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絶体絶命悪役令嬢  作者: 8D
絶体絶命悪役令嬢2
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一話 容疑者 アリシャ・プローヴァ

 この話ではまだ事件の詳細すらわかっていませんが……。

 推理部分などは、整合性が取れているか自信がありません。

 おかしな部分があったら、ご指摘いただけるとうれしいです。

 アリシャについて講堂に訪れると、アリシャが犯人として連行される事になった。


 俺はその呼び出しが、アリシャに事件解決の協力を要請するものだとばかり思っていた。

 それだけの実績が彼女にはあった。


 だから、正直に言えば衛兵の行動に意表を衝かれた。


「待て! それは誰のめいだ?」


 少し遅れ、俺は彼女を連行しようとする衛兵二人を呼び止めた。


「「これはレセーシュ様の命令です。アスティ様」」


 衛兵が二人揃って返答する。


 兄貴、だと?


「「連れて行かないと怒られちゃいますので、連れて行きます」」

「あーーーー」


 アリシャが二人に両腕を掴まれ、持ち上げられた。


「「わっ、軽い! もっとご飯食べた方がいいですよ!」」


 衛兵はそんな事を言いながら、アリシャを連れて行く。


「おい!」


 内心で悪態を吐き、それを追いかけて講堂へ入る。

 講堂内にはすでに、多くの生徒達が集まっていた。


 生徒達はぽっかりと開いた空間を注視するように、中央を望む形で並んでいた。

 そしてその中央には、向かい合って配置された二つの台がある。


 この光景は、カインについての議論が成された時と同じじゃないか。

 既に議論が行われる前提で事が進んでいる……。


 中央には、兄貴がいた。


 レセーシュ・R・トレランシア。

 この国の第一王子である。


 兄貴は、数名の兵士達と会話をしていた。

 集まった兵士達は学園の衛兵だけでなく、中には憲兵の制服を着た者の姿もあった。


 衛兵二人は、アリシャを兄貴の前で解放する。


「ご足労、感謝する」

「運ばれてきたので、あまり足労はありませんでしたが」

「そのようだな」


 兄貴とアリシャがそんなやり取りを交わす。


「これはどういう事だ、兄貴?」


 俺が問いかけると、兄貴は俺に視線を向ける。


「簡単な話だ。昨日、ジェイルが階段から突き落とされた」


 どこかで聞いた話だな……。


「無事なのか?」

「意識不明。だが、命に別状はない。今は病院で療養中だ」


 それを聞いて少し安心する。


「その犯人として、この令嬢の名が挙がっただけの事だ」

「根拠は? 何故、彼女なんだ?」

「単純な話だ。犯行の目撃者が居た」


 目撃者だと?


「異議あり。私はやっていません」


 アリシャが手を上げて反論する。


「と、恐らく意見が対立するであろう事を見越して、議論の場を設けさせてもらった」


 アリシャの方を向かず、兄貴は説明する。


 しかし、これから議論となれば問題はないだろう。

 アリシャならば何とか自分の無実を証明できるはずだ。


「なら、彼女に釈明の機会が与えられるという事だな」

「……」


 兄貴はすぐに答えなかった。

 そのに、不穏な物を感じる。


「それについてだが、残念ながら与えられない」


 ……!


「どういう事だ?」

「目撃者から申し入れがあった」

「申し入れ?」

「アリシャ・プローヴァの自己弁護を認めるべきではないのではないか? と」

「何故だ!?」


 それでは、釈明も証明もする事ができないではないか。


「こいつはあまりにも弁が立ちすぎる」


 こいつ、とアリシャを指して兄貴は言う。


「その実績はお前も知る所だろう。もはや、本職の人間と言っても差支えがない」

「……」


 ……確かに、それはその通りだ。


「やろうと思えば、この女はいくらでも相手を言いくるめられるだろう」


 それは……できそうな気がする……。


「買いかぶり過ぎですよ! 毎回、どれだけ必死で言いくるめていると思ってるんですか!」


 アリシャが反論した。


 ……言いくるめている自覚はあるのか?


