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秋葉原ヲタク白書9 リアリティショーの女王

作者: ヘンリィ

主人公は、SF作家を夢見るサラリーマン。

相棒は、老舗メイドバーの美しきメイド長。


このコンビが、秋葉原で起こる事件を次々と解決するという、オヤジの妄想満載な「オヤジのオヤジによるオヤジのためのラノベ」シリーズ第9弾です。


今回は、秋葉原で大人気のリアリティショーのセレブカップルが登場。彼氏は、彼女を差し置き自分の浮気相手をデビューさせようとしますが…


お楽しみ頂ければ幸いです。

第1章 今日もショーの幕が開く

「レイカ、今度の新曲はリップスティックがモチーフなんだって?」

「そうなの!このラブスパイラルNo.7で、恋人を貴女に夢中にしてあげて!」

「そうか!このリップでレイカもディズの唇を独り占めだね!」


なんなんだ?この茶番は?!


ココは、秋葉原のパーツ通りにあるマチガイダ・サンドウィッチズ。

僕達のアキバのアドレス(溜まり場)に、今日は何とカメラが入ってる。


日頃からマスコミに超批判的なユーリ店長が今日に限っては揉み手せんばかり。

さらに、カメラ目線の小娘がタカビーに言い放つ。


「私のリップに導かれて、ディズがもうすぐ来るハズょ!この…あれ?あれれ?」

「マチガイダ・サンドウィッチズ」

「え?間違いだ?え?何?」


この小娘は、明らかに店名を忘れてるみたいなんだけど、傍らで見守るユーリ店長の鼻の下はだらしなく伸びたまま。


スマホ放送局のリアリティショーで店が宣伝されるとあって手放しの喜びようだ。

ココで(恐らくトイレの中で)スタンバイしていたディズ?とやらがカットイン。


パーマ取れかけのクタびれた茶髪を颯爽?とかき上がると意外に額が後退してイル。

しかし、さっきからトイレが使用中のままだったのはコイツのせいだったのか!


「やぁ、レイカ!今日の君の香りに、僕は新たなインスピレーションが湧きそうだょ!」

「もう、ディズったら!もうラブスパイラルNo.7の虜ね!妬けるわ」

「ハイ!アキバのセレブカップル、レイカ&ディズのお2人でした!」


カメラの前で、どう見てもセレブには見えないカップルがギコチなくポーズをキメる。

タカビー小娘の方は、あざとくリップスティックを眼前に掲げ小顔効果まで狙ってる←


ホント目を覆うばかりのB級のTVショーなんどけど、コレが今、アキバの現実を描くリアリティショーとして大人気というから驚く。


「お疲れ!いやぁ今回もいい絵が撮れたなぁ!」

「全然ダメじゃん!アンタ達、もっとNo.7の宣伝しなきゃ!全員最低!」

「なにを!年増アイドルの逝うコトかょ!」


何とカメラマンはミニコミ誌「萌えマガ」編集のスズキくん?彼だけは満足げな笑顔。

しかし、収録直後の現場は正直でセレブカップルとやらは早々に罵り合いを始めている。


アキバの地下(芸能界)を漂う内に気づけば三十路という役者の演じるリアリティショー。

どうやら、セレブ指向の強い地方出身者による虚飾のショーというのが実態のようだ。


「さぁ!次の現場は新曲メインの絵をつくって行こう!」

「新曲?サビのハイトーンが年増ちゃんにはキツいんじゃないの?」

「あら?貴方の大事なめるるちゃんは見つかったのかしら?」


ん?このタカビー小娘(もしかして年増?)は新曲を出すのか?

ソレに、この小娘、よく見ると(年が)逝っちゃってるみたいだけど、いくつなの?


で、このディズとか逝うオッサンは小娘のプロデューサー兼恋人という建て付けらしい。

しかし、確かに逝われてみると小娘の声はアイドルソングを歌うには、少しハスキーだ。


ところで、スマホ放送局って知ってるかな?


