八話 真実に食らいつく
「カブッティール嬢。一つ、確認しておきたい事がある」
俺は静かに、ルイジへと声をかけた。
「何でしょう?」
警戒した面持ちで、ルイジは答える。
「あなたの髪色は、本当に金色か?」
ルイジは若干目を見開き、息を呑む。
彼女がその変化を抑えようとした事は見て取れたが、俺はその変化を見逃さなかった。
動揺している。
この不可解な質問に対して、彼女は明らかに心を動かされている。
「……何を根拠に、そのような事をおっしゃられるのですか?」
押し殺し、そして言い淀む事がないよう気をつけた発音。
しかし、それらは内心を押し隠すための態度だ。
俺にはそれがわかった。
先ほどまで、優位に立ち回っていた者の態度ではない。
明らかに焦りがある。
知られるとまずい何かが、そこにはあるのだ。
なら、見間違いではなかった。
アリシャからのヒントもこれを示したものだったのだ。
「先ほど、ちらりと見えたのだ」
ルイジがたじろぎ、髪が揺れた時。
「あなたの前髪が揺れ、その眉が明らかとなった時に」
ルイジは表情を強張らせる。
「そのドリルは金髪だが……。しかし、どういうわけか眉の色が栗色だった」
地毛が金髪であるのなら、その眉も金髪であるはずなのだ。
しかし、彼女の眉は栗色をしていた。
なら、彼女の地毛は……。
「見間違いですわ!」
「なら見せてもらおうか」
「いけませんわ! 家の掟で、異性に眉毛を見られた時は、相手を殺すか結婚しないといけない決まりですの!」
とんでもない掟だな。
その掟を信じたわけではないが、俺は矛先をマルテュスへ変えた。
「ではフェアラート嬢に訊ねたい。カブッティール嬢の本来の髪は、何色だ?」
問いかけると、マルテュスは俺から目をそらした。
今まで、毅然とした態度で証言していた人物とは思えぬ反応だ。
「もう、私に申し上げられる事はありません。事件についての証言以外に、私は何も語るつもりはありませんので」
「そうか……」
しかし、その態度で答えは出たような物だ。
やはり、俺の考えは間違っていないようだな。
そんな時だった。
兄貴が口を開く。
「アスティ。カブッティール嬢の髪色が、何か事件に関係しているとでもいうのか?」
それは、全てを理解した上での問いであろう。
でなければ、先ほどの助言もできるはずはない。
「無論だ。極めて重要な情報だと思われる」
それに対し、俺は自信を持って答えた。
兄貴はかすかに笑うと、ルイジへと声をかける。
「カブッティール嬢。念のために眉を改めさせてもらいたい」
「ひっ、おやめください! そんな事をすれば、掟に背きますわ!」
「その時はアスティに娶ってもらえば良い」
何で俺なんだよ?
「だとしても、それ以外に眉を見た方はワタクシの家に伝わる暗殺拳によって血祭りとなるは必定……」
「憲兵に改めさせる事もできるが?」
兄貴が言うと、ルイジは泣きそうな顔になった。
「……だとしても、お見せできませんわ! 必殺の暗殺拳と暗殺剣が炸裂しましてよ!」
「憲兵!」
兄貴は容赦がなかった。
ルイジは憲兵の手によって前髪を上げられた。
残念ながら、暗殺拳も暗殺剣も炸裂する事はなかった。
「ひぃぃぃん」
情けない泣き顔と共に晒された彼女の太い眉は、やはり栗色をしていた。
ついでに、上げられた前髪からちらりと栗色の地毛も見えた。
やはり、な。
ルイジの髪は、カツラか。
「あんまりですわ……」
解放されたルイジは、泣きそうな顔で呟いた。
その姿の哀れさに申し訳なく思ってしまう。
が、だからと言って手心を加えるわけにはいかない。
これはようやく掴んだ反撃のきっかけなのだ。
俺は台を強く叩いた。
びくりと、ルイジは身を震わせた。
周囲の視線も俺に集まる。
「これで、はっきりとしたようだな。見ての通りだ、兄貴。カブッティール嬢の地毛は栗色だった」
「そのようだ。それで?」
「フェアラート嬢は「被害者の後姿」と「栗色の髪がひるがえる」場面を見たと言った。実際に、被害者が落ちた所を見ていない。もし、この目撃された「栗色の髪」が犯人によるものであるとしたら?」
「なるほど。フェアラート嬢が見た光景すらも、偽装工作だと言いたいのだな?」
俺は頷く。
「フェアラート嬢が通りかかった時、実際に落ちた人間はいなかった。その時にはすでに、被害者は踊り場で倒れていたはずだからな。だから犯人は、口論を演出し、後姿を見せる事でその時に被害者が落ちたとフェアラート嬢に錯覚させた」
