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本格アウトドア体験(強制)



 誰もが呆然と立ち尽くす中、昭君は取敢えずゲームのセーブポイントを探した。

 暗くなっていく世界に、ゲームのピコピコというサウンドが響く。

 頭を抱えながら、和さんが弟に困った視線を向けた。

「昭くん……なんだか随分と落ち着いているけど、今の状況をわかっているのかな」

「アブダクションされたんでしょ」

誘拐(アブダクション)で済まされる話なのかな、これ」

「むしろこの状況に至って、僕は何となく脅迫状の差出人がわかったけど?」

「「「「「えっ」」」」」

 想定することの難しい状況に追い込まれて、何がわかったというのか。

 昭君の言葉に、唖然とした視線が集まる。

「ここ、どう見ても地球じゃないし。だったら異星人の仕業ってことでしょ」

「いや、そんな冷静に状況を受け止められても……そもそも異星人が実在するのかってところから問題点が」

「僕のクラスの学級委員長、宇宙人だよ」

「ここで衝撃の事実を暴露されても!? え、っていうかそれ本当に!?」

「あとご町内にも入り婿した宇宙人がいるよ」

「えっ!?」

「というか、異星人の実在どうのこうのなんて兄さん(※異世界転生者)が言っていいことじゃないよね」

 昭君がさらっと暴露する、ご近所の宇宙人事情。

 いったい何人の他の惑星ご出身の方々が近所に紛れ込んでいるというのか。

 思わず顔を引き攣らせる和さんに、どこかぎこちなく、バスケ部員の一人が肩を叩いた。

「三倉、すっげぇ弟さんだな……」

「何があっても動じなさ過ぎて、うちの弟、将来は大物になるんじゃないかと思うんだ」

「いや現時点で既に大物だよ」

 驚きすぎて混乱するレベルをとっくに振り切れている、バスケ部員達。

 この場にここまで平常心を保った年下の中学生がいなければ、もしかしたら状況を認識するにしたがって動揺も大きくなり、混乱して何かやらかしていたかもしれない。

 だが昭君が、年下の、中学生が動じていないのだ。

 その冷静な目を前に、バスケ部員達は思った。

 意地でも、平常心を保とうと。

 バスケ部員達は、副部長の頼りがいがどこから発生したのか垣間見たような気がした。

「それで、えっとお兄ちゃん? 私に脅迫文を送った相手の心当たりって?」

「明の友達の亜由美ちゃん」

「亜由美ちゃん!? え、私の親友だよ!? っていうか亜由美ちゃん異星人なの!!?」

 ファンシーでドリーミーな妖精さんに絡まれ、強制的に魔法少女をやっている明ちゃん。

 彼女は「妖精がいるなら宇宙人がいてもおかしくないよね」と状況をあっさり受け止めていた。

 それでも犯人が親友と思っていた相手だと聞かされては、簡単に受け止めることなんて出来ない。

 脳裏に思い浮かぶのは、今日も教室でほわほわと微笑みながら仲良くおしゃべりしていた女の子。

 明るい性格だけど、どこか控えめなツインテールの亜由美ちゃん。

 兄の襟首を掴み、亜由美ちゃんについて何を知っているのか聞き出そうと問い詰めた。

 その光景を見ていたバスケ部員の一人が呟く。

「やべぇ……和先輩の妹さん、順応力が高すぎる」

「そういう意味なら弟さんの方がヤバいだろ」

 違う惑星に来ちゃったことをさらりと受け止めている小中学生の姿は、客観的に言って異常である。

 明ちゃんに関しては、妖精を名乗るゲスい小動物の功績なのだが。

「昭くん、理由もなく明ちゃんのお友達を中傷したわけじゃないよね? 亜由美ちゃんが犯人だっていう確証があるのかな。というか亜由美ちゃんは異星人なのかな」

「異星出身なのは亜由美ちゃんの同僚の方かな」

「……同僚?」

 これまた、小学生相手にはあまり使わない単語が飛び出した。

 亜由美ちゃんは確かに美少女だが、特に子役モデルなどはやっていない。

 働いている訳でもない小学生の同僚とは、一体。

 ちょっと考え込む和さんに、昭君はこれまたさらりと告げた。

「【超合金ゴールデンスクラップα】っていう名前の巨大ロボ」

「それ悪の組織(ダークダイヤ)の四天王だよね!?」

 聞き捨てならない固有名詞が飛び出して、明ちゃんの顔色が変わる。

 悪の組織と小学生、謎の組み合わせだが、そこに一体何があるのか。

 昭君が何を知っているのか不明だが、それを聞いたらもういつもの日常には戻れない。そんな気がして明ちゃんはふるふると首を振った。

「ごめん、お兄ちゃん。これ以上はちょっと聞くの躊躇うかな」

「そう。僕は別に話しても話さなくても構わないけど」

 昭君は明ちゃんがもう何も聞いて来ないとみると、携帯ゲーム機をリュックの中にしまって立ち上がった。

 急に動き出した男子中学生に、疑問の目が集まる。

「ところで和兄さん、僕達なにもないところに放り出された訳だけど――お腹、空かない?」


 その時、誰かのお腹がぐうっと鳴った。



 そうして始まる、いきなりサバイバル体験(本格版)。

 参加者は男子中学生一名、女子小学生一名に男子高校生約十名。

 各々の装備は昭君が学生鞄とリュックサック、明ちゃんはランドセル。

 そして男子高校生約十名はほぼ丸腰だ。装備は学生服だけである。

 それぞれ急に現実味を帯びてきたサバイバル体験を前に、急いで何か持っていないかと確認するが……

