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絶体絶命悪役令嬢  作者: 8D
絶体絶命悪役友情
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五話 無力感と絶望感

 これはおかしいのではないか? と思う所がありましたら、ご指摘いただけるとうれしいです。

 直させていただきます。

 最悪だ……。

 目撃者が、レセーシュ王子とテネルだなんて……。


 鉢植えの件を知っていたのは、テネルの方だろう。

 彼は、いつもレニスを迎えに屋上へ行っていたから。


 うう……。

 前の時と違って、証言の信憑性が高い。

 極端な話、真実ではなかろうが彼がそうだと言ってしまえばそうなってしまう身分の人間である。

 これなら、十分に証拠として成り立ってしまう。


 これは……前にも増して絶体絶命だ……。


「ふふん、今までの威勢はどうした?」


 レセーシュ王子がにやりと意地の悪い笑みを浮かべて問う。


 こんな状況だ。

 顔色だって悪くなるし、威勢もそがれてしまう。

 でも、ここで私が頑張らなければレニスは犯罪者にされてしまう。


 彼女がやっていないと言ったなら、私は彼女を信じる。

 彼女が犯人ではないのなら、ジェイルを殺害しようとした人物真犯人がいるという事だ。


 真実では無いのなら、絶対にどこかおかしな部分があるはずだ。


 私は、表情を改めた。

 背筋を伸ばし、まっすぐにレセーシュ王子を見る。


「威勢ですか? 今でも十分にありますよ」

「ほう……。だが、そのドリル頭に私を納得させられるだけの言葉が詰まっているとは到底思えぬがな」


 ドリル!?


 この世界にはその掘削機はないはずでは?


「つかぬ事をお聞きしますが、ドリルとは?」

「ふん、知らんのか? ドリル・ホリス・スーム伯爵夫人の事を」


 ドリル・ホリス・スーム!?


「お前がしているような髪を縦にロールする髪型を作り出した伯爵夫人だ。自身の髪型の起源すら知らぬとは、昨今のドリラーも質が悪いな」


 この髪型の人間をドリラーとかいうのか。


 酸素カプセルを取りながら地底を掘り進んでいけと?


「そんな事はどうでもいいです。私にあなたを納得させられない? やってみないとわかりませんよ」

「いいだろう。なら、もう一つ証拠をくれてやろう。お前が、早々に諦められるようにな」


 まだ何かあるのか?


 王子が憲兵に命じ、何かを持ってこさせる。

 憲兵が持ってきたのは、一枚の絵だった。


「これは現場のスケッチだ。私が書いた」


 鉛筆で書かれた、うつ伏せに倒れるジェイルの絵である。


 ジェイルの他にも、現場の状況が簡潔に描かれている。

 ジェイルの後頭部には包帯が巻かれ、そこに円形の染みが描かれている。

 鉛筆の黒一色で書かれているが、恐らく血の染みだろう。

 靴の裏は綺麗だ。

 そばには黒一色の植木鉢が落ちている。

 中は土に満ちていて、花が植えられている。

 この植木鉢が凶器という事か。

 彼女の左手側には校舎の壁が見える。


 あれ?

 何か違和感がある。

 ジェイルってこんなんだっけ?

 何か足りない気がする。


 ……あーダメだ。

 どこがおかしいかわからない。


「えーと、これは王子が?」

「そうだ」

「倒れたジェイルをのんびり模写してたんですか?」

「馬鹿な。発見後、速やかにジェイルは病院へ搬送された。これは、私が憶えていた光景を書き出しただけに過ぎない。ちなみに彼女の状態以外、現場は記憶ではなくちゃんと模写している」