契約するとスマホで専用番組が見れるんだけど、世の中には面白い画像が溢れているから、なかなか加入者が伸びないようだ。


かと逝って、メジャーなチャンネル相手では何をやっても叶わないから、自然と番組づくりもニッチ狙いとなる。


そこで登場したのがアキバの地下(芸能界)の内幕をリアルタイムで描きマス!と逝うのがウリのリアリティショーだ。


例えば、今、アキバのあの店でアイドルとプロデューサーが新曲のコンセプトを練っているとすると…


ソコへ突然カメラが入り込み実況中継、視聴者も状況をリアルに共有して、その場にいるかのような錯覚を楽しむ。


やがて、日常的な喜怒哀楽を共有する内に、セレブのライフスタイルが、自分の日常生活にダブって見えてくるようになる。


すると、芸能界お決まりのゴシップが持ち上がり、ソレすらも、まるで自分自身のスキャンダルのように思えてきて…


そうなれば、もう誰もがリアリティショーの虜、この番組を見ずには1日が、いや人生そのものが始まらなくなる、という寸法だ。


「そもそも私はタダのアイドルじゃないの!コスメやエステも手広くやってる実業家なのょ!」

「アンタはエラい!もうアイドルやめて焼肉屋の女将でも目指せょ」

「さぁ次の現場はライブカフェだね。新曲の歌合せのシーン撮り!」


実は、犬猿の仲のニセセレブを影のプロデューサー?であるスズキくんが追い立てる。

彼自身、実は半年前までニートだったのだが、今では立派なリア(ル)充(実)だ。


いやぁスズキくんもエラくなったものだねぇ…

我が子の成長を見るように目を細めてたら、帰り際に彼からウィンクされる。


「スミマセン!テリィさん、実は、またお願いがあるんですが!」


ええっ?リア充からの依頼は受けナイんだけど。


第2章 彼女が本命ガール

その夜、スズキくんが1人でミユリさんのバーにやって来る。

あ、ミユリさんって逝うのは、僕の推し(てるメイド)です。


彼女は、秋葉原で長く続く老舗のメイドバーでメイド長(店長)をやっている。

ヘルプで一緒にシフト入りしてるつぼみんがスズキくんを見つけて声をかける。


「おかえりなさいませ、ご主人…あ、なーんだ。スズキくんじゃないの」

「なーんだはナイでしょ。ミユリさんにテリィさん、マチガイダのロケではどうもっ!」

「何だょ、その順番!テリィさんにミユリさん、だろ?逝い直せょ」


たちまち、みんなから突っ込まれるスズキくん。

カウンターの中では、ミユリさんがクスクスと笑っている。


しかし、スズキくんは意に介さズ、オヤジみたいにネクタイを緩めて何か小難しい名前のカクテルを注文する。


ミユリさんがシェイカーを振り始めると、僕の方に向き直って声を潜めて逝う。


「また消えちゃったンですょ、彼女。リリイベ(新曲ご披露イベント)が来週に迫ってるのに困っちゃって」

「え?彼女って誰だょ。スズキくん、彼女が出来たの?」

「違うでしょ。この前ミユリさんに見つけてもらった萌えプリンセスのコトですょ」


萌えプリンセスってのは、スズキくんのトコロで出してるミニコミ誌「萌えマガ」が主宰してるミスコンの優勝者のコトだ。


実は、今年度のプリンセスが妊娠騒ぎで失踪、極秘で北千住のキャバ(嬢)を代打に立てたんだけど、その子も失踪←


僕とミユリさんとで(代打の方を)ようやく見つけ出した、という経緯がある。


「ええっ?また同じ彼女を探すの?ちゃんと(タレントを)ホールドしててょ!」

「コレは、あくまで前回のアフターサービスというコトでお願いします」

「何ソレ?(タレントの)マネージメントの責任を現場に転嫁?」


萌えプリンセスは、全く有名じゃナイんだけど、歴史だけはヤタラ長くて昼間のリアリティショーに出演?してたレイカは7代目。


そして、僕とミユリさんとで見つけ出したキャバの子は13代目(替玉で失踪までしたのに結局プリンセスに収まってる笑)だ。


