げさせた。母親の片目は潰れてしまい、残る右目がショウの元にいる娘を捉える。

「うん、ちゃんと見えてるね。これは優しさだ、僕からの。娘の可愛い姿は、これが最後なんだから」

 うんうんと頷く度揺れる前髪の奥には、優しさなど少しも感じられない瞳がゆらゆらと見える。母親は絞り出すようにやめてと手を延ばすが、その手が届く距離ではないことは見てわかる。

「お嬢ちゃん、ちゃあんと、啼いてくれよぉ?」

 ショウの持つナイフが少女の腹部目掛けて降ろされる。

「いやぁぁぁあああ!まま!ままぁあ!」


 ふわり。


 風が吹いた。

 その風は少女を優しく拐うと、壊された扉から外へと抜けていく。それは風ではなく、白髪の少年が自分を抱いて外へ出たと気づいたのは、少女が地面に降ろされた時だった。

「大丈夫か?怖かったよな」

 頭を撫でる手が暖かく、少女に安心感を与えるには、それは十分すぎるものだった。少年は後ろに少女を庇うと、ショウとケルンを睨み付け、

「久し振りに会ったと思ったら……何やってんだよ」

 外に出てきた2人はもう母親に興味を無くしたらしく、それこそ久し振りに会う白髪の少年を見ると、嬉しそうに高笑いをする。

 ひとしきり笑い終えると、ショウは持っていたナイフを舐める。自分の舌が切れ血が出るが、むしろその血を舐めとると、興奮したように両手をあげた。

「ゼロぉ、オレさぁ、待ってたんだぜぇ?白い奴の血ぃ、白を赤く染めるって、きんもちぃんだろうなぁぁあああ」

「相変わらず胸糞わりぃ変態だなお前は!」

 白髪の少年ーーゼロは、鳥肌が立つのを感じつつも、武器のないこの状況から少女を守るため、母親を救い出すため。

 青髪の少年の合図を待つーー。

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