「じゃあ、彼女の状態には記憶違いがある可能性もありますね」

「いや、間違いは無い。私は記憶力がいいのでな」


 すごい自信だ。

 でも、だからこそこの絵も証拠として十分に機能してくれそうだ。


 私の目的は、レニスの無実を証明する事。

 まずは、彼女の犯行が不可能だった事を証明する方向でいってみよう。


 私は絵から王子に向き直る。

 口を開いた。


「ジェイルの頭部に命中した鉢植えはこれで間違いありませんか?」

「血痕も付着していた。間違いはない」

「おかしくないですか?」

「何の話だ?」

「屋上から落とされた鉢植えなのに、どうして原型を留めているのですか?」


 陶器の鉢植えなら、普通は原型を留めていられないはずだ。

 割れてしまう。


「そんな事か」


 レセーシュ王子は「愚かな」と言わんばかりに肩をすくめる。


「この鉢植えが割れる事はない。何故なら、この鉢植えは鉄でできているからだ」

「鉄!? それはそれでおかしいでしょう! そんなものが屋上から直撃したら、死んでしまいます」


 そんな物が当たったら、原型を留められないのはジェイルの頭の方だ。


「現に大丈夫だったではないか!」

「女の子の頭は超合金でできているわけではありません!」


 王子の反論に私も反論する。


「ちょうごうきん? まぁいい。……彼女は階段から突き落とされても骨折一つしなかった。それほどに頑丈なら、屋上から落とされた鉄の鉢植えの直撃にだって耐えられたはずだ」

「そんなわけは……」


 あるかもしれない。


 ゲームの展開でも同じものがあるのだから。


 ゲームでの彼女も、鉢植えを屋上から直撃されて無事だった。

 これはテネルのイベントだ。

 文化祭の前々日、つまりこの事件の日までに好感度が一定以上ないと同じ事が起こってしまう。

 イベント後、妹の犯行に心を痛めたテネルが主人公に別れを告げ、攻略不可能になるというものだ。


 ちなみに、狙ってプレイすればアリシャによる突き落としイベントから鉢植え直撃イベントへ流れるようにシフトする事が可能だ。

 今のように。


 それでも、イベントが終わればそんな大事件がなかったかのようにケロリとしているのがジェイルという主人公である。


 ありえなくもない。

 おかしくないか。


 ……いや、やっぱりおかしい。

 あれはゲームでの話であって、現実でそんな事が起これば死んでしまう。


 とはいえ……。

 それを完全に否定する事もできない。


 今は、証明できないか。

 なら、別の切り口からいってみよう。


「ですが、たとえそれで無事だったとして」


 意識が戻らない状態を無事とは言えないけど。


「そもそも、屋上から地上にいるジェイルを狙う事は可能でしょうか? それも頭に直撃させる事なんて、私にはできると思えません」

「できるかできないかではない。たとえ、それがほとんど不可能な事柄であったとしても、現に命中している。相手を害する意思があり、その意思を行動に移した。それが重要なのだ」


 むっ……。

 もっともだ。


 たとえ偶然の要素が強くても、そこに殺意があるならばそれは罪だ。


 未必の故意という奴だろう。


 くっ……。

 彼女の犯行が不可能であった事を証明できない。

 この方法じゃ、彼女の無実は証明できそうにないな。

 他に証明できそうな事柄はないか?