 男子高校生のポケットから出てきたのは、十円玉が三枚に飴ちゃん八個。

 加えて何故かライターが三本。

 ちなみにライターを持っていた三名は、部長白水に捕獲されて三十分くらいどこかに消えた。

 誰もがそれを致し方なしと黙認する中、課せられた急務は寝床と水場と食べられるモノ探し。

 文明の利器に囲まれて育った少年少女たちには中々の重荷であr――


「兄さん、兄さん、あそこに食べ応えのありそうな鳥(っぽいナニか)が」

「ふっ……!」

「ちょ、和先輩!? その弓どっから調達してきたんですか!?」

「しかも百発百中!? え、三倉って中学時代弓道部だっけ!?」

「弓道部の弓は長弓だろ。和が使ってるのはどう見ても形状違うぞ!」

「あ、この弓? 作ったんだよ、丁度よさそうな枝があったから」

「弓ってそんなすぐに作れる代物だっけ!?」

「急ごしらえだけど、その場しのぎならなんとか」

「兄さん、鳥(っぽいナニか)の下ごしらえ始めても良いかな」

「えっちょ、和先輩の弟さんすんごいナチュラルに鳥の羽根毟り始めたんですけど! 逞し過ぎません!? そんな活発には見えないのに!」

「ああ、待って昭くん! 血抜きと腑分けしないと……効率のいい魔法を知っているから、少し貸して」

「和お兄ちゃん、あっちに川があるみたい。血抜きとか腑分けとか、水場でやった方が……」

「明ちゃん、川の側には色んな獣が集まるから注意して」

「え? あ、そうだよね。お水はどんな動物も大事だもんね」

「そう、肉食の獣だって水場があればやって来るんだ」

「兄さん、野営に適した場所って?」

「それだったらさっき丁度良い場所が……」

「ちょ、三倉! 三倉ぁ! お前、なんかちょっと手慣れ過ぎてね!?」

「あれ、和先輩ってキャンプとかするヒトでしたっけ……」

「兄さん、鳥(っぽいナニか)の部位切り分けたよ」

「うわ、えぐい! いつの間にかショッキングな光景が!」

「弟さん器用だな!? それ日本史の教科書で見たことある!」

「磨製石器!?」

「取敢えず植物は毒性の有無を調べないとだから、肉類で栄養取るとして……この鳥(っぽいナニか)から毒腺っぽいの取れたんだけど、兄さんいる?」

「ちょっと待て、その鳥食べて大丈夫なのか!? 弟さん!?」

「毒液は零してないから大丈夫だよ。たぶん」

「多分!?」

「それより兄さん、調理したいから火をつけてほしいんだけど」

「いつの間にか竈っぽいものが出来上がっている!? え、最近の中学生って土と石でこんなの作れるの!?」

「弟君、火だったらさっき馬鹿どもから没収したライターが……」


「フレイムアロー!」


「……えっ?」

「和先輩の手のひらから、火の玉がー!!?」

「な、和おにいちゃん!? いつの間にそんな特技を……!?」

「ライターはオイルに限りがあるから節約しないとね。魔力だったら寝たら回復するから」

「待って! 超待って! なんか和先輩がいきなり魔力とか言いだしたんですけどー!?」


 慣れない野営の準備にくたくたになりながら、男子バスケ部の皆は眠る場所を整える。

 文明の見当たらない森の中、体験したことも無い深い闇に恐怖と怯えが募った。

 快適な食事も寝床も、この森には見当たらない。

 肉体の負担もそうだが、精神的な負担も少年達の心を追い詰めていた。


「鳥だけじゃ皆の食事も足りないよね。さっき兎っぽい獣を見かけたから、ちょっと狩ってくる」

「せんぱい……タフ過ぎませんか、先輩!」

「お、おい、和?」

「……お前ら、和だけに大変な思いをさせるのか? 和、俺らも手つだっ」

「いいよ、疲れてるだろう? 大人数で行っても気配で逃げられるし、すぐ戻って来るから」

「いってらっしゃい、兄さん。ついでに安全性の高そうな植物がないか探してきて」

「お兄ちゃん、どうして鞄の中に塩胡椒と味の素があるの? オールスパイスまで」

「今日は調理実習だったから」

「調理実習? 何を作ったの?」

「苺のロールケーキ」

「なんで塩胡椒と味の素があるの!?」

「それより明、焼き鳥の火加減見ててよ。僕、兄さんが獲って来る兎(っぽいナニか)を捌く準備があるから」

「………………あれ? 俺ら、この弟さん達と取り残された?」

「和先輩! お願い、早く帰ってきて先輩!」


「あ……っ やばいやばいやばい! 血のニオイに引き寄せられたのか、なんか肉食っぽい獣がこっち見てる!」

「あれはサーベルタイガー……?」

「やべぇ、超ぐるぐる唸りながらこっち来る……!」


「フレイムアロー!」


「遠方から火の玉がー!?」

「サーベルタイガー、吹っ飛んだー!」

「和先輩!? え、あの距離から火の玉当てたんすか!?」

「おいおい、距離80mはあるよな……」

「やばい、何あの命中率。和先輩格好良すぎる……っ」


 問題の見つかった部員の説教に、三十分。

 白水君が部員三名をつれて合流した時には、何故か三十分の間にげっそり疲れ果てた部員達と、急ごしらえで制作した弓矢の改良に励む副部長と、平然としている副部長の弟妹と。

 そして何やら良い匂いを漂わせる、素敵な肉料理が待っていた。




 

 

三倉 和

 ある日、電柱に頭をぶつけて前世の記憶を思い出した男。

 前世は異世界で冒険者的な生活をしていたダークエルフのお姉様だった。

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