青春の幻影
初めて君を見たときは何も思わなかった
少し眼鏡が似合う女の子だなくらいだった
そこから君と僕の物語が始まったんだ
君はいつも本ばかり読んでいた
僕はそれをいつも横目に見ながら
学校でしか話さないくらいの友達と話していた
僕は何食わぬ顔で君が放課後に通う文化部のドアを開けた
君はその時、本に夢中で僕のことを全然気にしなかったよね
他に部員もいないみたいだから
僕が部員に入りたいと言ったとき
君は複雑な顔をしていた
なんでこんなとこに来るの?
って顔をしていたよね
迷惑をかけてごめんね
でも、1日1日過ぎるごとに
君は僕のことを気にしなくなって
本ばかり読んでいたんだ
僕はね
そんな君を笑わせてやりたいと思った
なんでそう思ったのか、初めは分からなかった
でも、最近になって分かったんだ
いいや、初めからうすうすはわかってたんだと思う
そばにいればそれが出来ると思ってたんだけどね
ついに君は一回も笑わなかったね
それが悔しくて僕は君をいつもの部屋に呼んだんだ
初めてあなたを見たときは何も思わなかった
少し顔にけだるさを感じる男の子だなくらいだった
そこから私とあなたの物語が始まった
あなたはいつも退屈そうに
友達と話していたよね
私はそれをいつも横目に見ながら
本を読んでいたんだ
私はいつも通りに放課後は文化部にいた
そしたらいきなりあなたがドアを開けたんだ
そのとき私は本を読んでいるふりをして
あなたを見ていた
他に部員もいないみたいだから僕も部員になってもいいかな
そう言ったとき
私は複雑な顔をしていたよね
なんでこんなとこに来るの?
って顔をしていたよね
迷惑をかけてごめんね
でも、1日1日過ぎるごとに
あなたは私にたくさん
話しかけてくれたよね
私はね
そんなあなたが好きになったんだ
なんでそう思ったのか、初めから分かっていた
でも話をするのは恥ずかしかった
変な声だと笑われるかもしれない
部屋に来てくつろいで話すのも
暇だからかもしれない
でも、いつかあなたと心から笑いあいたい
そばにいればそれが出来ると思ってたんだ。
ついに私は一回もあなたと話せなかった
部屋に呼ばれたとき
何を言われるのか
正直すごく怖かった
でも、ここで行かないと後悔すると思った
僕はいつだって君のそばにいた
君は僕を煙たく思っているかもしれない
そんなことを考えた日は何回もあった
それももう出来ない
今日から様々な人が別々の道を歩いていくのだから
あんなに話すのが億劫で苦手だった僕が
今では話すのが好きになった
君に話す話題を見つけるために
色々なことを経験したからね
あの部屋で話すときが
僕は一番楽しかった
でも、この気持ちに気づいてからは
いっぱい悩んだ
いっぱい傷ついた
それでも僕は…
私のそばにはいつだってあなたがいた
いつかあなたが私を心底嫌いになるかもしれない
そんなことを考えた日は何回もあった
明日からはもう、横にあなたがいない
今日から様々な人が別々の道を歩いていくのだから
あんなに誰かと一緒にいるのが嫌だった私が
今では放課後にあなたといるのが当たり前になってた
あなたの話を聞いて
色々なことを想像した
あの部屋で一緒にいるときが
私は一番楽しかった
こんなわがままな私に
いっぱい悩んだ
いっぱい傷ついた
それでも私は…
部屋に来てくれた
嬉しくてそれだけで泣きそうになった
先に椅子に座って待っててくれた
怖くてそれだけで泣きそうになった
お疲れ様
高校はどこに行くの?
部活はするの?
返事は返ってこなかった
お疲れ様
高校には行けないんだ
ずっと文化部にいるよ
返事は返せなかった
返したかった
ものすごく返したかった
でもね、君はやっぱり最後まで気づかなかったね
私はね、いないんだよ
話ができると思ってたんだ
私を見てる君に気づいたときは本当に驚いた
君は気づいてないかもしれないけど
周りの友達たちはみんな気にしてたんだよ?
なんであんな何もない部屋に行くんだろうって
友達も言ってあげたら良かったのにね
君は三年間もここに来てくれた
本当に、本当に好きになったんだよ
でもね、やっぱり君に声は聞こえなかった
それでも、幸せだった
どうしてこんなにも気持ちを伝えたいのに
あなたに届かないのかな
あなたにはいったい、私がどんな風に見えてるんだろう
伝えたい
本当に伝えたい
この想いを
僕は知っているよ
君をずっと見てきたからね
初めは分からなかった
一年経ってようやく気づいたんだよ
君はいつも同じ本を読んでいるから
どれほど面白いものなのかと思って覗いたことがあるんだ
君は全部白紙のページをめくってたんだよ
もしかしたら僕の方がおかしいのかとも思った
でもそんなのはどうでもよかった
君がどんなものでもいい
君が君であればそれでいい
君の瞳には僕が映ったことはないけど
僕は確かに君を見ていた
伝えたい
本当に伝えたい
この気持ちを
「「どうすればこの気持ちを伝えれるのだろう」」
いつも僕の話を聞いてくれてありがとう
楽しかった話も
悲しかった話も
つまらない話も
何を話すときも
僕は幸せだった
先に謝っておくとね
君に隠してたことがあるんだ
帰り道はいつも僕の家の前で別れてたよね
家の場所をいくら聞いても反応がないから、一度後をつけたことがあったんだ
君は、学校に戻っていったよね
忘れ物かと思ったんだ
君が文化部の部室に入って
悲しそうな顔を見るまではね
胸が張り裂けそうになったよ
どうしてそんな暗い顔をするのか
どうして君がひどく弱々しく見えるのか
どうして君が消えそうになっているのか
僕には何も分からなかった
それが悔しくて
僕は調べてしまったんだ
クラス名簿には君がどこにもいなかったよ
机も椅子もあるのに
クラス名簿にのってなかったんだよ
友達に聞いたらさ
あそこに席なんかねぇとかいいやがるんだ
僕だけズレてる気がしたよ
君は本当はここにいないのかもしれない
この時間にすらいないのかもしれない
でも僕の前には君がいる
この声が君に届いているのか
それすらも確証はない
それでも僕は、君と一緒にいたい
これからもずっと一緒にいたい
君が好きだ
周りからどんな風に見られてもいい
僕にしか見えないのならそれでもいい
むしろ僕だけの君でいてくれたらいい
だから、これからも僕の横で本を読んでいてくれないか?
