序章 無敗の検事
法廷。
検事としての活動を停止されていた私、ルー・プロキュールは一般人としてその裁判を傍聴していた。
私だけでなく、この国の司法の携わる多くの人間がこの裁判には注目している。
というのも、この法廷に立つ検事が他国から派遣された人間だからである。
近頃、この国の司法は評判を地に落としている。
それは国内だけでなく、国外にすら知れ渡る事実だった。
今はそのイメージを払拭するために様々な取り組みがなされており、他国の検事を派遣してもらった事もその一環である。
他国の法廷戦略を直に体験し、今後に生かそうという試みだ。
他国でも指折りの優秀な検事と名高い彼女もその一人であった。
彼女は今までの法廷で一度も負けた事がないのだという。
白に近いさらりとした銀髪は短く切り揃えられ、その下に覗くのは目じりの下がった目。
全体的に穏やかそうな顔つきをしているが……。
しかし作る表情は挑戦的、好戦的な雰囲気を見る者に感じさせた。
服装は男性用のもので、白シャツ、黒いジャケットと長ズボンの上下だ。
ジャケットは袖に腕を通さず肩へ羽織り、シャツの上の方のボタンが二つ外されていた。
その服装はすらりと細く華奢な体のラインを際立たせ、同時に女性としてのふくよかさを強調していた。
「それはおかしいなぁ」
よく通る声が対面する相手へと向けられる。
「あんたの証言は、この証拠と矛盾するんだよ」
彼女はその声で、決定的な証拠を突きつける。
「知らない! 俺はやってない! そんな証拠が、あるはずはないんだ!」
被告の男は必死の様子で声を張り上げ、自分の無実を訴える。
しかし、彼女の出した証拠は弁明の余地がないほどに、彼の罪を物語っていた。
「これ以上、議論の余地は必要ないと判断します」
判事の声が、無常にもそう断じる。
「待ってくれ! 本当に……本当に、これは俺がやったんじゃないんだ!」
被告の男は何度か殺人の容疑で法廷に立った事があり、しかしその都度証拠不十分で不起訴となっていた。
どう考えても犯人は彼しかいなかったが、どうしても罪を立証できなかったのだ。
それも今回で終わりだ。
しかし、今回の事件は私も調書を見せてもらったが……。
疑わしい余地がなかったように思える。
あのような証拠が残っているとは、到底思えない……。
「観念しな。お前の負けだ」
「てめぇ!」
被告は、検事を睨み付ける。
それに怖じる事無く、彼女は逆に好戦的な笑みを返した。
「弱い奴は負けるんだよ。当然の事だろう」
彼女の名は、アリシア。
アリシア・ディストーテッド。
曰く、彼女は無敗の検事なのだという。
この事件に対して考える余裕がなかったので、かなりぼかしました。
あと、アリシャとの対比でわがままボディにしました。




