第2話「買い物」
たった三人しかいなかったパーティーメンバーの内の一人、セイコーを失った二人はそんな奴を放っておいて買い物をすることにした。
そしてここは装備屋。クエストを受けるために必要なアイテムは装備はここで手に入れることが出来る。
「ふんふん、剣に盾に鎧……。魔法の武器なんていうのもあるのかあ。でも、値段がそれなりにするのなぁ」
「この世界ではお金が全てだよ。お金の分だけ良いアイテムを揃えることが出来るんだ」
「お金っていうのは、クエストを達成することで報酬として貰えるのか?」
「そういう事。とりあえず、所持金で自分が気に入ったアイテムを買うと良いよ。因みに僕は、剣士スタイルで剣と鎧を買うよ」
カンバは足早に店主の元へ行き、所持金を使い倒す勢いで装備を買っていく。ある程度このゲームのセオリーを知っているのだろう。動きに迷いはない。
一方、オオヤマは何を買ったら良いのかわからず、右往左往していた。
「……カンバ、ここ以外に買い物出来る場所ってないの?」
「色々あるけど、そうだなあ……。魔法が使えるようになる道具とかあるけど」
「魔法?」
カンバは、オオヤマ店の奥に案内する。
すると、そこには小さな物売り場があり、ローブを身に纏った男がカウンターの椅子に腰掛けていた。
「ここは魔道具屋さん。『グラウンドツリー』では、魔法を使うにもお金がいる。ここでは、色んな魔法を使えるようになる魔道具が売られてるのさ」
オオヤマは、店の商品を眺める。
商品の説明を確認していると、オオヤマは気になるものを見つけた。
「ん、《召喚【炎の精霊】》っていうのがあるな。何だこれは?」
「それは召喚魔法だね。それを使えばMPを消費して召喚獣を呼び出せるんだ」
召喚魔法は、他にも様々な種類のものがある。中には凄く高額だが、ドラゴンを呼び出せる物もあり、オオヤマはこれに大きく興奮した。
「オレ、これ買おうかなぁ」
「え、やめといた方が良くない? 魔法ってかなり高いから、これ一つ買うと他に何も買えなくなるよ」
「だーいじょうぶイケルイケル! 最低限の武器や防具は最初からあるし」
そうして二人の装備が決まった。
初期装備は、石の剣と皮の鎧のみ。
カンバは、石の剣から鉄の剣に買い替え、防具もワンランク上の物を購入した。
オオヤマは、初期装備のままで魔法《召喚【ストーンゴーレム】》を購入した。
それぞれの買い物を済ませた後は、カンバを先頭にギルドへと向かった。このギルドでは、モンスターの討伐、アイテムの採取などのクエストを受けられ、成功すると報酬をもらうことが出来る。
「……いきなりメインクエスト、行っちゃう?」
「マジか。まあ良いけど」
メインクエストを受諾する。
内容は、最近出没するようになった盗賊団を討伐してくれというものだった。何でも、その盗賊団の頭は、エラく腕の立つ剣士らしく、強大な剣技を巧みに扱うのだとか。
二人は説明を受け、ギルドを出た。
「そうだ。俺の買った魔法、早速試してみたいんだけど良いか?」
「お好きにどうぞ」
「じゃあ……サモン!!」
オオヤマがMPを消費して召喚獣を呼び出す。
そして現れたのは体長3メートルにも及ぶ巨大な石の怪物。『ゴーレム』と言われる守護神の姿がそこにはあった。
「おお、かっこいい!!」
オオヤマは、その巨大な図体の召喚獣に感激した。
ストーンゴーレムは、召喚したっきり身動ぎもせず直立不動の状態でいる。
「……あれ? こいつ何もしないぞ。命令とかしないとダメなのか?」
「ああ。ストーンゴーレムは、主人の言うことしか聞かない。オオヤマ、何か指示してみるよ良いよ」
「よし! ストーンゴーレム、動き出せ!!」
その瞬間、ストーンゴーレムの目がギラリと輝き出し、それが合図かのように足を前に進ませた。
ドシンドシンと大地を強く踏みしめるその挙動は、まさに主人を護る屈強な番人そのものであった。
「おお、凄い!!」
オオヤマは惚れ惚れとする。
ストーンゴーレムは主人の命令に忠実に従う。「動け」という指示のままに前へ前へと進む。前へ前へ。前へ前へ前へ前へ。
「…………ん?」
前へ前へ前へ前へ。
前へ前へ前へ前へ前へ前へ前へ前へ前へ前へ。
「ちょ、待て! 止まれ! 止まるんだストーンゴーレム!!」
しかし、ストーンゴーレムは大山がどれだけ叫ぼうとも止まらなかった。
「お、おい! どうなってるんだ止まらねーぞ!?」
「あーこれテストプレイだからねー。バグか何か発生したかなぁ……」
「これだからお前のゲームに付き合うのは嫌なんだ!!」
そして、ストーンゴーレムは遂に街の建物にまで足を踏み入れた。頑丈な召喚獣は、建物にぶつかっても尚、動きを止めることはなかった。
破壊される壁。悲鳴をあげる住人達。駆けつける衛兵。
「おい、貴様! 街中で何をしている!?」
「現行犯だ!! 器物損害の罪で逮捕する!!」
「そんな!? これには訳があって……」
「言い訳は独房で聞こうか!!」
オオヤマの手首に手錠がかけられた。
衛兵に強制的に連れられるオオヤマは、懸命に弁明をするが全く聞き入れたはくれなかった。
カンバは、その様子をただ傍観していた。
「あちゃー参ったなぁ……これじゃあ通常プレイどころじゃないねー」
どうしたものかと思案をするが、十秒で思考放棄してカンバはメインクエストを受けることにした。
「チュートリアルも受けることなく二人脱落、か。……面白くなってきたじゃん! だから彼奴らとのプレイはやめられないんだ!!」
こんな状況でも、カンバは楽しそうだった。否、この状況こそがカンバの求めていたもの。
『仲間たちと馬鹿をやる』、それが何よりの娯楽であるというのが、カンバの自論だ。
カンバは、仲間を助ける気は毛頭なかった。彼奴らなら勝手に何とかするだろうと、ある種の信頼のようなものがあったからだ。
「さーてと。取り敢えずメインクエストに行ってみますか。手始めに……彼奴らより先に世界の英雄になろう!」