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絶体絶命悪役令嬢  作者: 8D
絶体絶命攻略対象
18/74

五話 真犯人

 修正しました。


 誤字報告、ありがとうございます。

 修正致しました。

「これが『美術準備室』のスケッチです」


 ルーはそう言って、一枚のスケッチを提出した。

 スケッチが憲兵の手によって、私達の所へ運ばれてくる。


 スケッチには美術準備室の様子が描かれていた。

 とても精緻である。


 スケッチの美術準備室は、私の見た時と大きく変化していた。

 スケッチに描かれた美術準備室の状況は、惨状と言っても差し支えない物となっていた。


 美術準備室の床には黒曜石の破片が盛大に散らばっている。

 それら破片の合間にはピンクの小さな玉がいくつか混じっていた。

 そして……。


「これは……」

「ゴミ捨て場だけでなく、この美術準備室でも騒動はあった。それを如実に物語る光景ですね」


 確かに、こんな光景を見ればここで何かあったと思うだろう。


「ちなみに、現場に散乱していたものは既に集めて証拠として押収しておきました。無論、黒曜石はゴミ捨て場にあった物と分けて保管しています」


 ルーが補足する。


「これは酷いな。何があったんだ?」

「だいたいの察しはつきますよ」


 呟くアスティに、私は答える。


 多分、また壊されてしまったのだ。

 あれが……。


「ん?」


 スケッチを眺めている時に、ふとある事に気付く。


「どうした?」


 アスティが訊ねる。


「いや、ここに落ちている破片なんですけど。何か刻まれてませんか?」

「……そう見えるな。何が刻まれているかは読み取れないが」


 何なんだろう、これ?

 まぁ今はわからないから、後で考えよう。


 それよりも今は、もっと気になる事がある。


「あの、ルーさん」

「何ですか?」

「黒曜石の石像がなくなっているのはどうしてでしょう?」


 現場からは、アルティスタくんが製作途中だった石像がなくなっていた。

 床に散らばる破片を見ればだいたいの予想はつくが、一応を確認のために訊いておく。


「壊されてしまったようです」

「アルティスタくんに?」

「いいえ、壊したのはセイル嬢だったようです。アルティスタ様は事件当時、保健室で寝ていたと医師から証言を得ています」


 どうやら、アルティスタくんがまた壊したというわけではないらしい。


「セイルさんが壊した……。それはどうしてでしょう?」

「それについては、彼女に実際証言していただく必要があると思われます」


 ルーは証人席に座るセイルへと目を向けた。


「セイル嬢。あなたに証言を要求します。前へ出てきてください」

「……わかりました」


 セイルは表情を強張らせ、立ち上がった。

 緊張しているのだろう。

 白い手袋をした両手は、右拳を左手で覆うようにして合わせられている。


 その状態で、私とルーの間にあたる場所へ歩を進めた。


「美術準備室で起こった事……。石像を壊した経緯について、証言をお願いしたいと思います」

「……はい」


 渋々ながらという様子で、セイルは返事をした。


わたくしが石像を壊したのは、単なる事故ですわ」

「その事故の内容を詳しくお話ください」


 セイルの証言に、ルーが口を挟む。

 セイルは「わかりました」と返して続ける。


「昨日、私はアルティスタ様が自ら壊した石像の後片付けをしていましたの。

すると、私の手に巻かれていた桃色真珠ピンクパールのブレスが石像に引っ掛かってしまいましたのよ。

そしてそれに気づかず手を動かしたため、石像は倒れて粉々になってしまいました。

その拍子にブレスの紐が千切れ、真珠が散らばったのですわ」


 確かに、スケッチには破片に混じってピンクの小さな玉が描かれている。

 これは、彼女の桃色真珠だという事か。


「確かに、現場には十九個の桃色真珠が落ちていました。それは確認済みです」

「ちょっと待ってくださるかしら?」


 セイルがルーに声をかける。


「あの桃色真珠は全部で二十個ありましたわ。一個、足りないじゃありませんの!」

「しかし、現場で見つかったのは十九個です。我が国の憲兵は優秀です。間違いはありません。もしかしたら、弾けた拍子に美術準備室の外へ出てしまったのかもしれませんね」

「だったら、それを探してちょうだい! 最高級の桃色真珠を、赤珊瑚の粉で着色した紐で纏めたどこをとっても一級の品なの。一粒とて失くしてもらっては困るわ。あなたの優秀な憲兵達に探させて!」

「それは後ほど、今は議論が優先です」


 ルーにあしらわれ、言っても無駄と判断したのかセイルは渋々ながら引き下がった。


「とにかく、私が石像を壊した状況は今申した通りですわ。その後、すぐに石像の壊れる音を聞きつけた部長様が美術準備室に来ましたの。あとの事は、部長様に聞いてくださるかしら?」

