表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

第8話「ドラゴン・ゾンビ」

 ドラゴン・ゾンビは、ゾンビのようにブヨブヨの気味の悪い肌をしているが、その図体と迫力は、まさに物語の最強の生物さながらに威厳を持っていた。

 何より、自分よりはるかに大きな怪物を前にしたオオヤマは、本能的にドラゴン・ゾンビに危機感を抱いた。


「ま、まずいんじゃねーの!?」

「なあに楽勝だ。サブクエストで倒したボスは、もっとデカかった!!」

「俺、そのボスの事知らないんだけど!?」


 言うが早いか、セイコーは走り出し、ドラゴン・ゾンビに剣を構えた。

 ハァッ!と意気込んで剣先をそのブヨブヨの肌に突き刺す。ところが、ゾンビには痛覚というものがないらしく、この程度のダメージでは怯むこともなかった。ドラゴン・ゾンビは、近づいてきたセイコーを腕を振って吹き飛ばした。


「くっ!」

「セイコー!」


 ファントムはセイコーがやられたのを見て、ブラストの魔法をドラゴン・ゾンビに放った。

 しかし、ファントムの魔法はドラゴン・ゾンビの動きを止めることは出来なかった。巨大な図体でズシンズシンと大地を踏みしめて、二人へと近付いていく。


「はははははっ! 無駄無駄、ドラゴン・ゾンビはそんなチンケな技じゃあピクリともしないよ!!」


 さらにネクロマンサーは、ネックレスを掲げて呪文を唱えた。

 するとネックレスから黒い霧のようなものが漏れ出して、ドラゴン・ゾンビへと吸い込まれていった。


「な、何だ?」

「……おそらく、あのネックレスが力の根源。アレさえあれば呼び出した使い魔をMPの続く限り強化したり回復したりが出来る」


 ファントムがネクロマンサーのネックレスを観察しながらそう答えた。


「でも逆に言えば、ネックレスさえ奪えば使い魔であるドラゴン・ゾンビを倒すことが出来るかもしれない」

「ほ、本当か!?」

「使い魔召喚用の魔道具は、いわばゲームのコントローラーのようなもの。奪い取る、もしくは破壊さえ出来れば使い魔は正常を失う。この状況を打開出来るはず」


 それは大きな弱点だ。ドラゴン・ゾンビがどれだけ強敵でもネックレスさえ何とかすれば脅威ではなくなる。


「はっ、馬鹿が!! そんな事重々承知さ!!」


 ネクロマンサーは呪文を唱え、また数十体のゾンビを呼び出した。


「対策くらい打ってあるよ! 魔道具を奪われたくないなら、そもそも近づかせさえしなければ良いんだ!!」

「くっ、警護をつけやがった! これじゃあ簡単には近寄れないぞ!!」


 オオヤマ歯ぎしりした。

 セイコーとファントムならただのゾンビ程度何ともないだろうが、余所見をしている隙にドラゴン・ゾンビは襲ってくるはずだ。いくら二人でも、数十体のゾンビをまとめて倒すことは出来ないからだ。


「………………なあ」

「ん、どうした?」


 オオヤマが振り向くと、セイコーは神妙な顔つきをしていた。ふとオオヤマの方を向き、視線を合わせ口を開いた。


「お前、この爆弾を持って婆さんに突貫しろ」

「…………え?」


 セイコーの放った一言。

 その台詞を受けたオオヤマは逡巡し、そして慄いた。


「え、えええ!?」

「俺とファントムがあのドラゴンを抑えている。その間に、お前がネックレスを破壊するんだ。この爆弾なら、ゾンビが何体いようと問題なくネックレスごと吹き飛ばせる」

「じょ、冗談だろう!? オレに人間爆弾やれってのかよ!?」

「残念ながら冗談ではない。現段階で一番効率的なのはこの方法だ」

「ま、まじかよ」

「お前は死ぬだろうが、それでゲームはクリア出来る」

「………………」

「ここまでロクに活躍できてないんだ。……最後くらい男を見せろ!!」


 セイコーは、オオヤマに爆弾を差し出した。

 オオヤマはその爆弾を受け取り、しばし硬直していた。

 そして、


「う、うわああああああああああああああああああああ!!!!」


 オオヤマはネクロマンサー目掛けて駆け出した。複数のゾンビに取り囲まれようと、彼は全力でネクロマンサーに近寄ろうとする。


「な、此奴……まさか!?」

「くたばれ化け物めええええええええええええええええ!!!!」


 オオヤマが叫び、手にしていた爆弾を起動した。

 瞬間、凄まじい爆音が轟き、数十体のゾンビと共にネクロマンサーとオオヤマは弾け飛んだ。魔道具のネックレスも巻き込む形で。

 ネックレスが破壊されるとドラゴン・ゾンビは絶叫を上げながら肉体がグジュグジュに崩れ落ち、消滅してしまった。


「………………」

「………………」


 セイコーとファントムは、無言でその様子を眺めていた。

 絶叫が収まり、爆発痕だけが残った場に二人はそっと歩み寄る。

 黒焦げた肉片が散らばるのその場所で、セイコーはネクロマンサーのとんがり帽子を拾い上げた。


「ほらファントム。プレゼントだ」

「……貴方」

「奴は必要な犠牲だったのだよ。あのままでは、俺達は全滅していた」

「それはそうかも知れない。けど」

「まあ積もる話はあるだろうが、メインクエストはこれでクリアだ。まずは街へ戻ろうぜ」


 そう言ってセイコーは、残骸を放置して街へと戻ろうとする。

 ファントムは、未だ残るその爆発痕をしばし見つけていたが、やがて彼女も帰路へ着いた。





 ……街へ戻ると噴水前にオオヤマが居た。

 オオヤマはかなり不機嫌そうだったが、元の世界に戻ったら飯奢ってやるという約束を結んで、何とか仲を取り持ったのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