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「イヤー、ニイちゃん、随分強いんだなぁ。あんなデッカい魔物を、一撃だよ!」
巨大鳥を仕留めた後、寂しかった茶色の一本道はいつの間にか人集りができていた。
どこで見ていたのか、ジェイの武勇伝を大声で語り始める男、鳥を買い取らせて欲しいと懇願する商人風の団体、ウチも魔物に困っていると訴える村人…
王都から少し離れると、思ったよりも危険な地域が多いようだ。
「ジェイ、あんま目立つと後が大変。衛兵きたらもっとヤバイし…」
ルルーは、周囲を見回しながらマントのフードを少し深めに被る。
遠くに見える町の入り口には門兵が数人集まっている。
「ん、あぁ。目立つ訳にいかないな。」
ジェイもフードを被り、人集りの間からスルスルと抜けだした。
足早に町に向けて道を上がり振り返ると、ジェイが仕留めた魔物を中心に見物客は増えているようだ。
「行くよ」
ルルーは、ジェイの上着のスソを掴むと、ちょんちょんと引っ張る。
「あんなの仕留めただけで騒ぐ…やっぱり、こちらは相当な平和ボケなのか。」
ジェイは少し、足を止めると眼下の人集りをみて呟く。
「なに?何か、言った?」
数歩先を行くルルーに聞き返され、ん、何も、と答えながら、ジェイはクルリと踵を返した。
フードを被り直し、足早に歩き始めた2人の横を、数人の衛兵が駆け下りて行った。
「はい、確かに。一泊朝食付き、2人で、80バー。今日は客が少ないから、食材が余りそうだしね。夕飯の半額券も付けてあげるよ!沢山食べな!」
「ありがとう、女将さん。お兄ちゃんと2人、パパを迎えに来たんだけど今日は会えなくて。お宿、安くて助かるわ。」
いつだったか、ゾイとゲランが家で飲みながら話していた。
中規模くらいの町では信用できない宿もある。
迷ったら、小さな赤い鈴を看板にぶら下げた宿に入るといいと。
どこだって皆、生活がかかっているから、一見さんからは正規からやや上乗せでお金を頂くのは当たり前。
宿同士お互いに見て見ぬふりをする事が常だ。
しかし、然るべき審査を受けて、王国から援助を受け適切な料金を設定している宿が、各町に少なくとも一軒はあるそうだ。
見た目では分からない。
綺麗で立派な門構えでも悪徳かも知れないし。
小汚くても正規店かもしれない。
だから、目印に小さな赤い鈴を看板にぶら下げて。
よく見なければ気付かない。
気付いても、知らない人間なら飾りか何かだと思って見過ごす。
この事を知っているのは、宿暮らしが多くなってしまう騎士団、それも、特殊騎士団のメンバーくらい…だと。
そもそも、遠征ばかりの特殊騎士団の為に宿を作ったと噂も。
「お父さんをか?まだ若い兄妹で大変だねー。会えそうなのか?協力できる事はあるかい?」
人の良さそな女将さんが、ジェイとルルーを交互に見ながら心配そうに腕を組みなおした。
「大丈夫。『赤い鈴』を見つけられただけで、助かりました。父によく聞かされました。旅先で宿をとるなら、赤い鈴を探すように。と。」
赤い鈴…
この言葉に女将さんの表情がかわる。
「どうやら浅い縁ではないみたいね。…お嬢さん。話、聞こうじゃないか。」
態度が変わった女将さんは半分個室のようになったテーブルに通しながら、ルルーを覗き込み、はっとした顔をした。