そこで今回、歴代のプリンセスを集めてダース売りに…じゃなかった、ユニットを組んで売り出すコトが決まる。


センターは、萌えマガ社長とデキてるとの噂があるレイカで、我等がめるるちゃん(いつの間にやらそんな名前←)はアンサンブル。


「へえぇ。でもアンサンブル(バックダンサー)なら1人ぐらい消えても、いくらでも予備がいるでしょ」

「いいえ。めるるちゃんの代わりは、絶対に誰にも務められません!」

「ほおぉ。ヤタラめるるちゃんに御執心なんだね。弱味でも握られてんの?」


いや、弱味を握られてるのは、スズキくんではなく、プロデューサーのディズだ。


ディズは、リアリティショーの中では、アキバの地下(芸能界)を仕切る若手敏腕プロデューサーとの建てつけ。


ところが、その実態はビジュアル系バンド崩れのバツイチで、未だ若いのに元嫁に毎月慰謝料を振り込む御身分らしい。


「元グルーピーの別れた奥さんって、めるるちゃん似らしくて」

「げげー、未練垂らしの最低男?でも、めるるちゃんにはチャンとセ(ックス)フレ(ンド)がいるんだゼ?」

「ソレが、ディズはディズで、結構テクニシャンだそうですょ」


僕とミユリさんが、北千住のガールズバーで会っためるるちゃんのセフレ(ケンちゃん)は、コレまた素敵に軽い野郎で。


しかし、自分の指使いにだけは絶対の自信を持っていたハズ。

フト、僕はその慢心がセフレを寝取られる隙を生んだのかと思い、戒めとする←


「あら?テリィ様、私の顔に何か?」

「え?あ、いや、ミユリさんの横顔、いつになくキレイだなって…」

「あぁとにかく!ディズの作った新曲が、実はめるるちゃんのイメージなんです!」


スズキくんから、重要情報がもたらされてミユリさんの追求&無用な混乱が回避される。

ところで、この世界で「新曲のイメージは彼女」と逝えば、ソレには2つの意味がある。


1つは、ディズには、めるるちゃんをソロデビューさせる用意がアルというコト。

そしてもう1つは、ディズは、めるるちゃんにもうメロメロだというコトだ。


ミユリさんが、遠慮のない感想を述べる。


「レイカさんは、ソレを承知でリアリティショーではデイズと恋人同士のフリを?痛い(ヒト)

「ヘタすりゃ、恋人?と新曲、両方共めるるちゃんに奪われかねないのなぁ」

「だから!そうならないように、貴女達に頼んでいルンじゃないのっ!」


その声と共に、ホテルチェーンの女社長か?と疑うホドの派手に飾った大きな帽子が御帰宅(来店)して来る!


そのバースデーケーキの大盛りみたいな帽子の下に巨大なサングラスをかけた女は、恐らくレイカだ。


お忍びでバーに来たつもりらしいが、コレで人目を偲んでるかは微妙。

まぁ芸能人のお約束と逝えばお約束なんだが。


「レ、レイカさん!こんなトコロにまで!」

「スズキ!この方には、私が直接お願いに上がると申したでしょう?!」

「で、でも、そんなコトされても話がヤヤコシクなるだけなんで!」


おぉ!何処までも正直なスズキくん!

好きだな、このキャラ!


確かに、このタイミングでレイカさんが現れただけで、何かモノ凄く話が複雑怪奇なモノになってしまった気がスル。


あぁ!何だか、急に色んなコトが面倒臭くなってきちゃったょ!

僕は、火付け人と思しきレイカさんの方を向いて切り出す。


「じゃ、その、またも失踪しためるるちゃんを探すってコトで」

「あーら?今回はソレだけじゃ困るのょ、SF作家さん」

「今回は、キチンと彼女を説得してから返して欲しいのです。前回は、ソレを怠った」


まるで、不良品を納入された!とでも逝いたげなスズキくんの逝いぶり。

途端に、彼のキャラ評はブラックマンデー。


どうやら今回は、先ずめるるちゃんを探し出し、以後レイカさんの前を決して歩かズ、大人しくアンサンブルで踊れ!とシッカリ説教してから連れて来い、というコトのようだ。


うーん、何とウルトラ厚かましい話だ!