マルテュスが聞いた口論。
アリシャの名を呼んだ人物は、恐らくルイジだったのだ。
「その後すぐに階段を駆け下り、階下から姿を現した。そのカツラを被ってな!」
そうする事でルイジは、自分が階下からの目撃者である事を演出したのだ。
この偽装工作の目的は、マルテュスと共に目撃者となる事だったに違いない。
「それら全ては、カブッティール嬢でなければできぬ事だ」
そして、その偽装工作でマルテュスを欺くためには、マルテュスの動向を知っている必要がある。
ルイジはその動向を知っていた。
だからこそ、彼女にしか実行できない計画であり、彼女以外に意味のない計画なのである。
俺はルイジを睨み付けた。
この議論を制するには、この機会しかないだろう。
畳み掛けるように、俺は強い言葉をぶつける。
「カブッティール嬢。あなたは、水場で被害者を殴り意識を奪った。その後、階段の踊り場へと運んだ。そして、フェアラート嬢を目撃者に仕立てるための工作を行ったのだ!」
「……! ワタクシは、ジェイルさんを殴ってなどいません。確かにあなたの言った事は不可能ではないでしょう。けれどまだ、それが真実だと証明されたわけではありませんわ! ワタクシ達の目撃証言の方が正しいという事もあるはずですわ」
ルイジは俺の言葉に応じ、反論する。
「それでは不自然さが残る。階段から転げ落ちた人間が、あんな軽症のわけはない」
「意識を失うほどの打撲は軽症ではありませんわ!」
「そうだがな! 論点はそこではなく、怪我を負った箇所の少なさだ。少なくとも、階段から転げ落ちればもっと広範囲に怪我を負っているはずだ。その点から見ても、被害者が階段から転げ落ちたとは考えられない」
正直に言えば、明確な証拠はない。
しかし、それは目撃証言に頼る向こうも同じ事。
何より……。
「そして、あなたにはその目撃証言すら偽装できた可能性がある。俺はそれも証明した。それら全ての証明が、あなたの犯行を裏付けている! もはや信憑性は、こちらの論証の方が高いものだ!」
俺は、人差し指をルイジへと突きつけた。
「さぁ、どうなのだ! カブッティール嬢! 弁明するがいい!」
強い口調で言い放つ。
ルイジは俺の視線を受け、今まで以上の動揺を見せる。
しかし、すぐにぐっと歯を噛み締めて俺をにらみ返した。
そこに、当初の気弱さは見られない。
その目は、覚悟を決めた人間の目だ。
闘志が宿っている。
唯一の優位性だった目撃証言もその説得力を失い、逆に俺の推理が説得力を増しつつある。
それでもまだ、足掻くつもりか!
この気弱な令嬢をそうまで駆り立てるものはなんだ?
だが、どちらにも決定的な証拠がないという部分は同じか。
俺もまた、勢いで押し込もうとしているに過ぎない。
この事件を解決するには、確実な証拠か……。
もしくは、犯人の自白が必要だ。
「何故、ワタクシがそのような事をしなければならないのかしら?」
「どういう意味だ?」
「ワタクシは、ジェイルさんとあまり接点がありませんのよ。アリシャ様に命じられて、教科書を池に捨てたり、制服にスープをぶっかけたりした時くらいしか接触がありませんの」
ろくでもない接点だな。
それもむしろ恨まれそうな内容だ。
「そんな私が、彼女を殺そうとした理由はなんでしょう?」
俺は思わず顔を顰めた。
理由……。
動機か。
……知れようはずもない。
「フェアラート嬢……」
「何でしょう?」
「カブッティール嬢が被害者に対して恨みを抱いていたという事は?」
「アリシャ様の取り巻きだった私達は、むしろ恨まれる側でした。恨む事などありませんよ」
しれっとマルテュスは答える。
……お前自身は個人的にジェイルを恨んでいた事があるだろうが。
「少なくともルイジさんに限ってなら『ない』と断言させていただきます」
俺の視線から考えを察したのか、マルテュスは改めて証言した。
「それはアリシャ様に対しても同じ事です。どういうわけか、ルイジさんはアリシャ様に憧れていますからね」
「何?」
「ルイジさんはどれだけ無碍に扱われても、アリシャ様に好感を持ち続けていた稀有な方なのです。やっと完成したから、とその『アリシャ様なりきりカツラ』を見せに来る程なのですよ」
それは……。
あの性格が変わる前の、邪悪の化身みたいだった頃のアリシャだろう?
