表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶体絶命悪役令嬢  作者: 8D
絶体絶命攻略対象
19/74

六話 目撃者追及

 修正しました。

「わ、わたくしが……この私が犯人ですって……?」


 告発されたセイルは、驚愕に表情を引き攣らせながら呟く。


「どういう事ですの!」


 彼女はルーを睨み、怒鳴りつける。

 ルーは表情を崩さず、平然とセイルを見返した。


「容疑者であるカイン・コレルに犯行は不可能だった。そして、あなたには犯行が可能だった。私はそう考えています」

「何ですって……! 証拠はあるのかしら!」


 セイルの問いに、ルーは頷いた。


「被害者が美術準備室に向かった事は目撃証言によって確定しています。しかし、彼女の足跡はそこで途絶えました。そして次に目撃された……というより発見されたのが例のゴミ捨て場です」


 そこまで言うと、ルーはスッと目を細めてセイルを見た。


「その空白の間、彼女は誰にも見られずにゴミ捨て場まで移動した事になります。では、どうしてそのような事になったのか……。私にはそれを説明する用意があります」


 それは、私がついさっき疑問に思った事と同じだった。


 ルーはそこまで言うと、書類を取り出して目を落とす。


「『美術準備室』のスケッチを見てください」


 言われて、私は手元にあったスケッチを見る。


「現場には黒曜石の破片が散らばっていました。これは先ほどの証言にあった通り、壊れた石像の破片です」

「ええ、そうですわ。私の不注意で壊してしまいましたの」


 ルーの発言に、セイルが答える。

 が、ルーはそれに対して首を左右に振って否定する。


「いいえ、それは違うでしょう」

「なっ」


 セイルが驚きの声をあげる。

 彼女には、大きな動揺が見られた。

 ルーの言葉は的を射ているのかもしれない。


 ルーは続ける。


「あなたは、この石像を凶器に使ったのです」


 その言葉に、セイルは息を呑んだ。


「凶器に使った、だと?」


 アスティが呟く。

 ルーはその言葉を聞きつけ、そちらを向いて頷く。


「はい」

「馬鹿な。あれはとても大きなものだった。重量だってかなりあるだろう。持ち上げる事ならできるかもしれないが、振り回す事などできない」


 アスティは驚きの声を上げる。


 自分基準で考えているんだろうけど、普通は持ち上げる事もできないと思う。


「そうですね。持ち上げる事も振り回す事も不可能だと思いますが……。押して倒す事なら子供にもできるでしょうね」

「!」

「順を追って、私の考えを説明しましょう」


 驚きを見せるアスティに対して、ルーは間髪入れずに言葉を挟む。


「手紙で被害者を呼び出したのは、恐らく容疑者ではなくセイル嬢だった。そして自身は美術準備室で彼女の訪れを隠れ待ち、訪れた被害者に向けて石像を倒したのです。被害者は石像によって頭を殴打され、石像は砕け散った」

「……なるほど。それなら、誰にでもできる」


 アスティが納得して呟く。


「恐らく、真珠のブレスもその時にひっかかって散らばったのでしょう。それが、美術準備室における状況の真実なのです……!」


 ルーは静かに、しかし強く断言した。

 講堂が静寂に満たされた。


「……お待ちなさい!」


 その静寂を破ったのはセイルだった。


「私はそのような事、やっていませんわ!」

「それはどうでしょう? あなたの証言には不自然な部分があります」

「何がおかしいというのかしら?」

「あの場所には敷物が敷かれていました。引っ掛けて過失で倒れた程度では、あそこまで細かくは砕けません。誰かが故意に、勢い良く押して倒した事は明白です」

「それは……。……いいえ……いいえ、だとしてもおかしいわ! だって、被害者は拳で殴られていたのよ? 石像で殴られたのだったら、殴られた痕はもっと大きいはずだわ!」

「それについては、こちらを参照ください」


 ルーが合図を送ると、憲兵がセイルへと一枚のスケッチを持って行った。


「こ、これは……」

「一昨日の美術準備室の様子です。見ての通り、そこにはまだ壊されていない石像の様子が描かれています」


 そういえばレセーシュ王子は、アルティスタくんが壊す前に石像のスケッチを残していたんだっけ。

 それは昨日の事だったけれど、一昨日の像もスケッチしていたのか。


「あの、私達にもスケッチを見せてください」


 私が発言すると、ルーは頷いた。

 セイルの所から、スケッチがこちらへ渡る。


 スケッチには一昨日見た美術準備室の光景があった。

 破片は散らばっておらず、石像も雄雄しく佇んでいる。

 ただ、未完成らしく、足元がまだ塊になっている。


「見てもらいたいのは、その石像のポーズです。握り拳を突き出しているのがわかると思います。石像を倒した時、その拳の部分が被害者の右側頭部に直撃したとすれば打撲痕は拳と同じ形状、大きさになるでしょう」

「待ちなさい! もし、石像そのものの重さで殴られたとすれば、被害者が生きているわけないわ!」


 まぁ、確かに。

 あんなのが倒れてくればあの程度で済むと思えない。

 まして、力は接触する部分が小さければ小さいほど分散されないから、接触する部分が小さければ威力が大きくなる。


 スプーンをステーキ肉に押し付けても刺さりにくいが、先端が細いフォークが容易に差し込めるのと同じ理屈だ。

 あの石像の全重量が拳に集約されてジェイルの頭にぶつかったとすれば、打撲程度じゃすまなかったんじゃないだろうか?


 ジェイル、本当に何で生きてるの?