「アイドルである私が、姿を偽ってまでお願いに来てイルのデス。こら、スズキ!」

「ハ、ハイ!私からも是非お願いします…ダカレー、おごりマスから!」

「ええっ?ダカレー?ホントに?」


ダカレーは、マチガイダのユーリ店長が気まぐれでつくる裏メニューのカレーで、とてつもなく美味いのだ。


僕が喉を鳴らすのを見て、ミユリさんが小さく溜息をつき、チラとヘルプのつぼみんを見遣る。


つぼみんは、世にも恐ろしい形相で僕を(にら)みつけてから、ミユリさんに(うなず)く。


「とにかく、心当たりを探してみますわ。それ以降のコトは、その後で」

「ありがとう、メイドさん。で、御主人様の方は如何かしら?」

「メイドがそう逝うのなら、彼女の意のままに」


だから!つぼみん!

その顔で睨むの、ヤメテくれないかな。


第3章 万世橋駅の秘密

「ミユリ姉様!テリィ御主人様ったら、ダラシなくカレーに釣られて!」

「だ、誰がダラシないのかなっ!?別にカレーに釣られたワケじゃ…」

「結局、めるるちゃんの居場所を知ってるのは私なんデスからねっ!」


つぼみんは、怒ってイル。


実は、前回も失踪した萌えプリンセス(の替玉)を見つけて来たのは彼女。

元メイドアイドルだった彼女は、夢に疲れたアキバ女子を探し出すのがウマい。


それで、前回はつぼみんに任せ切りだったんだけど、今回は僕も彼女に同行して、人探しのノウハウを吸収しようと思う。


「でもね、つぼみん。何事もテリィ様ぐらいがいい塩梅なのょ。覚えておきなさい」

「甘い!ミユリ姉様は、テリィ御主人様に甘過ぎるのよっ!お願い!目を醒まして!」

「はいはい。じゃまた駅跡(エキアト)に案内して頂戴」


エキアト?あ、万世橋に出来たエキュート(JRの複合商業施設)のコトかな?

実は、ミユリさんって塩ラーメンが好きなんだけど、新しいお店を見つけたか?


よくわからないけど、ミユリさんが店を閉めるのを待って3人で出掛けるコトにする。

つぼみんは、僕が逝くのをエラい嫌がったんだけど、ミユリさんが取りなしてくれる。


「ホントは、男子禁制なんですっ!」

「おおっ!女同士の秘密の花園に、ついに今夜カメラが入るのか?」

「だから!その逝い方が、もうNGなのですっ!」


またも、つぼみんは、怒ってイル笑。


ま、ソレはソレとして、突然だけど、幻の万世橋駅の話を聞いたコトあるかな?