それに好感を?
確かに変わった令嬢だな。
「恐らくルイジさんは、誰も恨んではいません。誰かを恨むような子ではありませんから」
なら、何故アリシャに罪を被せるような事をしたのか……。
そういえば、犯行には手近な物を使っている。
俺が落としたであろう二つの植木鉢。
その内の一方を使ったのだろう。
凶器を前もって用意していなかった点から見て、計画性のない突発的な犯行に思える……。
なら、偽装工作もまた咄嗟に思いついたものなのだろう。
実際、彼女の偽装工作には緻密さが足りない。
きっと彼女は、マルテュスがいつもその階段を使うと知っていたのだろうが、それでも気紛れに別の階段を使う事だってあっただろう。
マルテュスが少しでも早く現場に駆けつければ、駆け下りる姿を見られる事だってある。
何より、後姿を上手く見てもらえない事だって考えられる。
それらから考えても、やはり事件は突発的に行われたものなのだ。
突発的な理由でジェイルを殴り、そしてその場で思いついた偽装工作を実行した。
そして使用された凶器は恐らく外へ投げ捨てられ、現場には二つの植木鉢が残った……。
……ちょっと待て。
おかしくないか?
あの日俺は、植木鉢を片手で一つずつ、つまり二つ持っていた。
なら、水場には二つの植木鉢があった。
その一つが使用され、外へ投げ捨てられたとすれば……。
水場に置かれていた植木鉢は一つだけという事になる!
重ね置かれているわけがない。
アオイは確か、水場には今も植木鉢が二つ重ね置かれていたと言っていた。
そこに二つがあったという事は……。
つまり、俺が落とした植木鉢以外……。
三つ目の植木鉢を使ったという事だ。
なら、その三つ目はわざわざ用意したという事か?
いや、違う。
そうじゃない。
あったじゃないか。
現場には三つ目の植木鉢が……。
アリシャが運んでいた植木鉢だ。
あれはどこに行ったんだ?
持っていた本人に訊ねたい所だが……。
俺はアリシャを見る。
厳重にがっちりと拘束されたアリシャの姿があった。
……訊く事はできない。
なら、記憶を頼りに思い出すしかない。
あの時の俺は……。
アリシャは一つの植木鉢を持ち、辟易しながら運んでいた。
その歩みがあまりにも遅く、一階へ続く階段の踊り場へ差し掛かった時に俺は……。
「ほら、もう少しだ。頑張れ」
と声をかけながら、先に階段を下った。
後ろ向きにゆっくりと降りたつもりだったが、油断して足を踏み外した。
そして、ジェイルとぶつかったのだ。
「だ、大丈夫ですか!」
痛みとくらくらとした感覚。
天井が見え、真っ先にその視界に入ったのはアリシャの顔だ。
アリシャは、あれからすぐに駆け下りてきてくれたのだ。
それが嬉しくて、妙に印象に残っている。
だが、思えば植木鉢を持ったままなら、アリシャはそれほど早く階段を下りる事はできなかっただろう。
つまり、植木鉢は置いてきた……。
だとすれば、置いてきたのは踊り場か。
三つ目の植木鉢は、踊り場にあったのだ。
ジェイルが倒れていた、あの踊り場に。
そして、その植木鉢こそが犯行の凶器だったとすれば……。
犯行に使われた上で、窓の外へ投棄されたのだとすれば……。
……いや、そもそも投棄するつもりなどなかった?
