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絶体絶命悪役令嬢  作者: 8D
絶体絶命下町少女
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九話 残った謎

 今回はシルヴァーナ夫人視点→アリシャ視点になっています。

 ソファーに身を投げ出したゴルディオン様。

 テーブルの手の届く場所には、ワインとチーズ。

 何かを忘れようとするように飲むペースは速かった。


 わたくしにはわかっていました。

 あの方の手を速める理由。

 焦る理由が。


「ゴルディオン様。これ以上、慈善事業に資財を投入するのはお止めください!」

「何を言うんだ。シルヴァーナ。恵まれない者に手を差し伸べる事は、身分ある者の義務だ。やめるわけにはいかない」

「あなたの志は理解しています。ですが、当家の財政は傾きつつあるのですよ? 家人への給金まで滞っているのです」

「わかっている……。だが、皆なら耐えてくれるはずだ」

「私達に尽くしてくれている者の報いる事ができなくて、何が身分ある者の義務ですか!」


 言い放つとゴルディオン様は立ち上がり、わたくしへ詰め寄りました。

 その行動に恐怖を感じ、私はたじろぎます。


 そしてゴルディオン様の手が、私の胸倉を掴みました。

 手の力は強く、首が締め上げられる。

 私の背が壁にぶつかる。


「君にはわからないのか! 僕の気持ちが! 僕の妻である君が!」


 意識が朦朧とし始める中、締め上げられる首の苦しみと、ゴルディオン様の罵声だけが、私の思考を占めていました。


 その時、わたくしが何をしたのかわかりません。

 ただただ、苦しさから逃れるように動き、そして……。


 気付けば、ゴルディオン様は倒れていました。

 仰向けになったゴルディオン様。

 テーブルの角には、赤い色……。


 それを見て、わたくしは全てを悟りました。

 わたくしは、ゴルディオン様を殺してしまったのです。


 その時の私には、まるでそれ以外の音が消えてしまったかのように、激しい鼓動の音だけが聞こえていました。


 なんという恐ろしい事をしてしまったのでしょう……。

 涙が溢れてきました。


 憲兵に連絡をしなくては……。


 そう思っていると、部屋の扉が開きました。

 入ってきたのは、使用人の一人です。


 使用人は部屋の惨状に目を見張ると、驚愕の表情で私を見ました。


「奥様、これは……」

「わたくしが……やりましたの」


 私は、何があったのか使用人に説明しました。


「憲兵に通報してちょうだい」


 そう頼むと、使用人は息を呑んだ。


「……いえ、どうにか隠蔽しましょう」

「そんな事……」

「奥様はいつも、わたくし共に良くしてくださる。だから、そんな奥様を憲兵に突き出すような事はしたくありません」


 私は弱い人間。

 だから、その言葉に抗う事はできませんでしたわ。


 その後、遺体の隠蔽には数人の使用人達が協力してくれました。


 そして私を助けようと行動してくれた使用人達の事を思えば、私はあの場に飛び出す事しかできなかった。

 使用人に罪が及ばぬように、自分でどうにかしたかったのです。


 しかし悪事は、明るみに出るもの。

 それを強く、実感する事になりましたわ。


 もしくは、我が身可愛さに無実の少女を貶めようとした事を神がお許しにならなかったのかもしれませんね。




「待て! 晩酌中に殺害されたという話だが……ならば家で飲んでから外でも飲んだかもしれないだろう!」

「えっ! そ、それはえーと……。もちろん、それに関しても納得していただけるだけの論証を用意しています」


 どうしよう……。

 そこまで考えていなかった。


 アリシア検事への反論を考えている時だった。

 シルヴァーナ夫人は、諦めたように深く溜息を吐いた。


「もう、よろしいですわ……。ゴルディオン様を殺したのは、わたくしです。遺体の隠蔽は、使用人に命じてわたくしがさせた事ですわ」


 その告白に、裁判上は静まり返った。


 アリシア検事も舌打ちし、黙り込む。

 そんな中、私はシルヴァーナ夫人に声をかける。


「では、認めるのですね。あなたが被害者を殺害した、と」

「はい」


 シルヴァーナ夫人は深く頷いて答えた。




 シルヴァーナ夫人が罪を認めた事により、メーフェは無罪判決を勝ち取った。


 法廷の待合室。

 そこで待っていた私達の前に、彼女が連れられてきた時。


 その表情は複雑な物だった。

 安堵はあるだろうが、どこか素直に喜べないようでもあった。


「どうしたの?」


 私はその様子を訝しみ、そう訊ねる。

 すると……。


「……ありがとう」


 憮然とした様子でメーフェは礼を言った。


 その様子に、彼女がどういう心境なのかを私は察した。


「どういたしまして」


 逸らされた目が、再び私へ向けられる。


「約束だから、信じるよ。姉ちゃんの事」

「うん。ありがとう」

「兄ちゃんの事も」


 と、アスティへも顔を向けて言う。


「おう」

「えーと、あんたは……」


 初対面だからか、ルーに対しては言いよどむ。


「お構いなく」


 軽く戸惑った様子のメーフェに、ルーは淡々と答えた。


「それにしても、姉ちゃん頭良いんだな」


 メーフェはそういうが、私としてはそれを疑問に思う。

 頭の回転は速い方だと思うが、基本的に矛盾点の指摘とハッタリでどうにかしている。


 解決までの道筋も見えずに行き当たりばったりでどうにかなっている事ばかりなので、決して頭が良い訳ではない。


「でも……」


 メーフェは小さく俯いた。


「どうして、私のナイフが現場に落ちていたんだろう?」


 そういえば、あれについては結局何故なのかわからなかった。


 刺し傷があったという事は、誰かに刺されたという事だ。

 でも、メーフェのナイフには血がついていないようだった。

 なら、被害者を刺した刃物は別だという事ではないだろうか?


 何より、シルヴァーナ夫人との議論ではそれについて何も触れなかった。


「ナイフを無くしたって言ってたけど、いつ無くしたかわかる?」

「えーと……あ、あれ?」


 メーフェは困惑した様子で声を出す。


「捕まった日の朝には持ってたはずだ。あれで果物の皮を剥いて食べたから間違いない。それからすぐに捕まったんだ」

「つまり、容疑者として捕まった時には間違いなく持っていたわけだ」


 それは……かなりおかしな話だ。

 少なくとも、事件発覚時の現場にナイフはなかったという事なのだから。


 こんな事が起こりえるとすれば、考えられる可能性は……。


 現場検証は、全てアリシア検事が取り仕切っていたという話だった。

 確証はないけれど。


「無敗の検事、か」

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