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2番目だけど3番目

一番。それは輝かしい栄光の数字。誰よりも高い誉の頂へ足を乗せたもの。

二番。それは一番に後れを取ったもの。悲しく苛立たしい敗退者。

では、三番目は?







「っだあぁああぁああぁあああーーーーーーーーーーーーーーっっ!!」


バリィッと無駄にでかい叫び声に負けず劣らぬ派手な音を立てて薄い冊子が引き裂かれた。短い一生を終えたそれは、叫び声を上げた男に現実を突き付けるという立派な役割を果たしたのだから悔いはきっとないだろう。

そんなことを思いながらまったく同じ内容が書かれている自分用の薄い冊子へと視線を落とす。


『流転の四季』人気投票結果と大きく書かれた文字の下、数字と共に並ぶ名前。

順位と共に得票数が印刷され、一位の者は見開きページで紹介と投票してくれたファンからの応援メッセージがいくつか掲載されている。

次のページを捲れば二位の者が―ページを飾り、隣のページ上半分を三位、四位と五位が残りの下半分を分け合っているページの割り振りだった。


ふぅんと興味なさそうに壁に背を預けてそれを眺めていると、腹の底から叫んだであろう男が二分割した薄い冊子を木目柄の床に叩き付けた――のだが、両手を振りかぶって、と妙な格好で行われたそれは冊子が薄いお陰なのか、一枚一枚の紙の厚みの関係で上手く冊子に力が加わらなかった所為なのか、はたまた他の要因か。

派手な音も衝撃もなく、ぺふすっと面白い音を立てて落ちた。


「今回は勝ったと思ったのになぁんで負けたあぁああぁーーーーーーっ?!」


ガッデムとか意味を理解していないだろうに追加で叫びそうな頭を抱えた男の名は(とし)(はる)という。身長百六十センチの成長期を終えたマッチョに憧れる華奢な十八歳。

ファンの間ではその愛くるしい見た目からシュンシュンと何処かの大熊猫みたいな愛称で呼ばれている。


彼が鍛えているのに全然筋肉に変換されないと嘆く細腕で引き裂いた薄い冊子、そのページは一位の見開きページで、彼が載っているのは次のページ、つまり二位だ。それ故の嘆きと咆哮だったのだが……これを編集したのは一体誰なのだろう。

『熊は熊でも小熊猫!愛くるしい(シュン)(シュン)、敗因は筋肉不足か?!』だなんて煽り文句がついている。


恐らく自分が一位であるとウキウキしながら冊子を開き、期待を裏切られての裂く&クライングだったのだろう。この高血圧悪化剤のような文句を見ていれば、あの程度の咆哮では済まないと嘆息してから冊子を閉じた。


「なんでなんでなんでなのさっ!毎日腹筋、スクワット、腕立て伏せ三百セット、走り込みだって三キロやってるのにどうして二位なんだよぉおおぉおおぉっ!!」


うわあぁああぁんっとこの世の無常を嘆き悲しむかのように(くずお)れる彼に誰か突っ込みを入れて上げては如何だろうか。頑張るところはそこではない、と。


そもそもショタっ子として人気がある彼に筋肉を求めているファンは正直そう多くない。それは応援メッセージに寄せられている『シュンシュンには筋肉がなくてもけも耳と肉球手袋があるよ!!』『奇跡の十八歳ショタばんざーい!』などからよくわかる。筋トレに燃えているのは俊春だけだ。


本人はファンの反応にご不満らしいが、子供のように頬を膨らませて怒るのでファンは「怒る姿もサイコーです!」と完全に楽しんでいるようで人気は大変よろしい様子でなによりである。

当然ファンがわざと怒らせているのだと本人は気付いていない。

そして反応が面白いので周囲は誰も教えない。可哀想に。


「残念でしたね。今回も僕が一位で、君が二位ですよ。と・し・は・る」


「しゃあぁーーーーらぁあーーーーっぷ!!俺はお前に負けてなどいないっ!!」


くすくすと顔立ちと口調だけは品が良く穏やかに見える性根が悪そうな言葉を紡いだ男に、俊春は目を吊り上げてビシリッとキレはよろしく恐さが悲しい程にない睨みと指先を向ける。