 何か聞いてみようか。


「あの、聞き忘れていましたが。そもそも、レニスの動機は何なのでしょう?」

「現行犯だ。そんな物を証明したとて、罪は覆らないぞ」


 確かにそうだ。


「だが、強いて言うならばジェイルがテネルと親しくしていたからだろう。彼女は、兄に近づく女を許さない。前科もある」


 あの事か。

 否定したい所だが……。

 現行犯である以上、今はレニスの無実を証明する事が大事だ。


「そうですか」


 これでもダメだ。


 少し状況を整理しよう。


 凶器は鉢植えだ。

 鉢植えは、屋上から落とされた事になっている。

 だが、鉄の植木鉢を落とされれば普通なら死ぬ。

 いくらジェイルが頑丈だからといって、それで生きていられるとは思えない。


 だが、植木鉢には血痕がついていた。

 なら、これが凶器である事には間違いない。


 凶器は植木鉢。

 しかし、屋上から落とされたものが直撃したとすればジェイルが助かるわけはない。

 だから植木鉢は屋上からの落下によってジェイルの頭に打ちつけられたわけじゃない。


 ならば恐らく、植木鉢は何者かの手によって鈍器として打ち付けられたんだ。


 私は、もう一度スケッチを見る。


 やっぱり、そういう事だろう。


「王子」

「なんだ?」

「このスケッチ……。ジェイルの後頭部に描かれた黒い染みについて詳しく教えてください」

「それは血が滲んだ染みだ。前の事件で包帯がまだ取れぬというのに、痛ましい事だ」


 やっぱり、これは血の染みなのか。


「これがどうした?」

「おかしいと思いませんか? 頭上から落ちてきた植木鉢を受けたというのに、後頭部から出血するなんて」

「何だと!」


 王子は動揺し、私からスケッチを受け取った。

 スケッチを睨むようにして見る。

 この指摘は、王子にとって思いがけない事だったのだろう。


 なら、この動揺を衝かせてもらおう。


「もし、屋上から落とされた植木鉢が命中したとするならば、頭頂に当たるはずです。後頭部に怪我を負うわけがありません!」

「ならば、何故後頭部に傷があるというのだ?」

「恐らく、それは犯人に殴られたからですよ」


 どうだ!


「……いや、どうであろうな」


 しかし、王子の口から出たのはそんな否定の言葉だった。


「不意にうつむいた時に当たっただけかもしれんぞ」

「そんな状態で当たったら間違いなく死にます!」

「ジェイルならあるいは……」

「ジェイルの頑丈さをどこまで信じているんですか!」

「ジェイルを信じているわけではない。お前を信じていないだけだ」

「!?」

「これまでの自分の行いを振り返ってみる事だ。自分が他者からの信頼を受けられる人間であるか」


 確かに、王子の言う事はもっともだ。

 自分本位で自分以外には厳しくわがまま、絵に描いたような悪役令嬢。

 多くの人間をたいした理由もなく傷付けてきた。

 それが記憶を取り戻す前のアリシャ。

 私なのだから。


 王子が嫌悪感から私を蔑ろにする事は当然か。

 けれど、諦めるわけにはいかない。


「……王子。

 あなたの推理は、破綻しています。

 ジェイルが鉄の植木鉢を受けて生きていた部分も、屋上から凶器を当てたという部分も、後頭部の傷も全て偶然の要素が強すぎます。

 それなら、背後から後頭部を植木鉢で殴られたと考えた方が論理的です!」

「だが、完全に否定する事はできないはずだ。完璧な証拠がない以上、貴様の証言など聞く価値などない」


 ぐぐ……。

 まったく取り合ってくれない。


 初めから、私の言う事なんてまともに聞く気がないようだ。


「それ以上に言う事がないのなら、ここで議論は終わりだ。予定通り、レニス・トレーネは追放とする」


 ここで証明しなくては、終わらされてしまう。


 何か……。

 何か言わなくちゃ……。


「待ってください!」

「何だ?」


 声を上げては見たが、それ以上続かない。

 今までの証拠でレニスの無実を証明するものが、見つからない……。


「えーと、その……」

「無いようだな? では、議論は終わりだ」


 もうダメだ!


 私じゃあ、レニスを助けられないのか……?

 そんな……。

 そんな事って……。


 私は、無力感と絶望感に打ちひしがれる。


 その時だった。


「兄貴」


 アスティが言葉を発する。


「何だ?」

はたから聞いている限り、どちらの言い分もあまり大差ない。どちらも不可能ではないという点では」

「何が言いたい?」

「どちらにも、決定的な証拠がないという事だ。断ずるには時期尚早だと思う。そして、このまま言い合いを続けても埒は明かないだろう」


 アスティの言葉に、レセーシュ王子は眉根を寄せた。


「では、どうしろと?」

「今の状況を議論して埒が明かないというのなら。もう少し詳しく事件の状況を開示するべきだ。まだ、語られていない部分があるだろう」

「ふむ……。いいだろう」


 レセーシュ王子は唸ってから答える。


 よかった。

 何とか議論が終わらずに済んだ。


「ありがとうございます、アスティ王子」

「お前が頑張ったからだ。お前が一考の余地を作り出したからこそ、兄貴は応じたんだ。兄貴がその気なら、俺が取り成しても聞いてくれないだろうからな。だから、兄貴を完膚なきまでに納得させる証拠を突きつけてやれ。でなければ、無実を証明できないぞ」

「わかりました」


 まだ、これからだ。

 絶対に、レニスの無実を証明してやるんだ。

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