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あまりにも、突然の事だった。
光に包まれたジェイを、咄嗟に、抱きしめていた。
このまま消えてしまうんじゃないか。
この男性を、失いたくない!
そう思うと同時に、ルルーの体は、勝手に動いていた。
「ルルー?ルルー?」
耳元で聞こえる優しい呼び声に、ルルーはそっと、目を開ける。
そこには、いつもと変わらない景色。
井戸の前で、情熱的に男を抱きしめる女……
「…消えて…ない?」
「…どうしたの、ルルー。…あの、さ、離れてくれると、助かるんだけども…」
指を指されて初めて気づく。
必死で、ジェイにしがみついた結果、その鍛えられた胸板に、双の乳房を押し付けて…いた。
それも、下着を着けていない、寝巻き一枚だ。
「い、い、い、い、いやぁぁぁ!」
ガタゴト、ガタゴト…
どこまでも続く草原を真ん中で切り取ったように、茶色い一本道が続く。
空は快晴。風もなく、まさに出発日和のこの日。
荷車を引く馬ですら、気まずい顔をしている様にみえる。
「そうじゃないよ。俺の力じゃなくて。」
手綱を引きながら、さっきの現象の説明を求められているジェイ。
その隣には未だ立ち直れない、ルルー。
「人の身体が光る訳ない!」
「だから、ルルーが、かなり強いの全治の水、飲ませてくれて。使える魔法が上位魔法にレベルアップしたんだ!こんな事例、聞いた事がないよ。」
さっきから進歩のないこのやりとり。
いい加減疲れてきた、とは言え、理解を越えた彼の発言のかずかずはさすがに興味を引いた。
「私が飲ませたのは、ただの井戸水よ。貴方も散々調べたでしょ?」
そう。
ルルーが恥ずかしさのあまり、精神崩壊した後、ジェイは何度も井戸水を汲んでは飲み、カップを調べたり、ルルーの手の平を調べてみたり。
しかし、何も分からないようだった。
とにかく出発しようと、必要最低限の荷物と、お金を持ち。
両親には、手紙を残した。
「探しに行きます」と。
探しに行く相手に置き手紙なんて滑稽で、涙が出た。
しかし、じっとしていられなかった。
この男が現れてから更に、胸の騒めきがおさまらない。
感じるままに旅に出るように、促された気がした。
「…とにかく、貴方は、北に向かうと言う事ね。私の探す人も、最後の行き先が北と言ってたわ。…手がかりは、それだけ。」
父が、母を探し続けているのは知っていた。
何度も手紙を見ては、頭を抱えて怒りに震える様子を見ていた。
盗み見た手紙には、北の集落及びその周辺にて、他団員20名と行方不明。
としか記載が無かった。
北には、以前、町があったらしい。
何ものかの襲撃で無くなってしまったと。
「…とりあえず、マナンの町までは行きたいわ。」
さっきまで真上にあった太陽が、少し傾いている。
日が暮れる前には町に入り、宿を確保したい。
ルルーの住む村は、外れにあるが一応、王都の一部だ。
周辺は整備され、道がある所も多い。
しかし、離れればそれだけ、荒れた場所が増えてくる。
王国の中央。
お臍のように湖があり、その近くに位置するのがマナンだ。
湖に流れ込む方々からの河川は、この町を栄えさせた。
北へ向かう者達にとっては、マナンは最後の文明だ。
ここ以降は、それぞれの伝統を守る村が点在するのみと聞く。
国もその支配下に置くのをいつしか止めそれぞれが自治区としていた。
支配するメリットもない、貧しく暗く、寂しい地域だ。
当然、王国の手は入っていない、道なき道を行く。
加えて、貧しさはやはり、犯罪を生む。
旅人や、旅商が襲われるとはよく聞く話だ。
やはり、早くマナンに入り、支度を整え直したい。
ルルーのそんな思いを知ってか知らずか、唯一の頼りであるジェイは、機嫌良さげにルルーの拵えたサンドイッチをムシャムシャと頬張っている。
「んもー、本当、緊張感ないなぁ」
ルルーが頭をガックリと垂れた、その瞬間。
「ルー!伏せとけっ!」
親指に付いたマヨネーズをペロリと舐め、ジェイは身軽に馬車から飛び降りた。
微かに殺気を纏わせて、剣を空に掲げる。
同時に、空に聞いた事のない鳴き声が響き渡った。
「キュー…!キューィィッ!」
「…なに、?アレ…」
鷹のような姿で、嘴と尾は燃えるように赤い。
姿は全部で5メートルはあるか。
鋭い眼光、尖った嘴、そして何より、その巨体に見合わず速い。
怖い…
ルルーの身体は、硬直したまま動かなかった。
言われた通り、伏せることもできず、ただ、恐怖のまま、ジェイと鳥を目で追うだけだ。
「…レッドイーグ!?こちらにもいたのか?…いや、この匂い…。入ってきたか!」
ジェイはそう呟くと、掌を上にしぶつぶつと何かを唱え、大鳥に向かって投げる仕草をした。
「クゥー!クゥー!」
その瞬間、鳥の羽がまるで、凍ったように動かなくなり、地面に向かって落下する。
間髪入れず、高らかにジャンプしたジェイが、鳥の首を切り落とした。
「…お前に罪はないが…こちらに来てはならなかった。」
ジェイは、鳥に向かってそう声をかけると剣を治めた。
「ルルー?無事か?怪我は?」
「…えっ?」
そう言って振り返るジェイ。
その姿が、随分と大人びて見えて、ルルーは目を疑った。
17、8と思ってたジェイが、急に10ほど上にみえる。
「…ジェイ?」
目を擦り、もう一度。
「…ルルー?どこか、痛い?」
そこには、いつものジェイの穏やかな笑顔がある。
「…ううん。大丈夫、ありがと。…ジェイ、強いんだね?」
「気付いて貰えて何より。俺、魔法も使えるんですよ、ほんとうに。」
そう言って微笑む横顔はまた一瞬、成熟した男性が重なって見える。
大丈夫だよね。
ルルーは、心の中に少しずつ広がる、言い知れぬ不安を見て見ぬように、しっかりと、蓋をした。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
分析機能?みたいな所を見て、私の、こんなとんでもない文章を読んで下さっている方が存在する事に気付き、こうしちゃいられないと思い、挨拶させて頂きました。
本当に、ありがとうございます。
副業の副業として、少しずつ、コツコツと書いておりますゆえ、更新が遅いです。
なんせ、11話出すまでに1年以上かかってますから…
エンディングまでの構想はありますが、細かい所を詰めておらず、とにかく遅いです、
が、書くことが楽しい。
そして、駄文ながら、読んで頂ける事が嬉しい。
引き継ぎ、貴重なお時間を頂けるならば、続きも気にかけてくだされば嬉しいです。