実は、万世橋駅って地上と地下の2つアルんだけど、コレから話をするのは地下の方。


今でこそ、東京メトロ銀座線の末広町と神田は隣同士の駅なんだけど、その昔、この真ん中に万世橋駅というのがあったらしい。


今は、モチロン廃駅となって地下の深い闇に沈み、歴史から忘れ去られ、長い眠りに…

ついていたハズが、コレが何と女子限定の秘密クラブとしてヒッソリ復活していたのだ。


入口は中央通り沿いの歩道にあり、頭上には巨大な御成街道架道橋が架かる。

車道側のマンホールが開けられて工事中の黄色い三角コーンで囲われている。


何人かいる作業員は、黄色いヘルメットを被り、ごく普通の深夜工事に見える。

前を歩いていたつぼみんが、現場監督?に話しかけると、彼は頷いて僕達を招き入れる。


やや?この現場監督は…女性?ヘルメットからカールした髪がのぞいている。

そう逝えば、工事件名が記された小さな黒板に「発注者:第3新東京電力」とある笑。


マンホールの下は、所々が崩れた古いコンクリート製の階段で、地下へと続いている。

つぼみん、ミユリさん、僕の順番で降りて逝くと、分厚そうな鉄扉が閉まっている。


「当店は、男子禁制です。お連れは、入場出来ません」

「そ、そこをナントカ…」

「例外は認めません。お引き取りを…あ、あれ?ミユリ?ミユリなの?!」


つぼみんが、目の前の分厚い鉄扉を奇妙なリズムでノックすると、両目だけが覗ける小窓が開いて小難しい交渉が始まる。


ところが、両目の主が、つぼみんの背後にミユリさんの姿を認めるや、分厚い鉄扉が風にそよぐノレンのように開いてしまう。


「パパ!ミユリょ!ミユリが来たわょ!」

「えっ?ミユリが?アラ、珍しい。どうしたの?」

「パパさん、お久しぶり。お元気でしたか?」


出迎えたのは、フリルヒラヒラのアイドル服を着た…最初は中年のオカマかと思ったけど、どうやら女性のようだ。


痛車ならぬ痛おばさん?この「パパ」だけでも十分に迫力全開なんだけど、さらなる迫力は、彼女の背後に広がる風景だ。


ソコは、ちょっとしたライブハウスくらいの広さの地下室なんだけど、中央にはランウェイ付きのステージがある。


ステージでは、歌手が場違いな民謡かな?初めて聞く山の名前がコブシに揺れている。

ランウェイでは、セクシーなポールダンス、その横のリングでは女同士のボクシング!


コレで客がサラリーマンなら、新橋のビアガーデンなんだけど、この店が特殊なのは、お客もパフォーマーも全員が女性である点だ。


その全員が嬌声を上げ、大声で笑い転げているので、もう地下室は大変な喧騒だ。

逆に淫靡感は皆無なのだが、何かが狂ってる気もする?デカダンスのパラダイス。


ソコは、空気すらもピンクに染まる世界なのだ。


「パパ、ごめんなさい。コチラが今の私の御主人様で…」

「知ってるわょ。ヲタクがテリィさんね?見てるわょ、メトロキャプテン」

「おおっ、素晴らしい!ゼヒ次週でモデルになってください!」


すると、パパさんは満更でもなさそうに微笑む。


メトロキャプテンは、地上波の深夜にやってるヒーローものなんだけど、ヒョンな御縁で僕が原作を書いている。


幸い、番組は深夜枠にしてはヒットして、僕もSF作家として少し売れ出したんだけど、実は毎週ネタ探しにはエラい苦労をしている。


「しかし、この地下室はいったい…」

「旧東京地下鉄道の万世橋駅の客扱室を転用してつくった私のお城」

「えっ?というコトは?」

「この壁の向こうはホーム。目の前を銀座線が通ってるわ」


パパさんは、僕にウサギのマスクを被せ、大きな目覚まし時計を渡しながら逝う。

やはり、男子禁制らしく不思議の国のアリスのコスプレで顔を隠せと逝うワケだ。


「そして、ココはね…夢に疲れた地下アイドルがリフレッシュに来るお店なのょ」

「なんと!では、アソコにいるお客達はもしかして…」

「そう。テリィさんの知ってる顔ばかりでしょ?ステージの上も」


ある調査では、日本にいる「アイドル」は約1万人で、その内の約8割が地下アイドル。

そのまた過半数が、秋葉原エリアに密集し、日夜、苛烈な生存競争を展開している。


その全員が、作られたイメージという檻の中で仮面をつけて生きているのだ。

ソコから生じる様々なストレスを秘密に解消出来る場所、ソレがココと逝うワケだ。


「と逝うコトは、もしかして…」

「そう。踊るアイドルに見るアイドル。同じアイドルなら…」

「踊らにゃソンソン、ってね!」


御令嬢系のアイドルが、ポールに生足を巻きつけ、逆さ吊りになって嬌声を上げる。

リングでは、キャットファイトが始まり、どうやらメイドカフェ同士の対抗戦のようだ。


とにかく、客もパフォーマーも、全員が客の前では出せない仮面の下の素顔を目一杯に解き放ち楽しんでいる。


そのかわり、明日の朝になれば、ココでの出来事は絶対に他言無用と誓い店を出る。

ココは、店も事務所も知らない、自分の中の「秘密の私」を解き放つ場所なのだ。


「で、ミユリ。貴女が直々お出ましになって連れて帰るのは…あの子、かしら?」

「パパ、ごめんなさい。パパのお店にお仕事を持ち込んでしまって」

「まぁいいわ。貴女が選んだメイドの道だものね」


そう逝って、パパさんは僕をチラリと見たんだけど、何か意味でもあるのだろうか?


