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「うわぁ!うわぁぁぁ?あーー!」
どれ位、落ちたのだろうか。
いや、四方八方、闇、闇、闇…
人間はこんなに落ち続けて大丈夫なのか。
漆黒とも言える深い闇。
落ちているのか、登っているのか…
浮いているのかも分からない。
一緒に落ちたはずの同僚は、大丈夫なのだろうか。
数日前。
魔物が出たと報告のあった北の洞窟に、命辛々辿り着いた。
道中、大型の獣と数回遭遇し、仲間を5人程失った。
騎士団の中でも試験を突破した精鋭たちが、たった一撃で命を落とす。
ほとんど手付かずの北の果ては、過酷な地だ。
慣れない寒さ、防御力の高い敵。
散っていくのは経験の浅い若い命だ。
やり切れない思いのまま、目にした目的地は、自分の背丈よりも小さな入り口だった。
ポッカリと開いた入り口は、屈まないと入れない。
あちらから攻撃されたら終わりだな。
そんなこと考えながら、突入すると、中は思いの外広い。
奥へ進む。
洞窟独特の匂いに疲弊しながら、滑り易い足元に神経を持っていかれる。
カサカサカサカサ、周囲からこちらを伺うような気配や、きもちの悪い足音ばかりが響く。
奴らは陽射しの下には決して出てこない。
隊列の後方からは、絶え間なく叫び声や怒号が響いてくる。
「う、う、うわぁぁぁぁ!!」
「ぎゃぁ!ぐっグフゥ!」
何人かの断末魔が響き、続いて殿を任せたベテランからの叫び声が届く。
「止まるな!こっちは何とかするから!!進めぇ!」
「た…隊長。」
斜め前を征くブロンドが美しい美貌の隊長は、苦痛に顔を歪めながら、背中を任せた副隊長を一瞥した。
「進むも地獄、戻るも地獄。ならば、進むべき、だろう?」
しばらく進むと、広い空間に出た。
一本道を進んで来た訳だから、行き止まり、だ。
まるでバルコニーのように、半円形の広間。
その向こうは闇…つまり、崖っぷちってヤツだ。
恐怖に支配されていた。
この死の淵…にたどり着いた者は10名。
そのほとんどが、戦意を喪失している。
しかし、あの方が、諦めない限り、付いて行こうと…
陣形を保っていた。
強くて、美しい。
どんなものに会敵しても、凛として顔を上げる、我らが隊長。
「キュー!キューィッ!」
大きな風切り音と鳴き声。
「うわぁぁ!」
追い詰められた何人か、羽根にやられて落ちたようだ。
騒めきが広がる闇の中。
「集中しろ!」
彼女の一喝で、空気まで引き締まる。
それは、一瞬だった。
その鋭い赤い嘴で、隊長をひと突き。
倒れかけたその身体を。
飛び去ったと思った背後から、鋭い両の爪で持ち上げた。
生き餌を確保するかのように。
スローモーションを見ているかのようだった。
そして、彼女は、出来うる限り声をあげた。
「総員…撤退!!2度と北には近づくな!捜索も禁止する!」
姿は消えても、最期の叫びは暗い空間に残り…。
しかし、そこにいた全員が悟っていた。
撤退は、不可能と。
一つ残ったランタンにやっと灯りを灯す。
退路を断つ、そこにいたのは、鋭い牙を持つ、50センチ程の無数の甲虫だった。
明るさに一瞬引き下がるが、ワラワラと光の境界線に迫る。
音に刺激されたか、血の匂いに寄せられたか。
殺気だっているのが分かる。
叫びを上げる暇すらなく、エサとなった隊員は3人。
総勢20名の部隊は、指揮官を失い残り2人となっていた。
「副隊長。逃げ道は、ナシってか。」
「くっそ。ゾイの奴に顔向けできねー。…エミリアを…」
ジリジリと、崖に追い詰められる。
覗き込むと底が見えないポッカリと空いた闇。
「俺は、最期、デッカイゴキブリに食べられるのはいやだね。」
「おっ、初めて意見が合ったな。ゲラン。」
笑い合う2人。
2人いて良かったと思う。
「おい、あの時も意見は合ったぞ。あの決闘、絶対にエミリアが勝つってな。」
「ああ、そうだな…。ゾイは、実力じゃ負ける訳ねぇ。あの時既に、エミリアに惚れてたんだよ。」
ジリジリと、追い詰められる2人。
背中合わせで立っているのがやっとだ。
「最後か。エミリアを守れなかった。あの世で土下座しような。」
……守られたくはないと、隊長様に怒られるか…
ゲランは、小声でそう呟いた。
「ふっ…。ちげえねぇ。」
「行くぞ。」
「応。」
2人は、闇に飛び込んだ。
「あぁぁぁぁ!!」
どこまで落ちるのか?いつまで落ちるのか?
ゲランには、時間も方向も、感覚は残っていない。
その時、だ。
ヒュオォォォ!
身体が持ち上げられる感覚と共に、目の前がパッと明るくなった。
「うげかぁ!グフっ!」
次に、気流で運ばれる感覚の後、地面に顔面から落ちた…ようだ。
…地面?
助かったのか?
オレは、助かった…?
起き上がり、辺りを見回す。
ゴツゴツとした岩、所々に生える草。
どこかの高地…か?
「このオッサン、また、あちらの方?」
「あー。ああ、多分。女神さん助けた時と同じ服じゃん?その人。」
話しながら近づいてくる2人。
1人は、赤い短髪。
もう1人は、茶色の巻き毛。
夢でもみてるのか?
黒い、見た事のない服装をした赤毛が近づいてくる。
深紅の赤毛…まるで血の色だ。
周囲は荒れた大地。
そうか、ここは、地獄か。
「…死神か。すまないが、、連れて行く前に、一つ伺いたい。…一緒に死んだ筈の仲間は…仲間たちは、天国に行けたのだろうか。」
ゲランは、祈りの体勢をとり、赤毛の前に跪いた。
「………ぶっ!ぶぅあっはっはっ!マジ!?マジで?やっばーい!ウケるー!し・に・が・み・さまっ!!」
しばしの沈黙の後、思い切ってゲランが上目に様子を伺うと。
腹を抱えて笑ってる茶色の巻き毛と、口をあんぐりと開けて言葉を失っている死神様が……目に入った。




