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絶体絶命悪役令嬢  作者: 8D
絶体絶命悪役令嬢
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状況確認

 残念ながら、著者の力量の問題で読者の犯人当てには対応しておりません。

 あくまでも、アリシャが自分の無実を証明するために頑張る話となっております。

「この期に及んで、まだシラを切ると言うのか!?」


 アスティ王子は私を怒鳴りつける。


 アスティ王子は、体格のいい大柄の王子だ。

 身長の低い私と並ぶと、子供と大人のように見えるくらいに身長差がある。


 髪の毛はオールバックで、色は燃えるような赤だ。

 顔つきは他の攻略対象に比べると厳つい。

 でも乙女ゲームの性質上、そのつらはイケメンだ。

 イケめんである。


 武人気質という設定があるため、体は筋肉に覆われていて貴族めいた衣服は常にパンパンに張っている。


 そんな王子に怒鳴られると少し怖いが、私と王子の付き合いは長く怒鳴られ慣れてもいるので案外に耐性はついていた。

 何より彼は見た目によらず、どんなに怒っても絶対に女性へ手を上げない紳士なのだ。


 そういう所もあるので、今までアリシャが付け上がってきたわけだが。


「怒鳴らないでください。正当な権利を主張しているだけです。やってもいない犯行でこのような仕打ちを受ける謂れはありません」

「何だと?」


 睨まれる。

 どれだけ睨まれようが怒鳴られようが、今の私は引かないぞ。


「それがお前の本性か?」

「そうですよ。悪いですか」


 記憶を取り戻す前の私はどうにか彼に気に入られようとしていたが、記憶を取り戻した今は彼なんてどうでもいい。


 むしろ、今の彼は私を貶めようとする敵だ。

 仲良くなんてしてやるもんか。


 ふん、だ。


 私は睨み返す。


 二人、そうして言葉もなく睨み合っていると。


「まぁ、アスティ王子。彼女の言う事ももっともです」


 そう言って、当学校の校長であるリヒター伯爵が現れた。

 やせ型の影の薄いおじ様である。


 私達を囲う、学生達を掻き分けて来た彼は私達に笑みを向けた。

 王子に目を向ける。


「誰しも、弁明の機会は与えられるものでしょう。不服とする部分があるというのならば、王族として耳を傾けるのも努めです」


 リヒター伯爵はどうやら私の味方をしてくれるようだ。

 いいぞ、もっと言ってやって!


「しかし……」

「何より、いかに王子と言えど、証拠も無しに罪を言及する事はまかりならない事でしょう」

「証拠は……ある。彼女を犯人だと決定付ける確かな証拠が」


 え、あるの?

 私の日頃の行いからの完全な決め付けだと思っていたのに。


 少し焦る。

 く、この焦りを敵に悟らせるわけにはいかない。

 平静を装わないと……。


「で、でしたら、そのお証拠をお示しになればおよいじゃありませんですのん」

「明らかに動揺してるな。やはりやましい所があるんじゃないのか?」

「小心なだけです。……ならその証拠、今私に提示してください。ついでに、事件の詳細についても」

「あくまでも、事件の事は知らないと言うのだな? いいだろう。シラを切ろうとも、言い逃れのできない証拠をお前に突きつけてやる」


 そう前置いて、アスティ王子は事件の概要を語りだした。



 事件が起こったのは、昨日の放課後。


 被害者であるジェイルは三階の階段から転がり落ちた。

 三階と二階の間にある踊り場まで転がった彼女は、物音に気付いた一人の生徒に発見された。


 発見された彼女は頭と右腕を怪我しており、傷口からは血が流れ出ていた。


 ジェイルはその後病院へ移送され、命に別状はないが意識が戻らないそうである。


 事件後すぐにアスティ王子は現場へ駆けつけ、憲兵と共に調査した。

 すると、三階の階段前で彼女の白いスカーフを発見したのだという。



「スカーフは彼女がいつもつけていたものだ」


 ジェイルは、いつも白いスカーフを首に巻いている。

 これはゲームでも同じだ。

 彼女のトレードマークである。


 ちなみに、私にもトレードマークはある。

 猫の彫刻が施されたブローチだ。

 訳あって今は着けていないが、いつもは着けているものだ。


「そして、スカーフには血痕が残っていた」

「血痕が?」

「ああ。恐らく、落ちる際の怪我で出た血が付着したんだろう」

「事件の概要はわかりました。でも、私の犯行であるという証拠がどこにもないと思うのですが?」

「慌てるな。まだ言っていないだけだ。証拠と言うのは、目撃者だ」

「目撃者?」

「そうだ。目撃者は落ちてきたジェイルに近寄った際、三階を見上げたそうだ。その時に、走り去るお前の後姿を見たという事だ」


 目撃者、か。


「そのかたは?」

「悪いが、お前に会わせるわけにいかない。目撃者との約束だ。公爵家に楯突いたと思われる事を恐れているようだからな」


 むぅ、それは仕方がないか。


 でも、私がそんな場所にいたわけがない。

 放課後は、授業が終わってすぐに帰ったのだから。


「そんなわけはありません。私は、授業が終わった後にすぐ帰ったんですから。家の者に聞いてくださればわかります」

「お前の家の者が、お前に不利な証言をするとは思えぬ」


 家の者の証言は証拠能力がないという事か。

 全然信用してくれていない。


「ですが、私はやっておりません」

「そう言うのなら、お前も証拠でそれを証明して見せろ。俺は、お前が犯人であるという事を証拠で証明したのだからな」


 確かにそうだ。


 でもこれは、証言に頼ったあやふやな証拠だ。

 どうにか崩せないだろうか……。


 何かおかしい所はないだろうか……?