とにかく!


話は阿吽(あうん)の呼吸で進んで、パパさんがステージの上で秋葉原では場違いな演歌を歌う小柄な女性を指すと…


ややっ?ホントにめるるちゃんだっ!

間違いないっ!


「この前、ミユリのお店の若い子が連れて帰った子ょね?」

「そう。『轟(全秋葉原のダーツ大会)』とぶつかってて、つぼみちゃんに逝ってもらったの」

「2,3日前から舞い戻って来てるわょ。出身は青森みたいね」


ええっ?北千住のAKBバーのチーママは栃木の生まれって逝ってたけどな?

盛んに「モヤモヤ」と歌ってるが、もしかして「靄山(もややま)」のコト?


あの雪深い津軽から出て来たのか。

アイドルになるために、君は。


第4章 リアリティショーの女王

「あ、あらっ!めるるちゃんだっ!わ、何でこんなトコロにいるの?」

「え?あ、人違いです!めるる、なんて人、私、知りません!」

「いいえ!貴女は、絶対にめるるちゃんよっ!」


夕焼けに染まる中央通りのアニメショップの前で、またもや茶番劇の幕が開く。

今夕の役者は、腐女子スタイルのめるるちゃんとメイド姿のつぼみんだ。


今日は、待ちに待った新作ゲームのフィギュア発売日で、ショップ前には行列が出来ている。

ソコにコッソリ並んでいた失踪中のめるるちゃんをビラ配りのメイドが見つけたという絵だ。


「やっぱりアキバに帰って来たんだ!会いたかったょー、めるるちゃん!」

「ウソょ!みんな、私のコトなんか、すっかり忘れていたクセに!」

「なんでー?みんな、心配してたんだょー!」


この夕暮れ時のキモい茶番をカメラを担いで撮ってるのはスズキくんだ。

彼の撮る画像は、リアルタイムでスマホTVのリアリティショーに流れている。


失踪アイドルが、フィギュアを買いに夕暮れのアキバで行列に並ぶ?!

いい絵だ!コレでエキアトで撮影拒否に遭った穴も埋まるとほくそ笑むスズキくん。


あの夜、めるるちゃん発見の報を受けたスズキくんは現場の絵を撮ろうと取材を試みる。

しかし、そんなスズキくんにパパさんが鉄扉を開けるハズがない。


咄嗟の機転で、かねてアニメショップから取材依頼のあったフィギュア発売日を思い出して一芝居打とうと役者を揃えた次第だ。


「うわぁ!じゃもう現場復帰なんだ?!レイカのリリイベに間に合ったね!」

「うん!でも、実はその前に、もうみんなと会えるょ!来てくれるかな?」

「いいともー!界隈のヲタ(ク)、みんな引き連れて押し掛けちゃうぞ!」


あれ?ヘンなコトを逝い出したぞ、この2人は?こんなやりとり、筋書きにナイょ?

めるるちゃんが見つかり、レイカのリリイベに間に合いハッピーエンドと逝う絵だょ?


カメラを回しながら、スズキくんは嫌な予感がして来る。

またレイカが怒りだしそうな「何か」が起こりそうな気配だ。


「この後、私、アソコで歌うんです!めるるの新曲、聞いてほ・し・い・な!」

「え?カジノで歌うの?カッケー!なんかオトナ!」

「今宵は、アトミックパンクナイトです!みんなも流線形でキメてきて!」


めるるちゃんが、交差点に面した雑居ビルを指差すと、ソコには「メイドカジノ」のネオン。

あ!ソコは祖国を追われた亡命者達が革命資金のマネーロンダリングをしてる店なんだが!


しかし、ソレはソレとして、アトミックパンクって何だょ?スチームパンクの弟分?

参ったな、何を着てけばいいんだろぉ?


