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一夏の幽便  作者: ふつ
序章 光
1/3

プロローグ

 

 祭りの夜には、お面をつけて死者がこの世に戻ってくる。


 これはぼくの村に伝わる不思議な言い伝えだ。


 ぼくの村……待宵村(まつよいむら)、都心から3時間半かかる山奥にある。


 まわりを高い山に囲まれていて、人口もそんなに多くない。時代にとりのこされた田舎の村だ。


 村のシンボルは天狗。天狗は山から降りてきて、死者の送り迎えをすると言われている。


 そんな村だからこそ死者が戻ってくるなんていう言い伝えがいまだに信仰されているのだろう。


 でもぼくは、そんな言い伝えぜんぜん信じちゃいなかった。


 そう……あんな手紙がぼくのところに届くまでは……



 ーーーー



 今日は祭りのせいか外がやけに騒がしいな。


 ぼくはベットの上で思っていた。


 今年から東京の大学に行き、夏休みで里帰りに来ているわけだが、特に何かをしてるわけでもなく、ほんとんどを家の中で過ごしている。


 別に外に行きたくないわけじゃない、ただ外に行ってもやることがないからだ。


 そんな時ドアを開ける音がした。


「拓真! いつまで寝てるの? もう夕方よ。東京に通ってる間に生活リズムおかしくなっちゃってるんじゃない?」


 母親があきれた口調で言った。


 言われてみれば、今日はほぼと言っていいほどベットの上にいた。一人暮らしの時から着ているパジャマ、布団や枕も朝からずっとこのままだ。


 すると母親はハッとなにかを思い出したようで、ぼくに言う。


「そうそうあんたに手紙がきてたわよ。珍しいこともあるものね」


 手紙? 僕に? 最近手紙を貰うなんて親からかなんかの勧誘ぐらいしかない。


 それ以外で自分宛に手紙なんて初めてだし、それに東京のアパートじゃなくて実家に。とりあえず母親からその手紙を受け取った。


 その手紙には消印がなかった。なんの変哲もない茶色の封筒だ。誰からか全く心当たりがないからか少し不気味だった。


 封筒を開けると、中にはノートの切れ端が一枚だけ入っていた。


「お祭りの夜、展望台で待ってます」


 手紙にはそう書かれていた。


「これだけ……」


 他にないか封筒をひっくり返しても何もなかった。誰が送ったのだろうか、改めて封筒を確認した。


 ……差出人の名前を見て、背中が凍りついた。


星宮沙優(ほしみやさゆ)


 ほしみや……さゆ。


 さっきまでの気だるさが嘘みたいにどこかへ行ってしまった。


 うそだ、そんなことがあるわけない。


 だって……




 沙優は4年前に、死んだのだから。




「今夜は祭りの日ね。あんたも少し行ってきたら? 今年の祭りは屋台がいっぱい出てるわよ。そうだ久しぶりに天狗バナナでも食べてきたら? あんた子供のころはあれ大好きだったわよー。なつかしいわね」


 天狗バナナとはバナナにイチゴジャムをぬって天狗の鼻にみたてたもので、他にも祭りにはお面をつけたりと他の祭りとは違うところがある。


「きっと同級生にも会えるわよ」


 天狗バナナだの、同級生だの、母親の話を聞いてる場合じゃなかった。


 この封筒の差出人の名前を知ってからは頭の中はそれしかなかった。


 ……兎に角外へ出よう。


 適当に服を着替えて部屋を出た。


 部屋を出たら、父親がいた。お昼ごろまで祭りの準備をしていたせいか、どこか疲れた様子だった。


「おう、拓真。東京に行ってる間元気でやってたか? お前が、一人前の漢になれるように父さんはいつでも応援してるぞ」


 一人前の漢か……相変わらずだった。僕が中学の時からそうだった。


「ちょっと祭りを見に行ってくる」


 その一言だけ言って外へ出た。





 











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