第5話「魔法の剣」
「ファントム……だと!?」
オオヤマは、突如現れたその女性をよく観察する。
このゲームを始めてからの出来事、そして今の発言から鑑みるに、この女性はさっき牢屋で騒動を起こした際に脱獄した囚人の一人なのだろうと推測出来る。
ファントムは、みすぼらしい格好で申し訳程度のマントを羽織っている状態だった。
マント……魔法のアイテムの類か、もしくはただのおしゃれか。
オオヤマは、世のマントの必要性が判然とつかない現代っ子だ。なので、ファントムが何故マントを付けているのかがとても気になっていた。
「貴方達、強い武器が欲しいのでしょう? 私に心当たりがあるからついて来なさい」
オオヤマがくだらない事で考え込んでいると、ファントムはセイコーとオオヤマを何処かへ案内したいらしく、こっちに来いと誘ってきていた。
明らかに怪しい誘い出し。乗るべきか、断るべきか……。
「どうするセイコー」
「どうって、ここで立ち往生してもしょうがねーだろう。俺は多少怪しくても美味い話に話には食いつく性分なんだ」
セイコーはファントムの話に乗るようだ。
オオヤマも、別行動をとるのは下策だと判断したらしい。疑いの眼を向けながらもファントムの後をついて行く。
街を進んで行くと、人通りの少ない裏道のような場所に入っていった。先程までの明るい街並みとは程遠い、如何にもダークサイドが住まいそうな所だ。
何が起きるのかわからない。オオヤマは周囲の警戒を強めた
そして、ファントムは一つの家の前で立ち止まると、鍵を取り出して扉の錠を解いた。
「ここよ」
ファントムが扉を開く。二人もファントムに促されるままに、中へ入って行く。
すると、古い家の中にはたくさんの武器が置かれていた。大男が好みそうな巨大なハンマーに、暗殺に使いそうな投げナイフ、グネグネと曲がった剣のような物もあった。
どうやらここは武器庫らしい。
「……ここは、何なんだ?」
「私が持つアジトの一つ。盗んだアイテムをここに保管しています」
「へぇー」
「……貴方達、ここに気に入ったものがあれば好きに持って行って良いよ」
「マジか!?」
セイコーは諸手を挙げて大いに喜んだ。いくら盗賊が弱かったとはいえ、流石にシャベル一本では心もとないと思っていたのだろう。
早速、セイコーは武器庫を物色する。なるべくかっこいい剣が欲しいなぁ〜と呟きながら、目星で性能の良さそうなものを探している。
「い、良いのか? こんなにたくさんある中で、ほとんど初対面の奴に武器をあげても」
「うん。助けてくれたお礼だよ」
ファントムは特に気にした様子はない。
オオヤマも、武器庫の武器を探ってみる。自分に適してそうな武器は無いか、チラチラと端から端まで見渡した。
そして、オオヤマは一つ妙な輝きを持つ剣を見つけた。
「あ、あれは何だ?」
「魔法の剣だよ。自身のMPを消費することで奥義を放つことが出来るお宝さ」
「またMP消費のアイテムか」
「ここの武器庫では、一番性能が良いかも知れないかな」
オオヤマは魔法の剣を手に取る。
魔法の剣を伝って何か不思議な力が流れ込んでくるような、そんな錯覚をオオヤマは感じた。
「……これ、貰っても良いか?」
「ああ構わないよ。好きに持って行ってくれ」
「お、オオヤマはもう決めたのか!?」
「おう。……ってお前、いくら何でも貰い過ぎだろう!?」
セイコーは、剣に斧に槍、防具はフルに装備して投げナイフや鎖、ピッキング用の針金など小道具もポケットに入るだけいっぱいに詰め込んでいた。持てる分だけ頂きました、という感じだ。
「貰えるもんは貰って行かねーとな!」
「まあ、ファントムさんが良いなら別にオレは何も言わねーけどさ」
「ファントムと呼び捨てで構わないよ。装備を整えたら、早速盗賊団のいる場所に向かうのか?」
「そうだな。一刻も早くカンバと合流したいし」
「なら、私も連れて行ってはくれないか? 私も戦いの心得はあるし、貴方達には恩返しがしたいんだ」
……どうしようかな?
オオヤマは腕を組んで考える。
しかし、おそらくこのファントムという女性は、ゲームNPCだ。
現実世界の住人なら警戒するに越したことはないが、ゲームのキャラクターなら助けになってくれた方が心強い。
「わかった。これからよろしく頼む、ファントム」
「よろしく!」
「セイコーも、構わないよな?」
「この状況で戦力が増えるのはマジで助かる。何せ一人ど下手くそが居るからなあ」
「……誰のことを言っているのか分かんねーな」
オオヤマは惚けたようにそっぽを向いた。
こうして二人は、新たな仲間ファントムを味方に、ゲーム攻略を目指す事となったのである。