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絶体絶命悪役令嬢  作者: 8D
絶体絶命悪役友情
8/74

四話 状況説明と目撃者

「ほう……」


 私が言うと、王子は目を細めた。


「思ったよりも真っ当な事を言う。しかし、貴様の言葉など聞くに値しない」

「どうしてですか?」

「如何に許されたとて、お前が犯罪者であるという事実に変わりは無い。そのような者の言葉を私が聞くと思うか?」


 ここで、それが仇になったか。


 事実を公表すれば、少なくとも言葉を聞いてもらえはするかもしれないが……。

 その場合はマルテュスが犯人だった事が広まってしまう。


 折角、償いとして汚名を被ったというのに、それでは意味がない。


「それに貴様は、自身の犯行を隠蔽するために最後までみっともなく足掻いたそうではないか。あれこれと詭弁を弄してな。大方、今回も屁理屈や口八丁でやり込めようと考えているのだろう?」

「……いいじゃないですか。屁みたいな理屈だと思うなら、堂々と論破してみればどうです?」

「そのような下品な言い回しをするとは……。品位が知れるな。初めから誤った事を語るとわかっている者を相手に、一々言葉を弄する事は時間の無駄だ」


 挑発に乗ってこないか……。


 どうしよう……。


 このままじゃ、論ずるまでもなくレニスが犯罪者にされてしまう。


「待ってくれ」


 そんな時、どこからか声がした。

 声のした方を見ると、人垣が開いてアスティが現れる。


 私達のいる中央へと歩いてきた。


 レセーシュ王子がアスティを怪訝な顔で見た。

 声をかける。


「何だ?」

「俺は、議論するべきだと思う」

「何を言うかと思えば……。お前がその女の味方をするとは思わなかったぞ」

「彼女の味方をするわけじゃない。俺自身も、今回の事には疑念がある。このまま、精査なく人を断じるべきではない。王族としては、公正を以って事に当たるべきだ。そう思っているのは、恐らく俺だけではない」


 アスティは、講堂内にいる生徒達を見回した。


「ここで王族の横暴を臣民へ晒すべきか?」

「……なるほど」


 アスティの言葉に、レセーシュは呟いた。


「いいだろう。ならば、ここで全てを明らかにしよう。それならば、問題あるまい」


 よし。

 これで、レニスの無実を証明する事ができるかもしれない。


 でも……。


 アスティが私の隣に来る。

 私はアスティを見た。


「どうして、助けてくれたんです?」


 あなた、私の事嫌いでしょ?


「……今度こそ、お前を信じ抜こうと思っただけだ」

「私を?」


 訊ね返しても、アスティは答えなかった。

 待っても何も言いそうにないので、私はレセーシュ王子へ向き直った。

 口を開く。


「では、事件の詳しい経緯を話してください」

「いいだろう」


 王子が、事件の状況を語り始めた。



 事件が起こったのは、昨日の放課後。

 時刻は五時頃。


 現場は、校舎横だ。

 学園の正門から見て右手側。

 L字型校舎の長い方の線の先端に位置する場所だ。

 塀と校舎の間にある場所である。

 人通りは少ない。


 ジェイルはそこを通る途中、屋上から植木鉢をぶつけられたそうだ。

 そのまま昏倒し、今も意識は戻っていない。


 校舎横には窓がなく、物を落とすとすれば屋上以外に考えられない。

 そして、その時屋上にはレニスだけがいた。

 犯人は彼女以外考えられないとの事だ。



 ジェイル……。

 また、被害者になっちゃったのか……。

 ゲーム展開をなぞっているから仕方ないけれど、かわいそうに。

 しかもまた頭だ。

 大丈夫だろうか?


 あとでお見舞いに行こう。


 時間からして、あの火災警報鐘の騒動があった後か……。

 その後の彼女は、屋上に言っていたから事件の状況と一致する。


 あの時帰らずにレニスを追えばこんな事なんて起きなかったかもしれないな……。


 アスティが一緒に帰ろうと誘ったからだ。

 この、アスティめ!


 ……逆恨みだけど。


「何故俺を睨む?」

「いいえ」


 私は王子に向き直った。


「あの、どうしてそれが発覚したのですか?」

「どういう意味だ?」


 私が訊ねると、王子が聞き返した。


「だって、普通はジェイルが倒れていても屋上から鉢植えが落とされたと思いませんし、その時にレニスが屋上に一人でいたなんて事証明できないはずです。まるで、その状況を見ていたような話なので……」


 言うと、王子が不敵に笑った。


 まさか……。


「無論、見ていたからだ。目撃者がな」

「な、なんですって?」

「正確には、事件が起こった直後の状況だがな」

「事件直後? もっと詳しくお願いします」

「いいだろう。目撃者は、倒れる被害者を発見した。被害者のそばには植木鉢が落ちており、植木鉢が屋上においてあった物だと知っていた目撃者は屋上を見上げた。すると、そこにはこちらを見下ろすレニス・トレーネの姿があった。そういう話だ」


 な、何て事だ……。

 状況証拠が完璧じゃないか。


 でも、甘い。


「では、その目撃証言がレニスを犯人と決定付ける証拠なのですか?」

「そうだ」


 なら、大丈夫だ。

 目撃証言だけなんて、証拠としては弱い。

 それは前の時にわかった事だ。


「待ってください。その目撃者は本当に信用できるのでしょうか?」

「どういう意味だ?」


 王子は不愉快そうに訊ね返した。


「言っては悪いですが、レニスは評判が悪いです。それは、ある噂と人となりのせいです。友達もいません」


 レニスがショックを受けたようにこちらを見た。


 ごめん。


「なので、誰か彼女に悪意ある人物が嘘の証言をしたという可能性もあります」

「ほう、なるほどな。では何か? 目撃者は嘘吐きの卑劣な人物だと?」

「かもしれません」

「王族を公然と嘘吐き呼ばわりとは、いい度胸だ」

「え?」


 私は目撃者の話をしていたのに。

 どうして王族の話になる?


 あ、もしかして……。


「顔色が悪くなったな」

「も、もしかして目撃者って……」

「私だ」


 なんて事だ。

 目撃者が王族だなんて……。


「信用がおけないか?」

「いえ、そんな事は……」


 こう言わざるを得ない。


「それに、私だけではない。もう一人、目撃者はいる」

「それは誰です?」

「彼女の兄、テネル・トレーネだ。彼が、彼女に悪意を持つ人間だと思うか?」

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