 今の話の中でおかしい所は……。


「……王子」

「何だ?」

「スカーフには血痕が付着していたのですよね?」

「そうだ。それが何だ?」

「おかしくないですか?」

「具体的にどこがおかしいのかを言え」

「スカーフは三階に落ちていた。間違いないですね?」

「そうだ。厳密に言えば、手すりに引っ掛かっていたんだ。落ちた時にひっかかり、外れたのだろう」

「なら、やはりおかしいです」


 私は胸を張ってふふんと鼻を鳴らした。


「どこが?」

「彼女が階段から落ちる最中に怪我をしたと言うのなら、三階の手すりに引っ掛かっていたスカーフに血痕が付着するわけないじゃないですか」

「た、確かに」


 アスティ王子が怯んだ。


 よし、このまま押し切ろう。


「むしろ、彼女は落ちる前から怪我をしていたと見るのが妥当です!」


 私は勢い良く、王子に人差し指をつきつけた。


 どうだ!

 これが私の見つけたおかしな所だ!


「なるほど、その通りだ。……だが、それを指摘した所でどうなる? お前の無実は証明されない」


 ですね。


 おかしな所を探して、適当に言ったけど私の無実を証明する決定的な証拠にはならない。


 でも、他におかしな部分がなかったのだから仕方がない。


 彼の言い分はしっかりしている。

 付け入る隙があるとすれば、証拠が目撃証言だけという所だが……。


 その部分には、手が出せない。

 なんとか目撃者をこの場に引っ張り出しでもしないと……。


 でも、ここで弱気になってはならない。


 言いがかりでもなんでもいいから、食い下がらねば……。

 このまま私の未来が悲惨なものになりかねない。


「そもそも王子、少しいい加減なんじゃないですか?」


 強めの口調で王子に言い放つ。


「何の事だ?」


 王子も強い口調で返した。


「私を犯人とする証拠が目撃証言ですって? そんなもの、目撃者が嘘を吐いているかもしれないじゃないですか。信用できるのですか?」

「お前よりも信用できる」

「そこですよ、そこ。言っちゃ何ですが、私は嫌われ者です。信用してくれる人間はいません。友達だっていないし、私の事を好きだと言ってくれる人なんて両親しかいないんですよ」


 しかも、婚約解消されたらその両親から「出て行け!」と言われるのだ。

 泣きたくなってくるよ。


「私を嫌って陥れようと思う人間がいてもおかしくないじゃないですか」

「自分を卑下して心が痛まないのか?」

「好きで言ってないやい!」


 王子に可哀相な人間を見る目で見られる。


「そんな事はないはずだ。ほら、その……いつも、大勢の女友達と一緒にいるだろう」


 突然の優しさ!?


 いつも疎んでいるくせに、こんな時に優しくしないで!

 不器用にも慰めようとしてくれている所が余計に辛い……。


「あんなもん、私の地位に寄ってきてるだけじゃい」


 言わば、取り巻きと呼ばれる人達だ。

 アリシャの性格は最悪だが、気に入られれば公爵家との繋がりは持てる。

 しかも単純な性格なので、おだててさえいれば扱いやすかったはずだ。


 なので、嫌われてはいるが寄ってくる人間だけは多い。


 アリシャを友達だと思っていない、むしろ接待に近い関係だ。

 実際、アリシャも彼女らを友達だと思っていない。

 パシリか何かだと思っている。


 平然とパンを買いに行かせたり、荷物を持たせたりするのだから。


 断じて友達とは呼べない。


「…………」


 王子が沈黙する。


 おい、何か答えろよ。


「まぁ、それはいい」


 よくないよ。


「しかし……確かにお前の言う事も一理ある」

「そうでしょう。目撃証言だけでは、断定できないはずです」

「ならば、仕方がないか」


 アスティ王子は溜息を吐いた。


「本当の証拠を出そう」

「本当の証拠?」


 王子の言葉に、驚いて思わず聞き返す。


「実の所、証拠はそれだけじゃない。もっと確かな物がある。俺がお前を犯人だと断じたのもその証拠があったからだ。しかし、できれば目撃者からはお前にそれが知られぬようにと言われていたので出さなかったのだ……」

「それは?」

「ブローチだ」


 私は息を呑んだ。


「ま、まさかそのブローチは……」


 アスティ王子は頷き、ポケットからブローチを取り出した。

 それは、とても見覚えのある物だった。


「そう。お前がいつも、肌身離さず着けている特注のブローチだ。それが現場に、落ちていた。特注のあのブローチは、二つとして同じ物がない一品物だろう?」

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