嬉しくてもう気が変になりそう
私も好きよ
でも、どうしたらいいか分からないの
どうやってこの言葉を伝えればいいか分からない
お願い
一言でいい
伝えたい
この気持ちを
たった一言
好きだっていう一言だけを
それでも声は返ってこなかった
彼女はただ虚しくこちらを見ているだけだった
あれから20年
彼女には一度も会っていない
いつもの放課後の時間に
彼女はそこに今もいるんじゃないかと思う時がある
どれだけ時間がたっても僕の気持ちは
あの時間に置き去りにされたままだった
何をやっても気持ちが入らなかった
付き合ったりもした
忘れようとしたんだと思う
結局フラれちゃったけどね
別れ際には自分の愚かさにも気付かされた
やっぱり僕は自分の過去に見切りをつけなければならないと思い、あの部屋に向かった
別れ際の彼女の言葉は今でも覚えている
一年間付き合ってきたけど
あなたの中に私はいなかった
少しでもいいからその中に
私が入れればそれで良かった
でもあなたの中のそれは
とてつもなく大きかった
私一人分の入るスペースすらなかった
いっぱい優しくされる度に
何度も気付かされる
涙が出ないのは心から愛されなかったから
不思議と悲しくはないの
むしろ出会えて良かった
強くなれた気がする
ありがとう
それじゃあ、さよなら
いつもの放課後より少し遅い時間
知っている先生に挨拶をすましてから
僕はあの部屋に向かった
この道をまた歩くことになるなんて思わなかったな
一人だとこんなに時間がかかるのか
ダメだ
もう泣きそうになってどうする
ただ歩くだけであの日の情景が思い浮かぶ
そして
三年間通いつめた
あのドアの前に着いた
僕は意を決して
そのドアを開け放った
そこには変わらずテーブルと本棚
窓際には椅子が置いてあり
そこにいつも、座っていた女の子がいる
まったく変わっていない彼女がいる
あまりの驚きに言葉が出ない
見間違うものか
喜びと同時に、僕は怖くなった
恨んでいるのではないかと
彼女の声が聞こえないから逃げた僕を
かけよって抱きしめようとしたが
中途半端なところで止まって
うめくだけしかできなかった
少しの時が流れたときに
君が少し考えてる動作をした
こんな君は見たことがなかった
いつも無表情の君が
考えてると分かる表情になっている
そして君はこちらを見て言った
どこかでお会いしたことがありますか?
清楚な、とても綺麗な声が聞こえた
声が聞こえたことに僕はついに耐えられなくなり涙を流した
前にいる彼女は少し目を見張って驚いていた
あの頃では考えられないな
あの時は聞けなかった声
周りが何もかもあの風景のままだ
僕は泣きながら思った
彼女なわけがなかった
この子はきっと似ているだけの別人だ
そして僕は泣きながら返した
ここの、部の人かな?
はい
一言一言がとても嬉しい
まだ涙が止まらない
変な人を見る目になっている
そんな顔ですら嬉しく感じる
どうしたんですか?
あなた、え?
…あれ……おかしいな……
前を向くと彼女も涙を流していた
君はいったい…?
彼女は椅子に座って僕に語った
私は、あなたを知ってる
でもどこで会ったかわからない
でも、知ってる
頭じゃなくて
心の中にあなたがいる
すごく胸が痛い
会ったばっかの人とこんなに話したことないのに
仲の良い友達とだってこんなに話したことないのに
なんで、こんなに切ないんだろ
あなたを見てると
心の底から悲しくなるのにどこか暖かい
あなたを見たときから目が離せない
あの時と同じみたいに…そう
私は、
あなたに会ってから幸せだった
いつも楽しく、話を聞いていた
いつも隣にはあなたがいた
あの日も私は精一杯声を返そうとした
けれどあなたには届かなかった
伝えたかった
生まれ変わってもあなたに会いたいとずっと思っていた
今なら言える……今なら届く
好き
初めてあった時からずっと
話をしてからもっと好きになった
離れたくない
ずっと横にいてほしい
これからも、この先もずっと
私の隣で話しかけていてほしい
ずっと、あなたの隣で
あなたの声を聞かせてほしい
気付けば彼女を抱きしめていた
きっと奇跡なんだろう
そんな陳腐な言葉しか出ない僕に彼女は微笑む
今まで失った分を、これから取り戻そう
その言葉に僕は嬉しさともどかしさを感じながら返した
こんなおじさんでもいいのかい?
すると彼女はにっこりと可愛らしく笑った
またお話を聞かせてほしいな