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


というワケで、とりあえず、僕は胸にNASAのワッペンが付いた白の綿シャツ。

原子力ロケットによる金星探査計画のフライトディレクターとか妄想してみる。


ところで、そのメイドカジノは奥に小さなダンスフロアとバンドスタンドがある。

ソコでカウントを出す僕を見上げ、サックスのリリル、じゃなかったミレイ少尉殿は楽しそうだ。


彼女は、パルプマガジンの表紙でベムに誘拐されそうなピチピチのスペーススーツ姿だ。


「テリィ。貴方ってホント、何を着ても似合わないのね」

「笑ってろょ?次の曲はキューバンルンバで」

「待って、ダーリンが…IT'S SHOWTIME, FOLKS!」


いかつい顔のピットボスが、それでも唇の端を数ミリ引きつらせ(彼なりに微笑んでいるのだ笑)バンマスの僕にアイコンタクト。


実は、彼はミレイ少尉殿の彼氏なんだが、何でこんな美人が奴に惚れるのかわからない。

きっと、暗闇でドスの効いた声でプロポーズでもされ、断わり切れなかったに違いない。


案の定、ピットボスが(ドスの効いた声で)司会(エムシー)を始めると、カジノの喧騒がピタリと止む。

自然とフロアの視線がバンドスタンドに集まるので、僕は仕方なく一礼してからカウント。


イントロは、ミレイ少尉殿のアルトソロだ。

そして、スポットライトを浴びてダンスフロアに進み出るのは…


「今宵の歌姫、ヘレン・めるる。人呼んで〝秋葉原の溜息〟」

「ええっ?誰?アイドルステージじゃナイの?」

「うわっ!何だかオシャレ!」


めるるちゃんは、黒いシックなロングドレス。

そして、彼女は歌う…


朝焼けに萌える電気街

雑居ビルの谷間で私は眼を醒ます

人気も名声も捨て旅立つ朝

貴方が残した楽譜を胸に

この街には戻らない


恐らく・私は・もう二度と


ムリやりJAZZワルツに仕上げてある。

しかし、元がミーハーなアイドルソングなので、コレ以上は手の施しようがない←


エキアトの翌朝から、アキバ中を探してディズを見つけ出し、新曲のデータをハッキング。

超特急でアレンジし、カジノに駆け込んでバンドに楽譜を配ったのがつい1時間前。


もちろん、自信作には程遠い出来なんだが…


「切ない!切な過ぎるょ、この歌!」

「こんな現場は初めてだ。誰かヲレの涙を拭いてくれ」

「誰?この歌を、この歌を歌っているのは…誰なの?」


日頃から、高まる系の2拍子ソングに慣れ親しむヲタ(ク)達には新鮮だったのだろう。

特に変拍子の効果はテキメンで、今やカジノ中のお客の視線は、めるるちゃんに釘付けだ。


そして、彼女が2コーラス目に入ろうとした時、隠れていたトイレのドアを蹴り開けてディズがカットイン!


うーん、さっきからトイレが使用中だったんだけど奴のせいだったのか!

しかし、返す返すもトイレでのスタンバイが好きな奴だな笑。


とにかく!ディズは筋書き通りめるるちゃんの名を呼びながらダンスフロアへダッシュ!

