第6話「盗賊団の頭」
「ヒャッハー!! さみだれぎりじゃい!!」
セイコーは、突貫した。ファントムから貰った武器で大幅に強化された自身の力を思う存分に奮っている。
シャベル一本でも難なく倒せていた盗賊団が、完全装備に敵うはずがなく、セイコーの連撃によりバッタバッタと倒されていった。
その様子を、オオヤマとファントムは後ろの方で傍観していた。
「……強いんだな、彼」
「ほらな。やっぱりあいつが強い過ぎるんだよ! オレが弱い訳じゃなかったんだ! 雑魚一体くらいだったら俺だって……」
「あ、オオヤマ。横から盗賊が一人近付いてくるぞ」
「ああぁぁああああああああん!!」
オオヤマは悲鳴を上げて慄いた。
だが、紙一重のところで盗賊の攻撃を回避出来たようだ。
「ブラスト!!」
すかさず、ファントムは魔法を唱えた。炎の玉が盗賊に向かって放たれ、直撃した瞬間その玉は激しく爆発して盗賊を倒した。
「大丈夫か!? オオヤマ!」
「も、問題ない。……ファントム、今のは魔法の力か?」
「『ブラスト』という爆発系統の魔法さ。直撃した相手を爆破して屠れる」
「……便利だな。オレもそういう魔法を買えば良かった」
オオヤマがぼうっとしている間に、森の盗賊共は全員片付いたようだ。
セイコーは、自分が倒した盗賊共から手に入れたお金を見て、ご満悦な表情を浮かべている。
「……セイコー」
「何だ無能」
「これからは、お前が敵を全員倒してくれないか?」
「働け」
ですよねー、と一人呟いて、オオヤマはセイコーの後を追う。
森を抜け、巨大蜘蛛が現れてる盗賊団の住処まで辿り着いた。
前回は苦戦を強いられた一行だが、装備を整えた今なら楽勝で敵う相手だ。あっという間にセイコーとファントムが蜘蛛をやっつける。
オオヤマは後ろで応援していた。
そして洞窟の最奥地。
ひとまわり広い空間になっているその場所で、大柄で強面な男が剣を構えてこちらに対峙していた。
「どうも外が騒がしいと思えば、侵入者か! 亡くなった同胞の無念、この俺が貴様らの命で償わせてくれようぞ!!」
盗賊団の頭が、先制攻撃を放った。
「喰らうが良い! 爆裂剣!!」
彼が剣を振ると同時、振った箇所が弾け飛んだ。
セイコーはその攻撃を華麗にかわす。しかし、盗賊団の頭は、次々と剣撃の嵐を浴びせてくる。
「ちっ、一旦距離を取るか!」
「させん! ソニックブーム!!」
盗賊団の頭が放った一振りが、風のようにセイコー目掛けて飛んだ。
セイコーは、その一撃を自身の剣で受け止めた。剣の重みがセイコーの腕に伝わってくる。
「斬撃を飛ばせるのか!? こいつ、今まで相手にした雑魚とは格が違う!!」
「当然だ!」
盗賊団の頭の剣撃は終わらない。
セイコーも何とか反撃に出ようとするが、練度は相手の方が上のようだ。なかなか隙を伺えず、防戦一歩となっている。
「……やばいな」
「私もサポートしよう。魔法で頭を牽制する」
ブラスト! と言ってファントムは爆発魔法を放つ。
しかしその攻撃を、盗賊団の頭は剣一振りで防いでしまう。
二体一という状況下でも、どうやら盗賊団の頭の方が上手らしい。
オオヤマは、どうしたものかと様子を見ながら自分の出来ることを考える。
「あーどうしよう! 俺の出来る事と言ったら、魔法でゴーレムを召喚する事しか出来ねーけど……」
他に取れる手段は今の段階ではオオヤマには思いつかなかった。
とりあえず、オオヤマは自分の下僕を召喚する。
「サモン!」
そして現れる巨大な守護神。今のところ、役にも経つし役に立たないところもあるこの召喚獣を、オオヤマはどう扱ったものかと考える。
「ええーい! とにかく攻撃だストーンゴーレム!! 盗賊団の頭に一撃浴びせてやれ!!」
主人の命令を受け、ストーンゴーレムは動き出した。
しかし、その動きが亀のように鈍く、素早く移動する盗賊団の頭にはとてもでないが追いつくことが出来ない。
「馬鹿が! そんな遅い珍獣に、この俺がやられるものか!」
盗賊団の頭は、ゴーレムを無視して、立ちっぱなしのオオヤマに投げナイフを放った。
「危ない!」
身を捩り、間一髪のところでそれを回避する。
二人を相手取っても、盗賊団の頭には余裕があった。このままでは、いずれセイコーとファントムはやられてしまうだろう。
「ちくしょう! どうすれば良いんだ!!」
オオヤマが嘆いたその時、
彼の腰から、ピカッと何かが白い閃光を放った。
見ると、そこにはファントムがくれた魔法の剣があった。
「……これは」
「お、オオヤマ!! その剣を使って!! そいつの渾身の一撃をお見舞いすれば、此奴を倒すことが出来るはず!!」
「わ、わかった!」
ゲーム説明も何も受けていないオオヤマは、細かいことは考えず言われた通りに行動する。まさにチュートリアルを現在進行形で受けている様子だ。
MPを消費し、魔法の剣が持つ奥義を使おうと身構える。
(先のことは知らない。だから今、ここでオレのありったけを奴にぶつける!!)
奥義【サンダーストーム】。
魔法の剣はMPを送った分だけ強い電撃を蓄えた。
強大な奥義を発動する状態でスタンバイされる。その魔法の剣を、オオヤマは衝動の赴くままに力いっぱい縦に振った。
「くらえええええええええええええええっっ!!」
その瞬間、雷が洞窟中に放たれた。
狭い洞窟で流れ出した雷は、瞬く間にそこにいる全員を痺れさせた。
「「「ぬおわあああああああああああああああああ!!!!」」」
男達の悲鳴が轟く。
そして盗賊団の頭は、雷の直撃を受けて、その場で気絶した。
ファントムはマントを翻して盗賊団の頭元へ駆け寄って、状態を確認する。ファントムのマントは、身を隠している間、魔法攻撃を軽減する能力が備わっており、間一髪雷の直撃を受けずに済んだのだ。
「……よし、盗賊団の頭は倒した。これでクエスト達成! 二人共、お疲れ様!!」
ファントムは、セイコーとオオヤマのいる方向を振り向く。
しかし、二人は魔法の剣の奥義を受けて、盗賊団の頭と同様完全にノビていた。
「あ……うん。仕方ない、二人を街まで連れ帰るか」
ファントムは、男二人を担いで街へと戻った。
こうして第一のメインクエストは、数々の苦難もありながら見事クリアすることが出来たのであった。