「おや、人を指差しては失礼だと誰かに学びませんでしたか?」


にこにこと愛想は良さそうに見える白い見た目に黒い腹を持つ男の名は(しゅう)()という。本人が口にしていたように見開き一位の座に輝いた今回の人気投票の勝者だ。

口調こそ丁寧だが、口を開けばその大半が毒なので『黙って微笑んでさえいれば文句なしの王子様』などと紙一重どころかダイレクトに失礼なことをインタビューで言われ、


「罵倒するならもっと徹底してくれますか?中途半端は耳障りなだけで心地良くないんです。やり直しを要求します」


などと聞いていたその場の全員が我が耳を疑うとんでも発言を笑顔でさらりと言ってのけたおかしな感性の持ち主である。

彼の名誉の為に付け加えるが、Mがつく嗜好はないらしく、やるなら徹底しないと格好悪いという彼なりの美学に基づいているとのことだ。


突き抜けた思考回路が意外性を呼んでいるのか、それとも「綺麗に笑って罵って!」なんていう聞いているこちらが心配になってくること謳う物理的に熱を放つファンの応援があるのか、彼は人気投票の度に一位に輝く王者である。


「うるさいうるさいうるさぁあぁーーーーいっ!!そこに直れぃこの毒吐き男めっ!!」


「やれやれ、昨日もう少し語彙を増やすようにと辞書を渡したのに勉強の一つもしないなんて……。本当に勝つ気があるんですかね、シュンシュンは」


「シュンシュン言うなぁああぁああああーーーーーーっ!!」


身長百八十センチのしなやか細マッチョな十六歳。年下であるところが余計に俊春の気に障るのだろうが、そこは自然の不条理。どうにもならないと一応年上なのでわかってはいるようだが、秋夜のからかいにどうしても乗せられてしまう為に私語が始まればこの二人は大抵こんな感じである。


「相変わらず(かまびす)しい」


煩いのはお前らだ、などと口を挟めば理路整然プラス叫びが向けられるので傍観に徹するのが正解のやり取りをいつものことと眺めていれば、隣の壁に寄りかかってきた男がそう呟いた。


「飲むか?」


ん、と手にしていた紙コップを一つ差し出されて有り難く受け取る。

コップの中に揺れる透明ではない色の飲み物を目視確認してから鼻先を近づけて匂いを確かめる。スポーツ飲料水の匂いがしたので大丈夫かと口を付ける。


何を疑っているのかと問われたならば、前科があるからだと答えよう。

控室で今のように飲むかと渡された飲み物を疑いもせず見もせずに口に含んで盛大に噴き出した笑いに昇華して欲しい過去。

鮮やかな緑の液体は芳醇な緑茶の香りを湯気と共に立ち昇らせていたのに、湯呑みの底には大量の白い塊。…………砂糖だった。


以前ココアを飲んでいたのを見て甘いものが好きなのかと思い、それならばと親切心で溶け切れない程の角砂糖を湯呑みにセットして緑茶を注いでくれたらしい。

渋みもなければえぐみも旨みもない甘味料の味がした緑茶はトラウマ案件だ。


「甘い方がよかったか?」


疑いながら口へ飲み物を運んでいたらそんなことを問われ、塞がっている口の代わりに手を振ることで否定を示す。二度もやられては堪らない。

プロレスのヒール役が褒めてくれるであろう見事な噴出をした場を掃除する羽目になったあの虚しさは、衝撃的な味と共に忘れられない。


「そうか」


じぃっと観察されていたので何か用があるのかと思いきや、自分の分の紙コップに口を付けているので会話は長く続かない。

マイペースというのもどこか違う気がする独特な空気を持っている男の名前は()(ふゆ)という。名前だけなら女かと思う字面と音だが、本人を前にすれば失礼しましたと即座に謝らせてしまう迫力の偉丈夫である。


