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早朝に出発し、休憩もそこそこに移動を続けたが、村が見えた頃には誰もが、『遅かった』ことに気づいていた。
村の幾つかの建物からは火が上がり、人々の悲鳴に獣の咆吼が混ざって聞こえる。
大きな炎となって燃え盛る村、その少し離れた森の中から、小さな炎が凄まじい速さで一団に近づいてきた。
片手に松明を持ち、ぴょんと、身軽に馬から飛び降りると、その小さな身体を更に小さくさせて跪いた。
「隊長、報告します!我々先遣隊が着いた時には、北門からモンスターが侵入しておりました。エリシャ・カイデンの2名が足止めをし、その間に村民を南門から東の森側に避難させています。負傷者はいますが、全員生存です。」
肩で息をしながら、隊員は、しかし!と続ける。
「しかし…、カイデンが頸部を噛まれ、、、、戦死しました!…エリシャも出血多量ではありますが、村の中央で応戦中です!」
跪く小柄な身体はブルブルと震え、口元は今にも血が流れ出そうに固く噛み締めている。
隊長の前でなければ、いや、任務すら放り出して、仇を仕留めに向かいたい所だろう。
全身から、悔しさと悲しみが溢れ出ている。
口に出して初めて、親友の戦死を受け止めたのかもしれない。
地面に付いた片手は強く握りしめ、その上にはポタリポタリと、雫が落ちている。
先発隊に選ばれた3人は、馬術に長けており、その身軽さや頭脳の明晰さで、優秀な斥候だった。
何より、騎士団時代から仲が良く、お互いへの信頼度が高い。
特殊騎士団に入隊してからも、その信頼からかお互いに『任せる』事が自然にできるため、判断が早い。
適切で素早い判断は、全体の生存率さえ押し上げる。
過酷な特殊騎士団での訓練も、支え合ってきたのだろう。
彼の気持ちを慮ると、言葉に支える。
何より隊長自身、大切で優秀な隊士を亡くした。
「…、……隊長!」
ほんの一瞬、立場を忘れそうになる自分に、副隊長である同期が、声をかけた。
戸惑いがちに掛けられた声に、ゾイは悔やむ時間はないことを瞬時に悟る。
「第3班、オリバーから引き継ぎ、村人を頼む!」
「…はっ!」
「オリバー、私と一緒に来い!エリシャに合流し、敵を…カイデンの敵を、共に討つぞ!」
隊長の命令に、オリバーは、一瞬、戸惑いの色をその瞳に浮かべた。
本隊が到着した今、持ち場は、村人の保護誘導だ。
規則は絶対。
何があっても、持ち場を放棄する事は許されない。
そもそも、小柄なオリバーは戦闘特化ではない。
特殊騎士団内でも、隠密に近い特殊任務が中心だった。
オレ…オレ、いいんですか?
一緒に、アイツの敵撃ちが出来るのですか?
…オレが、していいんですか?
そんなことを問いかけるような瞳に、ゾイは力強く頷く。
精一杯、激励を込めて。
悲しみも悔しさも、共有できるように。
「行くぞぉ!」
ゾイは、出撃の合図を出した。
「エリシャーー!!」
村の中央広場に出ると、オリバーが真っ先に叫び声を上げた。
エリシャは、対峙していた大型のバトルウルフに、左脚を噛まれた所だった。
傍らには殆ど動かない敵が一体横たわる。
1番の戦闘型だったカイデンがやられ、絶望的状況の中、血まみれになりながら一体を仕留めたエリシャ。
左脚を噛まれながら、エリシャはその耳に親友の声を聞いた。
同時に、ウルフの体を抑え込みオリバーに託す。
抑え込まれたウルフはその鋭い爪をエリシャの体に突き立てもがいている。
爪は丈夫に織り込まれた隊服を貫き、さらに腹壁をも破り裂いている。
「ぐぁっ!!」
苦痛に満ちた声を上げながらもエリシャは手を離そうとしない。
「クソっ!!エリシャ!」
抑え込まれた状態のバトルウルフの首に、オリバーが剣を差し込む…が…
「か、、硬いっ」
鍛えられた野生の筋肉は、オリバーの剣を容易には進ませてくれない。
もう一度、場所を変え刺し直すか!?
僅かに持ち方を変えようとしたその瞬間、
「そのまま!支えていろ!」
耳元でゾイの声を聞いた。
と、同時に、
ゴトンッ…
バトルウルフの頭が、オリバーの足元に転がった。