「……被害者は、かつての事件で屋上から落ちてきた鉄の鉢植えを頭部に受け、それでもすぐに回復した頑丈な方です。石像の拳が直撃したとしても絶命を免れた可能性は十分考えられます」


 ……いや、十分考えられないよ!

 それ、レセーシュ王子が披露したトンデモ推理じゃないか!


 実際は違うのに……。

 女の子は超合金なんかじゃないんだからね!


 しかし、これではセイルも納得できないんじゃないだろうか。


「……た、確かに」


 セイルが呻く様に言う。


 納得したんだ……。


「で、でも、だったら、部長様の証言はどうなりますの? その時に被害者が倒れていたなら、彼が美術準備室に来た時に被害者を目撃しているはずですわ!」

「二つの『美術準備室』のスケッチを見比べればわかりますが……。カーテンが無くなっていますね」


 言われて見ると、確かにカーテンが一枚なくなっていた。

『一昨日』のスケッチには確かに描かれているので、始めからなかったという事は無い。


「あなたは被害者を殴り倒した後、音を聞きつけて誰かが来る事を予測していた。だからそれを隠すための準備をしていた。それがそのカーテンです」

「カーテンがどうしたって言うのよ!」

「倒れた被害者を部屋の隅にやり、そのカーテンでその体を隠したのです。これならば、ビジーツ様が気に留めなかったとしてもおかしな事ではありません」

「お待ちなさい!」


 セイルは声を張り上げる。


「それじゃあ、被害者はその後どうなったの? 彼女はゴミ捨て場で見つかったのよ。あなたの言う通りなら、どうやって移動したっていうのよ」

「無論、あなたは彼女をそのままにしなかった。ビジーツ様の証言によれば、彼は美術準備室を見た後ですぐに美術室へ戻り、あなたが部屋を出て行く所は見ていないとの事。あなたは彼が去った後に、彼女を箱の中に隠したのです」

「箱、ですって……!」


 ルーは頷く。


「一昨日壊された石像の破片、それを入れておいた箱です」


 ゴミ捨て場のスケッチに描かれていた、あの箱か。


「あなたはそこに被害者を入れ、その箱を台車に乗せた。無論、女の細腕では人間一人を抱え上げる事も、まして人の入った木箱を抱え上げる事も難しいでしょう。ですが、美術準備室にはリフトがありました」


 私がぶつかって倒れそうになったやつだ。


「あれを利用すれば、あなたでも人間一人を持ち上げる事は十分に可能です。それからさらにその上へもう一つの箱を乗せる事で被害者を隠した。あとは、堂々と台車を押してゴミ捨て場へ向かったのです。そして、ゴミ捨て場で被害者を遺棄した」


 遺棄とか言ってあげなさんな。

 ジェイルは生きてるんだから。


「しかし、そこで思わぬ事態が起こりました。容疑者がたまたまゴミ捨て場へと現れたのです。あなたは焦ったでしょう。が、ふと思いついたのです。これを利用できないか、と」


 セイルは息を呑んだ。


「あなたは一度講堂の奥に隠れ、容疑者が被害者の近くに寄るのを待ってから悲鳴を上げた。そしてその悲鳴を聞きつけて来た方達の前で、容疑者が被害者を殴ったと叫んだのです」


 なるほどね。

 悲鳴を聞きつけて来た方達。

 私とアスティとレニス、そしてレセーシュ王子の事だ。


 つまり私達は、彼女に目撃者として利用されたわけだ。

 レセーシュ王子はいつも目撃者に利用されてるなぁ……。

 今回は私もそうだけど。


「これが、私の行き着いた推論こたえです。さて、何か反論はありますか?」

「それは……。でも……でも……」


 セイルは言い募り、そのまま言葉が出なくなっていった。

 もう、彼女に反論の言葉はなかったのだろう。


「そんなの、ありえないわ……。わたくしはそんな事なんて、やっていないのに……」


 最後に、小さくそう呟く。


「くっ……」


 悔しげに唸りながら、彼女は拳を握りしめる。

 すると、彼女の手袋に赤い染みが滲み始めた。

 そんなに強く握りしめるほど、悔しいという事か……。


「あの美術準備室の出入りを目撃された人物は、あなたと被害者のみ。ならば、あなたが犯人であると推察する事は、当然の帰結です。これにて、私の証明は終わりです」


 ルーは、静かにそう言って締めくくった。


「アリシャ……。俺達が何もしないうちに、勝てそうだぞ」

「そうですね」


 本当に、さっきから何もしてない。


「アリシャ様。あなたはどうです? 何か、反論はありますか?」


 ルーは、私に向いて確認する。

 私は小さく唸って黙り込む。


 ……正直に言えば、指摘したい事はある。

 それは致命的な矛盾だ。


 けれど、アスティとしてはこのまま異議を唱えない方が嬉しいだろう……。

 それだけで、決着はつくはずだ。


 私は真実を証明するだけだとは言ったが、アスティが困る所を見たくない気もする。

 どうしたものか……。


 そう思案していると、不意にアスティが口を開く。


「俺は、お前との約束を破るつもりはない。お前の、したいようにしろ」


 唐突な言葉に私は少し驚いた。


「どうして、そんな事を?」

「悩んでいるように見えたからだ。何か、あるんじゃないのか? 反論が」


 知らず、私は難しい顔をしていたようだ。


 アスティ。

 本当は、このまま黙っていてほしいだろうに……。

 不器用な事。


「わかりました」


 私は深く息を吐く。


「異議あり、です」


 私は静かに答えた。

 アスティには悪いけれど、私は真実を証明したい。

 少しでも疑念が残るのなら、それはとことん追求していきたいのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