第3話「脱獄」
「ここで一晩、反省するんだな!」
牢屋の扉が開き、オオヤマは無理矢理奥に突き飛ばされた。
ガチャンと無機質な錠の閉まる音がこだまする。衛兵はカツカツと靴を音を鳴らして牢屋の前を離れていった。
「クッソー! 彼奴のゲームは相変わらずロクな展開にならねーな!! これフラグとかじゃないんだろう!? なんで初手から独房ルートに入る事になるんだよお!!」
オオヤマは大声を上げて叫ぶが、それで誰かが駆けつけて来るわけではなかった。
ハァッと溜め息を吐いて、オオヤマは牢屋の壁際に座る。
「よお、お前もここに来たんだな」
「って、セイコー!? 同じ牢屋だったのかよ!!」
独房は薄暗く、辺りをちゃんと見ていなかったオオヤマは、いつの間にか隣に居たセイコーに驚いた。
「あーあ、まさか開始五分で前科が付くとはな。なかなかシビアなゲームじゃねーか」
「お前のは自業自得だけどな」
「何とかして脱獄して〜が手立てがねえ。おいオオヤマ、カンバはどうした?」
「さあ? 彼奴の性格からして、助けに来てくれるとは思えねーな」
「じゃあ俺らで脱獄するしかねー。装備も全部取られちまったし、牢屋から出る方法を模索……」
セイコーは考えに耽ってしまったようだ。
オオヤマも何か脱出の手段は無いかを周囲を見渡しながら考える。
牢屋の鉄格子は頑丈そうで、鉄の扉には当然の如く鍵が掛けられている。ピッキングなどの都合の良いスキルは持っていないし、針金もない。
そもそも持ち物からして、オオヤマはここに来る間に武器と防具を衛兵に取られていた。
「あ、そうだ! ちょうど良い物があったんだ! さっきは使い物にならなかったけれど、今なら……」
オオヤマは、先程購入した魔法を使うことを閃いた。
MPを消費して召喚獣を召喚! たちまち、図体のデカい怪物が現れた。
「うおっ!? 何だそいつは!!」
「行けストーンゴーレム! 鉄格子を破壊しろ!!」
ストーンゴーレムは命令に忠実だ。すぐさま目の前にある鉄格子へ歩み寄り、その太い石の腕を思い切り叩きつけた。
人間を閉じ込めておくための設備も、流石にこの巨体の猛攻を防ぎ切ることは出来ないようだ。圧倒的な重量に負けた鉄格子は破壊され、セイコーとオオヤマはその開いた隙間から牢屋を脱出した。
「いよっしゃああああ自由だあああああああああ!!」
「まだはえーよ! 衛兵が駆けつけて来る前にここから出るぞ!!」
オオヤマは出口を探りながら通路を走る。
セイコーも、オオヤマの後を追いながら周囲を見渡しているようだった。
「……おい、お前が呼び出した怪獣みたいなの。牢屋の鉄格子を片っ端から壊してるぞ」
「何だと!?」
オオヤマが振り返る。
ストーンゴーレムは「鉄格子を破壊しろ」という命令を忠実に実行に移していた。自分達が閉じ込められていた牢屋の鉄格子だけでなく他の囚人が捕まっている牢屋の鉄格子も壊しまくっているのだ。
「「「ヒャッホーウ!!」」」
囚人達は、自分達を閉じ込めていた忌々しい鉄格子が壊れると同時に飛び出してきた。
騒ぎに駆けつけてきた衛兵達は、そのあまりの事態に困惑しているようだったが、逃げ出そうとする囚人達を何とかしようと直ちに捕らえに向かった。
「よっしゃーチャンスだ! 衛兵が気を取られている今のうちに脱獄するぞ!!」
「何でこんなことに……オレら、もしかしなくても大勢の囚人を解放した大犯罪者になってるんじゃねーか!?」
オオヤマは叫ぶが、今更起きたことをどうすることも出来ない。
脱獄を目指す二人の後方では、衛兵と囚人の激闘が行われていた。確かに、今なら出ていっても気付かれることはないだろう。
「あ、ツルハシとシャベルがある。これ頂いていこ〜っと」
セイコーが逃げ際に何かを見つけたようだが、オオヤマはそんな事には気にしない。一目散にその場を離れていく。
……そして、どれだけ走り続けただろう。
気付くと、二人は最初の噴水前まで戻ってきていた。
ハァハァと荒い息を吐きながら、オオヤマは追っ手が来ないことを確認してようやく一息吐いた。
「ほら、オオヤマ。ツルハシだ、これを持っておくと良い」
「……そんなもの何に使うんだよ」
「何もないよりはマシだろう。俺の好意だ、有り難く受け取っておけ」
確かに、装備を失ったこの状況下では何も無いよりはマシかも知れない。
オオヤマは、セイコー盗んだつるはしを手に取った。これは採石用の道具だったのだろう。薄汚れており、随分とくたびれていた。
「よしっ、盗んだツルハシを受け取ったな!? これで俺達は窃盗仲間だ! 同じ境遇として助け合おうぜ!!」
「誰が窃盗仲間じゃい!!」
という訳で、セイコーとオオヤマは無事(?)脱獄する事が出来たのであった。