俺の中で、ある状況が閃いた。
それはあまりにも突拍子のないものだ。
しかし、この考えは妙にしっくりとくる。
俺の直感が、それこそが正解だと告げている。
突拍子がなかろうと、今はこの考えに縋るしかない。
どのような方向に議論が進もうとも、俺には進み続ける事しかできないのだ。
「ふふ、考え付かないようですわね?」
ルイジは未だ緊張に強張った表情を、わずかにほころばせながら言った。
「ああ。そうだな。あなたの動機がわからない。いや、そもそも動機はないのかもしれない」
「ええ。その通りですわ。やっと、お分かりになっていただけましたか」
「だが……」
俺はルイジを睨み据えた。
「だからこそ、一連の犯行に踏み切った。のではないか?」
「な、なんですって!」
俺の力強い言葉に、ルイジは驚き戸惑った。
「自分に、被害者を殺す理由は無い。そう言ったな?」
「ええ。言いましたわ」
「だろうな。それが目的ならば、トドメを刺さずにわざわざ偽装工作をするなどという事は考えられない」
彼女の緊張した面持ちはさらに強張った。
「どういう事だ?」
兄貴が訊ねる。
「兄貴。答える前に聞いておきたい。アリシャは俺が頭を打った時、植木鉢を踊り場に置いていった可能性が高い。踊り場に、植木鉢はあったか?」
「スケッチした際に、現場はじっくりと見た。確実になかったと言える」
「そして、俺が落とした植木鉢は兄貴が水場に重ね置き、そして今もそのままの状態だという。ならば凶器として使われた植木鉢。これは恐らく、アリシャが踊り場に置いていた物だ」
俺は兄貴にそう答えた。
「それで?」
しかし、それでもまだ俺の言いたい事は伝わっていないようだ。
「踊り場にあるはずの植木鉢がなくなっている。つまり、この植木鉢が窓の外から発見された物だと考えられる」
「……それが凶器として使われ、そして外へ投棄された、と?」
兄貴は訊ね返すが、俺は否定するでもなく言葉を続ける。
「その植木鉢を知らず、階下に蹴り落としてしまったとしたらどうなる?」
「階下へ転がり落ちていくだろう」
兄貴が答える。
すると、レニスがハッと小さく顔を上げ、すかさずメモ用紙に絵を描いて見せる。
階段を転がり落ちる植木鉢の絵だ。
どうやら、俺の言おうとしている事に思い至ったようだ。
「金属製の植木鉢は割れる事なく、階段を転がり落ちる。そして、当たり所によって大きく跳ねる事もあるだろう」
レニスが『コーン』という擬音つきで、植木鉢が大きく跳ねる絵を描いて見せた。
「そして運悪く、その植木鉢の跳んだ先に人が居たとしたら?」
レニスは、飛来する植木鉢が女性の後頭部へ向けて飛んでいく絵を描いて見せた。
「そういう事か……」
レニスの絵もあってか、兄貴は察したようである。
「人に当たった植木鉢はさらに跳ね、そのまま水場の上の窓を突き破った」
レニスが『がしゃーん』という効果音と、人に当たって跳ねた植木鉢が窓を突き破る絵を描いてみせた。
「そして、その植木鉢を蹴り飛ばしてしまった人物こそがカブッティール嬢だったとしたら?」
言いながら、俺はルイジの様子をうかがう。
彼女の表情はこれ以上ないほど青ざめていた。
その表情だけで、この考えが間違っていないと確信できた。
「そ、そんな事、そんな偶然、あるわけがないです!」
しかしそれでも、彼女はそう声を上げた。
その声は震えている。
これはあくまでも仮説であり、俺の想像でしかない。
証拠などありはしない。
反論の余地などいくらでもあるだろう。
それでも、きっとこれは正しい事なのだ。
だからこそ、彼女はここまで動揺している。
俺はきっと、余す所なく彼女の全てを暴いたのだ。
もしかしたら、今まで彼女を支えていたのはこの突拍子のない真実だったのかもしれない。
殴り倒した事実など無いから、自分は嘘を吐いていないのだと自分を鼓舞していたのかもしれない。
しかしその支えも今、消えてなくなった。
純然たる事実がそれを突き崩した。
動揺しながらも、それでも抗おうとする様子は……。
正直に言えば、哀れにも思える。
しかしそれでも、容赦なく攻めさせてもらう!
ここが正念場だ。
ここで彼女を攻め落とせなければ、もうこれ以外に真実へ至る道はない。
だからここで食らいついた真実、決して放すわけにはいかない!
「いいや、ないとは言い切れないはずだ。知らずに蹴り落とすという事もあるし、それが転がり落ちる事もある。たまたま、その先に人がいるという事も絶対にありえないとは言い切れない。そしてあなたは、その稀有な状況の発端となってしまったのだ」
強い口調で断定する。
これこそが絶対的な真実である。
そう言わんばかりの態度で告げた。
ルイジからの反論はなかった。
蒼白な顔色と荒い息。
それだけが今の彼女を形作っている。
もはやそこには、一抹の余裕も残されていない。
「結論から言おう。あなたには動機などなかった。動機など必要なかった。被害者を傷付けたのもただの過失だ。しかしあなたは、それだけに留まらず偽装工作を行った」
俺は毅然と、決め付けるように言い張った。
こちらは全てを見通しているのだ、というように強く言い放つ。
「ち、違います! そんな事をしても……、私には、意味がない……っ!」
ああ、そうだ。
少なくとも今の俺に、彼女があえて偽装工作を行った理由はわからない。
だがそれでも、彼女には何かあったのだ。
そうしなければならない理由が。
「本当に意味はなかったのか?」
問い返すと、ルイジは息を呑んだ。
もはや彼女の犯行は明白だ。
彼女の態度もそれを裏付けている。
彼女のこの反論も、最後の足掻きに違いない。
彼女が偽装工作を行った理由。
証拠はない。
直感に頼るほかない。
そして、間違いは許されない。
ここで間違った事を言えば、ルイジは立ち直ってしまうかもしれない。
そうなれば、俺にはもはや打つ手がない。
だから俺は、ここで絶対的な真実を突きつけなければならない。
相手の心を折るほどの真実を。
たとえ反論の余地があろうとも、その余地に気付かぬほどに強く叩きつけねばならない。
もはや俺にも、それ以上の武器はないのだから。
だからこの推論だけで押し切るしかない!