身長百七十センチの身を見下ろす長身は百九十センチ、俊春が羨む細でもゴリでもない適度なマッチョボディ。そんな彼は人気投票四位の物静かな不思議君。

放っておくと鳥の巣みたいな頭になっている癖の強い髪を持つ意外や意外、眼鏡が似合う文学青年の十八歳。


何をどうしたらそんな見事な大胸筋がとよく問われているが、おっとりした中身とがっちりした体格のギャップに萌えたファンの差し入れにプロテイン入りのものが多いのが原因の一つだと思われる。

もっとも、美冬は小食な為その大半は俊春の腹に収まるので謎と言えば謎である。


「まぁ~た俺が最下位とかおかしくない~?」


どすりと肩だけでなく左半身でぶつかってきたのは、身長百七十センチ細身の長髪、一番見た目がそれっぽい男の名前は夏彦(なつひこ)という。

人様にぶつかって来るだけでなく厚かましくも体重をかけて寄りかかってくると、問題なく紙コップの中身を飲んだ姿を捉えてひょいっと手を伸ばしてきた。


「俺にもちょーだい」


返事を待たずに長い指で強奪した紙コップの中身を口にするこの男は人気投票五位の甘えたくんである。一見どころか何度見てもチャラいと思われる風体なのに、その中身は構ってくん。ちゃんではない、くん。

懐っこくても歴とした男なのでちゃんとは呼べない性格なのだから取扱注意だ。


ちやほやされているのは気分がいいが、ベタベタされるのは好きではなく、かとっいって放っておかれると気分が悪くなるらしい。

構って欲しい相手はその時々という気分屋なのが玉にどころではないただの(きず)

それでも愛想はいいので上がり下がりの激しい気性もしょうがないなと笑って受け止めてくれる包容力高い方々に人気の十七歳。


「一位が秋夜で二位が俊春。圧倒的大差で負けたみたいに俊春は騒ぐけど、二人は得票数わりと競り合ってるよね。俺と美冬は時々順位入れ替わることあるし」


「前々回は夏彦が四位だったな」


こくりと人から強奪した飲み物を嚥下しながら騒がしい一位と二位の二人のやり取りを眺める夏彦に同意する美冬。

ふいにその長身を屈めたかと思えば、足元に置いていたらしいペットボトルから自身の紙コップにスポーツ飲料をおかわりしていた。


「飲むか?」


そしてそれを渡してくれる。夏彦に強奪された飲み物が帰って来ることはないだろうと諦めていたので有り難く受け取り、やはり口にする前に確認してしまうが大もとの容器を目にしているので安心して口を付ける。普通の味だ。


「何があろうと動かないのは三位の(とう)()だけだよね~。揺らがず安定、不動の三位、堂々たる盤石の真ん中だってさ我らがリーダー」


中身の軽くなったであろう紙コップとは別の手で開いている薄い冊子を示し、三位の部分に載せられた褒めているのか貶しているのかと問いたくなる煽り文句を読む夏彦の口元には悪戯な笑みが浮かんでいる。


「橙里に勝つのが俺たちの目標だな」


「な~」


何処か楽しそうに人を間に挟んで笑いあう夏と冬のコンビをどうしたものかと思っていれば、


「だぁああぁっもう埒が明かねぇ!!橙里っこの自己愛激しい奴黙らせろよ!」


「誰がナルシストなのかな小熊猫ちゃん。俊春に足りないのは筋肉ではなく豊かで正しい語彙力だと君も教えて上げるべきだよ橙里」


春と秋からは意味のわからない飛び火が来た。

無難に聞き流している間に何を言い争っていたんだこの二人は、と溜息を吐きたくなるそんなボクの名前は橙里。人気投票三位の究極のマイペース、らしい。

身長百七十センチ、マッチョではないがそれなりに肉は付いている細身の二十歳。


春夏秋冬おまけの(だいだい)、五人揃って『流転の四季』、アイドルやってます。

勢いで書いてます。アイドルについての知識はない。過去に乙女ゲーで一作品触れた程度。

「実際にはありえない!」もあるかもしれないですが、ゆる~く見守ってくだされば嬉しいです。

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