「こいつは、学園での議論でも本物の裁判でも殆どの事件に勝訴している。これはただの学生にしてはなかなかに異常な事だと思うが」

「それはみんな無実だったからですよ。私は真実を証明しただけです」

「かもしれんな。だが、今回の事件もそうだとは限らない。お前が犯人であり、保身のためにその弁舌が使われる可能性を考えれば目撃者の申し入れにも納得できる」

「そんな事はしません」

「正直に言って、個人的に信用できん」


 断固とした口調で兄貴はアリシャに言い放った。

 答えてから、兄貴は小さく息を吐いてから続けた。


「とはいえ、それを差し引いても前の事件で恩を感じている事も事実だ」

「だったら……」

「しかし私は王族。それも王の長子だ。公私混同はしない。そして今回の申し入れには多くの賛成意見があった」


 アリシャ、どれだけ嫌われているんだ……。


「私は王族として民の要求を公平に聞き入れ、吟味し、その可否を決めねばならない」


 確かに、王族としては正しい判断かもしれない。

 だが……。


「アリシャはそんな事などしない」


 俺は兄貴にそう反論した。


「お前はそう言うだろうな。しかし私を始め、彼女を信じられない人間は多い」


 やはりそれは、彼女の最初の事件が原因だろうか……。

 なら、俺の責任でもあるな。


「……疎まれているから、という部分もあるだろうがな。そいつは公爵令嬢であり、そして第二王子おまえの婚約者でもある」

「力を持ちすぎているという事か?」


 兄貴は頷く。


 彼女は多くの生徒から嫌われている。

 しかし、それは個人的な話ばかりではないのだろう。

 他の都合もあろう。


 上流階級の人間……。

 いや、どのような身分の人間にも蹴落とし合い、足の引っ張り合いはあるものだ。

 純粋に賛同した人間もいれば、自身の利益のために彼女を陥れたい人間はいるだろう。


 それもこのようにおあつらえの機会があれば、これ幸いと乗っても来るか。


「お前もまた、王族であるという事を忘れるな」


 だからこそ、俺も公私混同をするな、と?


「わかっている。だが……」


 俺は……。


「アリシャ。お前は、ジェイルを階段から突き落としたのか?」

「そんな事はしていませんよ!」


 アリシャは答える。

 その表情は毅然としていて、不安など見られなかった。

 しかし、よく見ると彼女は拳を強く握り……。

 それはかすかに震えていた。


 ……同じ状況だ。

 あの時の恐ろしさを思い出しているのかもしれない。

 そして、その恐ろしさを内心に秘めて怯えている……。


「わかった」


 俺は、兄貴に向き直る。


 俺は……決めているのだ。


「俺はアリシャを信じる」


 どんな時でも、何があろうと。

 そう、誓ったのだ。

 それを違えるつもりはない。


「彼女の弁明が許されないなら。俺が代わりに、彼女の無実を立証しよう」


 でなければ、彼女はこの事件の犯人とされてしまうだろう。

 たとえ、犯人と断定されなかったとして、疑惑は残る。


 それは経歴の傷となり、場合によっては俺との婚約を解消される可能性が出てくる。

 そして、彼女が婚約を解消された場合……。


 プローヴァ家は、それを不名誉として彼女を勘当するかもしれない。

 いや、それだけならまだマシか。


 最悪なのは、赤頭巾レッドフードの存在を彼女が知っているという事だ。


 赤頭巾レッドフードは暗殺者である。

 そしてその名は、王族だけが知る事を許される。


 それ以外に知る者があれば、その者は速やかに暗殺されてしまう。

 今の彼女は、俺との婚約によってやがて王族となる。

 だからこそ、生かされているのだ。


 しかしその婚約が解消されれば、赤頭巾レッドフードは容赦なく彼女を暗殺するだろう。


 それを考えると恐ろしい。


 ここで完璧に無実を証明できなければ、彼女の未来には破滅が待っているかもしれないのだ。

 失敗は許されない。


 俺の決意に、兄貴は頷いた。


「その判断は、王族として正しいものではない。しかし、よかろう。では、そうするがいい。私がその相手となろう」


 俺がそう申し出る事を想定していたのかもしれない。

 兄貴は小さく笑って答えた。


 俺では、能力が不足しているかもしれない。

 彼女を助ける力がないかもしれない。

 それでも自分にできる全力を以って――


 真実に、喰らいついてやる!


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