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絶体絶命悪役令嬢  作者: 8D
絶体絶命悪役友情
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三話 友を信じて

 学園に登校すると、教室がいつにも増して騒がしかった。

 みんな、文化祭の準備に手が付かない様子で、そわそわと何かを話し合っている。


 こういう時、クラスに親しい人間がいないと不便だ。

 そう思っていた時だ。


 教室に担任教師が入って来た。

 席に着いた生徒達を前に、口を開く。


「えー、これよりレセーシュ様より講堂にて発表がある。皆、今より出席するように」


 レセーシュ・R・トレランシア。

 この国の第一王子だ。

 つまり、アスティの兄。

 兄弟ではあるが、腹違いのため見た目があまり似ていない。

 アスティの髪色は赤だが、レセーシュの髪は白に近い金髪だ。

 体格は筋肉モリモリマッチョマンのアスティと違って、ほっそりとした長身である。

 ゲームにおける攻略対象の一人でもある。


 そんな彼が、何を発表するのだろう?


 疑問に思いながら、私は他の生徒達と同じく講堂へ向かった。


 講堂には、他のクラスの生徒達の姿があった。

 中央に空間を作るようにして並んでいる。


 この学校は前世と比べて特殊だ。

 講堂内には校長先生が立つような壇上はない。

 こういう発表をする時は発表者が講堂の中央に立ち、それを生徒達が囲うという形になっている。


 立ち位置は違うが、この様相はあの日の事を思い出す。

 私が断罪された日だ。

 正直、居心地は悪い。


 しばらくそのままで待っていると、生徒達が全員集まったのか扉が閉じられた。

 そして、奥から四人の人間が中央へ向けて歩いてきた。


「え?」


 その人物を見て私は驚きの声をあげる。


 その四人とは。

 一人はレセーシュ王子。

 二人の憲兵。

 そして、憲兵に挟まれるようにして歩くレニスであった。


 レニスはうな垂れたまま歩いている。


 どういう事?


 四人が中央に揃うと、レセーシュ王子が口を開く。


「もう、聞き及んでいる者もいると思うが……。私はここでこの者、レニス・トレーネの学園追放を発表する」


 学園追放!?


 周囲がざわついた。


 学園追放。

 それそのものに実害が伴うというわけではない。

 学園も貴族として最低限の知識と教養を得るための施設であり、何もそこを卒業しなければ貴族でいられないというようなものではない。

 だが、学園を卒業する事はこの国の貴族ならば当然の通過儀礼である。

 学園の卒業は、貴族として最低限の名誉は得られる事柄なのだ。


 そして、その当然としての名誉を得られない者は貴族社会において侮蔑の対象となる。


 恐らく、ゲームにおいて私が家から放逐されたのもそれが原因の一つではないだろうか。


「この者は昨日の放課後。ジェイル・イーニャを殺害しようと企てた。その罪を重く見ての判断だ」


 殺害を企てた?

 レニスが?


 ……あっ。


 私はゲームのイベントを思い出した。

 それはテネルのイベントだ。


 この乙女ゲームは恋愛シミュレーションであり、アドベンチャーのように決まったルートに縛られない。

 テネルと出会う事もできれば、出会わずにエンディングを迎える事もできる。

 そして、テネルと出会いつつそのまま放置した場合のみ起こるイベントがある。


 正確には、出会ってある一定期間までに好感度が一定に達していない場合のみ起こるイベントだ。

 そのイベントにおいて、レニスはジェイルに害を成してアリシャと同じように学園を追放される。

 それを申し訳なく思ったテネルは、それ以降主人公の前へ現れなくなるのだ。


 これは、そのイベントなんじゃないだろうか?


「レニス・トレーネは、学園の追放後司法の場へと送られる。事件についての詳しい経緯などは、そこで明らかとされる予定である。以上だ」


 王子の発表を受け、レニスが一層俯いたのが見えた。

 顔は前髪で見えないが、その隙間からぽたりぽたりと雫が落ちる。


 泣いている……。


「待ってください!」


 思わず、私は叫んでいた。

 その叫びに、レセーシュ王子はこちらを見る。


 私の周囲にいた生徒達が、王子の視線から逃れるように退いた。

 私と王子を結ぶ一直線の道が開かれる。


 声を上げたのが私だと気付くと、王子は不機嫌そうに眉根を寄せた。


 私は歩き出し、中央へ出る。


 やってしまった。

 でも、言わずにはいられなかったのだ。


 こうなった以上、私も言いたい事を言わせてもらおう。


「犯罪者がのこのこと、よく私の前に顔を出せたものだな」


 王子が開口早々に私を罵った。


「犯罪者!? 違いますよ!」

「私は弟のように甘くは無い。ジェイルが許したとて、そなたが成した事は変わらない」


 ぐっ……。

 確かに、そういう事になっているけれど……。


「そんな事はどうでもいいです。私は納得がいきません」

「貴様の納得が、私の判断に必要か?」

「いえ、そうですけど……。でも、おかしい話じゃないですか」

「何の事だ?」

「順序がおかしいです。学園追放の後に司法の判断が下される? つまり、まだ彼女の犯行であると証明されていないって事じゃないですか」


 レセーシュ王子が私を睨みつけた。


 アスティみたいにごつくないが、アスティとは違った凄みがある。

 怖い。


 でも、ここで怯んではいられないぞ。

 私はぐっと目に力を込めて、王子を睨み返した。


「現場は、昨日私個人が調査させてもらった。証拠、状況証拠共に彼女が犯人である事は明らかだったためにそう判断させてもらった。司法へ委ねられたとして、この結果は覆らないだろう。明らかに彼女の犯行だ。事件の悪質さを考えるに、禁固刑の実刑判決が妥当であろう」

「いえ……そうとは限りません」


 言って、私は一度レニスを見た。

 彼女は私を見ていた。


 憲兵が警戒したが、私はレニスに近付いた。

 小さく、声をかける。


「レニス。正直に答えてください。あなたは、本当にジェイルを殺そうとしたんですか?」


 レニスは、私をじっと見る。

 私も彼女を見詰め返した。

 ……どこに目があるか正確にわからないけれど。


 やがて、レニスは首を左右に振った。


「やって……ない」

「わかりました」


 私は、レニスに笑いかけた。


 私と同じように、彼女もまた誰かによって陥れられた可能性がある。

 そして、彼女がやっていないというのなら、私はその可能性を信じる。

 彼女自身を信じる。


 振り返り、王子をまっすぐに睨む。


「今のように、真偽しんぎ定かでないまま学園を追放する事はあまりにも横暴です」


 あの日のように。

 証拠と言葉を尽くして。


 私は、彼女の無実を証明してやる!


「もし学園からの追放を言い渡すのならば、せめてここで真相を明らかにするべきだと思います。よって……」


 言いながら、私は王子に人差し指を突きつけた。


「私はこの度のレセーシュ王子の主張に、異議を申し立てます!」

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