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サワワッと…

半分開けたままにした窓から少しヒンヤリとした風が流れ込む。


「ん…。」

丸まった布団を、足で手繰り寄せ、のそのそと潜り込んだ。

空はまだ明るくなっていないが、もう間もなく太陽が上がるだろう。


「もう、朝…?」


昨日は、嫌な事を思い出した。


良く回らない頭で、昨晩の回想をする。

懐かしくも、寂しい思い出。

母親の事は、なるべく考えないようにしていた。


これだけ、帰って来ないのだから…


フルフルッ!

勢いよく首を振ると、ルルーは窓を全て開けた。


「…しっかりしなきゃ。今日は、とこだかに出発と言ってたわ!」


どこに行くのか、ハッキリとは分からない。

ジェイの中に何か道標があるようだった。


家に残っても、数年は1人だろう。

寂しさに震えてただ待つだけならば、素性の分からないこの青年に付いて行く選択もあるだろう。


とりあえず、身だしなみを整えて。

そう呟きながら、ルルーは牛舎前のあの井戸に向かった。



「…えっ?」

家の前の階段を降りながら、井戸を見渡すと人影がチラチラと見える。

良く見ると、上半身が裸のまま、剣を持ち、何度も振り下ろしてはまた、身構える。

ただひたすらに稽古に励むジェイの姿があった。


うっすらと白くなる空に、姿かたちがはっきりと見えてくる。

黒髪を高めに纏めて。

無駄な肉のない体幹、キラキラと光る張り詰めた筋肉。

腕はその美しい顔からは想像つかない程に太く逞しい。


ルルーは、その姿をしばし眺めていた。


剣を振り下ろす度に、風を切る音がして、足を踏みしめる度小石が砕ける音が響く。


「………パパ。」


2人は全く違う容姿のはずなのに、父を思い起こす。

父もまた、ヒマさえあれば稽古をしていた。


合間に、空を見上げては、物思いにふける。

何かを探すように視線を泳がせて。

そしてそれを断ち切るようにまた、剣を振るった。


『パパは、何故、いつも剣のお稽古をするの?』

そう問うたのは幼き日のルルーだ。


『…絆、だからだよ。』

『キズナ?』

『そう。お母さんとの、そして、お父さんの、お父さんとのな。』


そう言って優しく笑う父を、ルルーはしっかりと覚えていた。


今では分かる、ルルーが、いくら初恋すら知らない子供でも。


父は、剣を振るう事でママを感じていたんだ。

ただ、ただ、やはり父も、寂しかったんだ、と。


パキンッ


小石が弾ける音で、ふと顔を上げると。

剣を地面に突き立てたまま、ジェイが汗を拭っていた。


ルルーは、急いでキッチンに戻ると、カップを手に、井戸前に戻ってきた。


ジェイはいつも、あんな激しい稽古をしているのか、、疲れが取れたらいいんだけど…

そんな事を呟きながら、井戸から冷たい水を汲み上げた。


「ジェイの疲れが、癒されますように…」

両手でカップを握りしめ、そう祈りを込める。


母がよく、こうしてくれた。

不思議と、それを飲むと元気が出たのを思いだす。

「言葉には力があるのよ。思いの分だけ、癒やしにも、刃にもなるわ。」


「ママ…」

ジェイに出会ってから、何故だか酷く、母を思い出す。

見つかるかしら、いつか、ママが。



「ルルー?ルルー!?」

名を呼ぶ声に、一気に現実に引き戻された。


顔を上げると、目の前に美形のどアップが迫る。

無造作に高く結った黒髪は、汗でしっとりと濡れ、色気がプラスされ3割増しで美しい。


「ぐはぁ!!ちょっ、ま!ちょっと!ジェイ!」

「なんだ?」

ルルーははち切れそうな心臓を抑え深呼吸をする。

近い近い!近い!!

今のはダメだ。

殆ど、意識してなかったけれど…

一度、気付いてしまった。

…イヤ、気付かなかった、訳ではなかった。

でも、こんな感情…


ジェイは、軽く身を返しルルーの隣に座りこんだ。


「なにか考え事?呼んでも全然、返事がないから。」

「いや、全く、ダイジョブ…です。」

ジェイが美し過ぎて今更緊張した、何て、言えない!

ルルーは、横に座る肉体美の塊を、横目で観察する。


こうして見ると、肩幅も、意外と大きい。

線が細いようでぎっちりと筋肉で引き締まった腕。

幾つもの傷跡が残っている。


「…はい、これ。さっき井戸から汲んだから冷たくて美味しいと思う…」

ルルーはずっと握りしめていたマグカップを、ジェイに差し出した。

「あ、ああ。…ありがとう!」

ジェイは、嬉しそうにカップを受け取ると、一気に飲み干した。

喉を鳴らして嚥下した、その瞬間。

ジェイは、驚いた顔でルルーを見た。


「…!ルルー!!」

ジェイが声を上げると同時に。

うっすら、彼の全身を光が縁取り、光が強くなる。


「ジェイ?えっ?何!?ジェイ!?」






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