何故、友人を利用し、憧れの相手まで犯人に仕立てなくてはならなかったのか……。
何故、その必要があったのか。
俺は一言、彼女に問いかけた。
「あなたは、被害者に姿を見られたのではないか?」
その言葉に、ルイジの表情は絶望に落ちた。
その表情は派手な化粧に覆われながらも、色が抜けたようだった。
当たった……ようだな。
ルイジの体が小刻みに震え、そして……。
「そ、そんな事は……」
「被害者は後頭部を強打され、倒れる事になった。あなたはそんな彼女に近づき、そして被害者にはまだ意識があった」
「いいえ! すでに意識はありませんでした!」
「その現場で、確認した事を認めるのだな?」
「あ! あ、あわわ……」
彼女はもはや、焦り過ぎて考えが覚束なくなっているようだった。
今の失言は、あまりにも手痛い物だ。
自身が主張していた真実を手放した瞬間だった。
「いいえ、私はそもそもジェイルさんと会ってなんて……」
言い募ろうとするが、無駄だ。
もう逃さない。
相手を威圧するように、強く睨み付ける。
「朦朧とした意識の中、被害者は見たのだろう。金髪の揺れるドリルを。そして、勘違いして名を呼んだのかもしれないな。アリシャ、と」
当時のルイジは『アリシャ様なりきりカツラ』を着用していたはずだ。
ジェイルが見間違えたとしてもおかしくはない。
「そんな事……そんなごと、ありまぜん!」
ルイジは涙声で叫びを上げた。
必死に力を込めたルイジの目からは、堪えきれなかった分の涙がこぼれ始めていた。
そんなルイジに対し、俺はなおも続ける。
「だからこそ! あなたは偽装工作を思いついた。相手が自分をアリシャだと錯覚しているならば、犯人をアリシャだと相手に思わせてしまおうと考え付いたのだ! 被害者の錯覚を現実の物として、確定させようとした!」
「そ、そんな……事……」
「そのために友人を利用し、アリシャを裏切る事を決めた!」
利用し、裏切る。
その言葉を聞いたルイジは、今まで以上に酷く情けない顔になった。
とうとう抑えきれなくなった涙が、頬を伝い始める。
それだけに留まらず、すすり泣き始める。
「違うか! 答えろ、ルイジ・カブッティール! フェアラート嬢とアリシャを前に、それでも弁明できるのか!」
トドメとばかりに、俺はそう言い放つ。
そして……。
「だって……だって……」
か細い声が、彼女の口から漏れる。
その声は、次第に強い感情と共に吐き出され始めた。
「そうしなくちゃ、いけなかったんですよぉ! そんな事をするつもりなんてなかったのに! したくなかったのに! でも、でも……。私は犯罪者になるわけにはいかなかった! そんな事になってしまえば、家に迷惑をかけてしまう……! そんなの、嫌だったぁ……!」
そう、ルイジは泣きながら叫んだ。
先ほどまでとは別人のようだった。
零れた涙は顔の化粧を溶かし、すでに崩れていた。
「それは、自白ととっていいんだな?」
俺は問いかける。
「ごめんなさぁぁぁい!」
すると、彼女は泣きながら大声で謝罪の言葉を述べた。
そして、そのままぺたりと座り込み、床に顔を埋めて泣き出した。
俯けた頭からカツラが外れ、栗色の長い髪がぺろりと落ちた。
最初に犯罪計画を決めてから、それを攻略する方向でトリックを決めているのですが……。
意外とルイジちゃんの計画が強固で、絶対的な証拠によるスマートな解決ができませんでした。
アスティはアリシャと違って直感で強引に攻めるという違いを出したかったのですが、アリシャもハッタリで押し切る事があるのであまり変わりませんでしたね。




