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「ぷぅー!はぁー!あームリムリ!…ブッ、アッハッハ!死神…レンが、死に…あはぁー!」
茶色の巻き毛を高く結った少女は、何度か笑いを収めようと試みるも、なかなかうまくいかない。
しばらくは目を点にして固まっていた赤毛…レンは、みるみるうちに、顔色を髪と同じく真っ赤に染めた。
「知らねぇよアンタの死んだ仲間のことはっ!見廻り中に噴火を始めたから!慌てて火口に向かったら、もう一人は間に合わなかった。既にこと切れてたよ。運ぼうとしたら、もう一度音がし出して、噴火し始めて、アンタが噴き出されたから、風を起こして助けたんだよ。…ったく、死神やら何やら知らねぇが…助けた相手にそりゃねぇだろ。」
一気に捲し立てるレンに、今度はゲランが驚いて後に尻もちをついた。
「…すまないが、…いや、すまなかった。どうやら、私は君達に助けられた…と理解していいのだな。…ありがとう」
混乱した頭を整理するように、ゲランは何度か頭を振り、後頭部を叩いている。
「あれ、お仲間だろ?」
レンが指差した先、一緒に飛び降りた同僚が横たわっている。
「あ…あ…ミュ…ミュエル…!」
慌てて駆け寄ると、無惨にも、右腕を失った同僚が変わり果てた姿でそこに居た。
「あぁ、ミュエル、すまない。助けられなかった。」
ゲランは、遺体を前に、一頻り祈りを捧げると、レンの前にもう一度、膝をついた。
「どういった経緯かは、分からないが。君達が私の命の恩人だ。改めて礼を言う。ありがとう。」
まるで騎士のような、、実際に騎士なのだが、、振る舞いに2人は居心地悪さ気に、一歩二歩後ずさった。
「いいけどよ。こうやって助けれる事もあるから、見廻りをしてんだし。…それより、アンタ、やっぱり、あちらの方?」
ホラ、立てよと言いながらレンは右手を差し出した。
ありがとう、と差し出された手を握り、起き上がりながら、ゲランは少し悩んだ様子で空を仰ぐ。
「あちらの方、というのは、この国の者ではないという事か。ならば…そう、なるか。…私は、シェレン王国騎士団所属、特殊騎士団副団長の、ゲラン・カーと申す者。ここに行き着いた経緯は…」
「ちょっと待て!!シェレン王国だと!?」
王国の名に、過剰な反応をしたのは、少し離れて見守っていた、スラリとした高身長の銀髪の青年だ。
「いま、シェレン王国と!貴殿はそう言わなかったか!?」
ツカツカと踵を鳴らし、銀髪の青年はゲランに詰め寄ってくる。
「あ、あぁ。確かに、言った。」
ゲランはズリっとあとずさりながら、頭一つ大きい彼を見上げてコクコクと頷いて見せる。
「確かに、シェレン王国の出身だ。だか、それが何か…?いや。むしろ、ここはどこなんだ?」
自分のことは今はどうでもいい、とにかく、何が起きているのか、一度は持ち直した筈が、自分の知識が及ばない事に動揺がぶり返し、頭を抱えた。
「…失礼。聞いた名だったから、少し取り乱した。貴殿も混乱しているだろう。我々も、見廻りから引き上げる所だ。一緒に来るといい。…休んだら、少し話をお聞きしたい。」
とりあえず、休んで頭を整理するべきだ。
深呼吸をすると、身体のあちこちがズキズキと痛む事に気がついた。
「とにかく、お言葉に甘えよう。…まずは、仲間を弔いたい。」
そう言って、ゲランは遺体を一瞥した。
「大丈夫。こちらに来てしまった遺体は、王国の国有墓地にちゃんと埋葬します。故郷の土ではないけれど、ゆっくり眠れるでしょう。こちらにお任せください。」
「んじゃ、とりあえず戻ろうー」
「…そ、空を!?」
銀髪のかれ、こと、ヒスイの合図で静かに降り立ったのは、大きな飛空艇だ。
「どうしてこんな大きな塊が空を飛ぶ!?」
滞在先まで飛んで行くと聞いたゲランは、今にも失神しそうに取り乱している。
「乗れん!こんな不確かな塊!俺は乗れん!!離せ!」
乗組員に脇を抱えられ、それでも青い顔で暴れている。
「あー、はいはい。このパターンね。…俺もういやよ、あちらの方ー!」
クスクスと笑いながら口を開いたのは、空色の編み込みがよく似合う巨乳美少女だ。
「前回の人は乗った瞬間に失神。その前は倉庫の箱の中に隠れて…失禁…コホン。その前の前の女性は…あのお方ね。唯一、目を輝かせてずっと甲板に居ましたわ。」
「そうそう!ジェイが毛布で巻いて連れて来て。ガタガタ震えてるのに、まだ外を見たいと大騒ぎして。」
「あの方は、肝が座ってらっしゃる。皆から好かれ、皆を愛して下さる。我が国になくてはならない方だ。」
3人が集まり、どこぞの誰かの話題で盛り上がっている最中。
ゲランは屈強な乗組員に担がれ、見晴らしのよいコックピットの一席にシートベルトで固定された。
離陸し、発進、マックススピードに達した頃、泡を吹いて失神した王国特殊騎士団の副団長の姿が、そこにあったとか、なかったとか…。




