プロローグ~良くあるお約束?
ここは、人界。
ディストラクト大陸。
山のふもとの街道。
道幅は3m程で2頭立ての馬車が2台すれ違うにはちょっと難しいくらい。
男がふたり歩いている。
ふたりともに若い戦士のようだ。
ふたりとも黒いローブを羽織り、革袋を持っている。
音を立てずに歩いているところをみると、軽戦士か剣士装備といったところか。
長旅の様相だが、足取りはしっかりしている。
周囲は木々が増え始め、見晴らしが良いとは言えない状況になってきて魔物や盗賊が襲ってきてもおかしくはない。
銀髪の男は黒髪の男に声を掛ける。
「そろそろ、美女の叫び声が聞こえてくるのがお約束だよなぁ?」
「美女限定なのか?」
「そのほうが、やる気が出るだろ?」
「殺る気があるのか?」
「そっちの殺る気?やだねぇ、戦闘狂は。」
やれやれ、といった風に肩をすくめた銀髪の男の横で黒髪の男が立ち止まる。
「きゃ~!」
女性の悲鳴が辺りに響く。
右手の木々の間から、15、6才くらいの少女が飛び出してくる。
少女はふたりに気が付き、一瞬、躊躇したが駆け寄ってくる。
「助けてください!」
黒髪の男が銀髪の男に声を掛ける。
「良かったな。お約束の登場だ。」
「ばかたれ、美女と言うには後5年は必要だろが!」
「大事なのはそっちか?」
「お前は戦えりゃそれでいいだろうがな!」
「俺は強いやつと戦いたいだけだ。」
「あ、あの!」
のんきに話しているふたりに少女が割り込む。
「お願いです!助けてください!すぐ、魔物が来ます!」
銀髪の男が少女に向き直る。
「あ~、わかってる、わかってる。5、いや6ってとこか?」
手をひらひらさせて、少女に声を掛け、途中で黒髪の男へ声を掛ける。
「強い気配が1つあるな、そいつは俺がもらう。」
「はいはい、嬢ちゃん、隠れてな!」
シュッ!
銀髪の男は少女に声を掛けると同時に少女の後方へ何かを放つ。
Gyaooooo!
木々の間から飛び出してきた小鬼の右目に短剣が突き刺さっている。
黒髪の男は音もなく、素早く移動し少女と魔物の間に立ち周囲を見渡している。
黒髪の男はローブを脱ぎ、革袋を置き、戦闘態勢を整える。
動きやすそうな黒い皮製の戦闘服に黒の肩当て、右腕に銀の籠手。
武器は何も装備していないように見える。
(武闘家なの?)
この世界では武闘家は珍しい。
特に無手は。
魔物には毒を持つものが多い。その返り血を浴びるだけでダメージを受ける。
魔物の多いこの世界では、武器を持っていないと即、死につながる。
黒髪の男が腰に手をやり、30cm程の木の棒の束を手にする。
(何?あれは?)
シャキーン!
一瞬で男の手に2m以上の棒が現れる。
黒い影が木々の間から次々と飛び出してくる。小鬼が4体。
シュッ!
ドス!ドス!ドス!ドス!
風を切る音が聞こえたかと思えば全ての小鬼に短剣が刺さっている。
目まぐるしく動く状況に少女が固まっていると、黒髪の男は小鬼の群れへ飛び込み一瞬で2体を打ち倒す。
その直後、巨大な影が木々の間から現れる。
「トロール!?」
その魔物の正体に気付いた時、少女は絶望感に襲われる。
3m以上の巨人で異常な再生能力を持つこの狂暴な魔物はベテランの冒険者のパーティでも簡単には倒す事は出来ない。
通常は暗いところを好み、洞窟や深い森に生息している。
こんな街道に現れる事は滅多にない。
黒髪の男は、即座に小鬼の群れからトロールへと標的を変える。
(えっ?)
ひとりでトロールに向かった男は戦闘を開始。
手負いとはいえ、小鬼の残り3体はまだ戦える。
小鬼も黒髪の男の動きが速すぎて何が起こったのか戸惑っているようだ。
少女の目と小鬼の目が合った。
「ひっ!」
小鬼がニヤリと笑った気がした。
(もう、ダメだ・・・)
少女が目を閉じた瞬間。
パチン!
バシィ!
指を鳴らす音、続けて大きな音がして、肉が焦げる匂いがただよう。
「大丈夫か?嬢ちゃん?」
肩を叩かれ、声を掛けられる。
顔を上げると、銀髪の男が微笑んでいる。
どうやったのか、小鬼は銀髪の男が倒したようだ。
「トロールは!?」
黒髪の男はトロールと激しい戦闘を繰り広げている。
黒髪の男がトロールを押しているように見えるが、再生能力のせいか攻めきれずにいるようだ。
しかし、銀髪の男が加勢すれば状況は更にこちらの有利となるだろう。
「あ~、ま~だ楽しんでやがるな、アイツ。」
(楽しむ!?)
「お~い!とっとと片付けろよ!アーク!」
「俺の邪魔をするな、アレイ。」
「ったく、しょうがねぇなぁ。」
アレイと呼ばれた銀髪の男は戦闘に参加するどころか、小鬼の死体に近付き短剣や小鬼の装備、魔石等の回収作業に入るようだ。
「ちょっ、ちょっと!助けないの!?」
「ん?アイツの邪魔すると後でうるさいんだよ。そのうえ、しつこいときたもんだ。ほっときゃいいんだよ。」
「だっ、だって、相手はトロールよ!?ひとりで勝てる訳がないでしょう!?」
「大丈夫、大丈夫。それより、嬢ちゃんはケガとかしてないか?」
「えっ?」
言われて、少女は自分の体を確認する。
小鬼に追われている時に転んだりしてあちこち擦りむいたりしているが大きなケガはないようだ。
「大丈夫、、、みたいです。」
「ありゃ、けっこう細かい傷があるな、治しとくか。」
パチン!
少女の頭の上でアレイが指を鳴らす。
(治癒魔法!?)
少女のケガが全てなくなっている。
「ナイショだぜ?ばれるとうるさいからな。お~い!いつまで楽しんでんだぁ?おいいしいとこ持ってっちゃうぞ!」
少女がいろいろと困惑しているうちにアレイがアークに声を掛ける。
「そろそろ、いいか。」
つぶやいたアークはトロールの頭上へ飛びあがる。
棒をトロールの脳天へ一気に突き刺す。
「竜雷」
アークがつぶやくと棒が光を放つ。
その瞬間、トロールが崩れ落ちる。
「うそ、、でしょ?ほんとにひとりでトロールを倒しちゃった。」
少女があっけにとられた顔でつぶやいた。
少女の名前が出てこなかったw
次回、説明回の予定です。