めるるちゃんは、ディズに強く激しく抱きしめられながら喘ぐようにつぶやく。


「ディズ!私は…私は、もう貴方の歌しか歌えないっ!」

「ああっ!脳の中でインスピレーションが…インスピレーションが湧いて来るっ!」

「撮れょ、馬鹿野郎」


あ、最後のセリフはつぼみんだ。


彼女は、メイド姿のままで、スズキくんの側頭葉の辺りにトミーガンをつきつけている。

で、スズキくんだけど、アニメショップの茶番以来、もう半日近くカメラを回し続けている。


今までの画像は、全てスマホTVにより世界中?に配信されているのだ。


「ほらほら!視聴率、スゴいコトになってるょ。しっかり撮らなきゃ!」

「わかった!わかったからスタンガン、下げてよっ、つぼみさんっ!」

「ココで絵がトンだら、アンタ!アキバで干されるょ!」


可哀想に。


つぼみんが、スズキくんの側頭葉にグリグリと押し付けているのはトンプソン機関銃。

もちろん、モデルガンなんだけど、銃口部分がスタンガンに改造してあるのだ。


実は、ヒョンなコトで僕も撃たれたコトがあるが、その時、僕は1発で失神してイル。

その時、カジノの入口の方から、言い争う声が聞こえて来る。


「放して!アレは…アレは私の新曲だったのよっ!」

「もう諦めて!それとも、この醜態もリアリティショーで流して欲しいの?」

「ええっ?!ソレ…だけ…はヤメ…て」


バンドスタンドから目を細めて見やると強引にカジノに入ろうとするレイカと、ソレを阻むミユリさんとがもみ合っている。


実は、今宵のもう1つの見せ場として、元カノに格下げとなったレイカとディズの修羅場って案もあったが可哀想なので自粛中←


数字が稼げそうな絵なので、少しもったいない気もしたけどね笑。


「…わかったわ。私、卒業します!萌えプリンセスも、地下芸能界も卒業しますっ!」

「ねえねえ。せっかくだからリアル失恋酒場とかどうかしら?波が来るカモょ?」

「そ、それもそうね!うん…ソレいいカモ!いただき!」


レイカも、ようやく自分のアイドル価値を見切って事業に専念する決心をしたようだ。

元々商才のある人だから、秋葉原に失恋酒場?みたいなモノが開店する日も近そうだ。


「リアルでフラれて二次元に帰ろう」


そんなコンセプトの店はどうだろう?

意味不(明)だけど笑。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


何でも、あの日のリアリティショーは開局以来の視聴率を獲ったとかで、スズキくんには特別ボーナスが出たらしい。


まさに、スマホ放送始まって以来の快挙らしくて今年のアキバ事件簿の仲間入りまでする。

スズキくんは、単なるミニコミ編集者から今やメディアプロデューサーと呼ばれる御身分だ。


もちろん、今回の出世頭は「リアリティショーの歌姫」めるるちゃんだ。

彼女には、ショーのオンエア直後からメジャーの事務所から引き抜きの声が殺到する。


結局、彼女は事務所を慎重に選び、JAZZメタルとか逝う創作ジャンルのシンガーとして再デビューする道を選ぶ。


もちろん、その際にネームも変わったが、その後の彼女の活躍、そして海外進出の成功については、誰もが知っているとおりだ。


因みに、彼女の移籍後の初PVには僕もバックバンドのメンバーとして映ってイル←


そうそう、ディズの話もしておきたいんだけど、彼はめるるちゃんの新しい事務所に嫌われ、今もリアリティショーの世界で(くすぶ)っている。


ココだけの話なんだけど、実は、ディズって楽譜が読めない(=書けない)んだ。

意外だろ?まぁ、最近ではよくあるコトなんで珍しくはナイけどね。


今は、鼻唄を歌うだけで楽譜に落としてくれる便利なアプリがある。

そして、歌さえ決まれば、あとはコレまたアプリが勝手にフルスコアに落としてくれる。


お陰様で、ディズはディズなりに、彼が逝うトコロのインスピレーションとやらで、今もプロデューサー気取りで地下にいる。


もちろん、そんなアプリの楽譜、現場じゃ全く使い物にはならないんだけどね。

ソレに、奴のインスピレーションってのが、実に大したコトがなくて嫌になる。


実は僕は、ディズがめるるちゃんのイメージで作った原曲のタイトルを知っている。

と逝うのもハッキングした時の作曲データのファイル名が「如何にも」だったんだ。


だって、そのファイル名は「リアリティショーの女王」って逝うんだぜ。

なぁ?いかにも奴のセンスの限界が出てるネーミングだとは思わないか?


ホント、笑っちゃうょな。



おしまい

今回は、アメリカでは人気らしいリアリティショーが秋葉原でもブレイクしている、との前提で、番組をめぐる群像劇を作品世界に持ち込んでみました。


後半、メジャーな世界で栄光を手にする女と地下で燻る運命の男という、ショービズお約束の光と影みたいな要素も盛り込んであります。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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