「そちらの証言は既に供述書にまとめています」


 そう言うと、ルーは一枚の書類を取り出した。


 どうやら、供述書のようだ。

 それへ目を通しながら、ルーは続ける。


「美術部の部長、ビジーツ・ブッチオの証言によれば」


 部長、そんな名前だったのか。


「石像の壊れた音を聞きつけて美術準備室へ赴いた所。セイル嬢は箱を積んだ台車に手をかけていたとの事です」

「台車に?」


 アスティが訊ねる。


「破片を片付けるために、台車を運ぼうとしていたそうです。自分が壊した物だから、自分が片付けると申し出た。とビジーツ様は供述しています。続けてよろしいですか?」


 ルーが確認を取ると、アスティは頷いた。

 では、とルーは続ける。


「その後、美術室にいた観客の相手をしなければならない事もあってビジーツ様はすぐに美術室へ戻りました。どうやらその後、彼女はゴミ捨て場へ破片を運び、そこで事件は起こったようです」


 供述書には、必要な証言を全て記しているらしい。

 根回しの良い事だ。

 いったい、彼女はこの事件をどこまで把握しているのだろう。


 ここまで先を読んで行動していると、何もかもが彼女の掌の上である気がしてくる。

 このまま、思い通りに動かされて気付いたらカインの有罪が確定されていた、なんて事にならないといいけど……。


「ここまでの供述に、間違いはありませんか?」


 ルーはセイルに確認を取る。


「ええ。間違いありませんわ」


 その答えに満足したのか、ルーは小さく頷いた。


「ちなみに、台車を押す彼女の姿は廊下にいた数名の生徒に目撃されています。それらの証言から見て、まっすぐにゴミ捨て場へ向かったようですね」


 文化祭の間、校内には人が溢れていた。

 ゴミ捨て場の横にある講堂では演劇や楽器演奏などがあったため、彼女がゴミ捨て場へ向かったという目撃証言は簡単に集まっただろう。


 しかし、肝心のゴミ捨て場にはあまり人がいなかったようだ。

 少なくとも私達が駆けつけた時、そこにはカインとセイル……。

 そして、ジェイルしかいなかった。


 学園への来客がゴミ捨て場に用があるとも思えないし、その相手をする生徒達も接客に忙しくて、そこへ訪れる人がいなかったのも当然と言えば当然だろう。


 そのため、破片を捨てに来たセイル以外に犯行を目撃した人間はいなかったようだ。


 ルーの言葉に、セイルが再び口を開く。


「ええ。そうよ。私はまっすぐにゴミ捨て場に向かい、そしてそこへ踏み込んだ時に彼の犯行を目撃した。間違いありませんわ」

「待て! カインは女性を殴るような男では無い。見間違いではないのか?」


 アスティが声高に主張する。

 セイルがたじろいだ。


「殿下。目撃者を無用に威圧なさいませんように。証言の虚偽を疑うなら、証拠で以って指摘なさいますようお願いします」

「ぐっ……わかった」


 ルーに反論され、アスティは渋々と引き下がった。


 証言の虚偽、か。

 実際、今の証言はどうだっただろう?

 おかしな所はなかっただろうか?


 美術室は一階に位置している。

 ゴミ捨て場までの距離もそれほど長くなく、重いものでも台車で運ぶ事ができた。

 彼女の行動におかしな所はない。


 いや、無い事もないか……。

 スケッチに描かれていたゴミ捨て場の光景と今の証言には不自然な部分がある。

 事件に関係あるかはわからないけど、一応指摘しておこう。


「セイルさん。少しいいでしょうか?」


 私はセイルに声をかける。


「何かしら?」


 セイルは私をキッと睨みつけながら応じる。


 こわいなぁ……。


「一つ気になるのですが……。あなたは、ゴミ捨て場へ踏み込んだ時に容疑者の犯行を目撃したのですよね?」

「そうよ? 何もおかしな事は言っていないはずよ?」

「いいえ、そうはいきませんね」


 私はにやりと不敵に笑って言い放った。


「まず、このスケッチを見てください」


 私は『ゴミ捨て場』のスケッチを取り出し、セイルに見せた。


「見ての通り、そこには黒曜石の破片が捨てられています。これは、私が現場に駆けつけた時からそうでした」

「……それが何か?」

「あなたは、破片を捨てに行く途中で犯行を目撃したはずです。けれど、だったらどうしてゴミ捨て場には既に黒曜石の破片が捨てられていたのですか?」


 そう、現場を写したレセーシュ王子のスケッチ。

 ここには、はっきりと描かれている。


 空になった木箱とゴミ捨て場に詰まれた黒曜石の欠片が。

 これは、明らかな矛盾である。


「!」

「おかしいじゃないですか。あなたの証言が本当なら、破片はその時台車に積まれていた箱の中にあったはずです!」


 強く言い放ち、同時に台を叩く。

 ペチッと音が鳴った。


 締まらないな……。


「うっ……」


 それでも、セイルは明らかな動揺を見せた。


「それに確か私達が駆けつけた時、あなたは私達から見て被害者と容疑者を挟んだ奥に居ました。訪れた直後に目撃したというのなら、私達と同じ方向から犯行を目撃した事になる。その場所にいるのはおかしいでしょう」

「そ、それは講堂の裏側を通って来たからよ!」


 セイルはそう弁明する。

 けれど、残念ながらそれも見逃せない。


「それもおかしいですね」

「ど、どこがおかしいというのよ!」


 動揺しつつ訊ねるセイルに、私は指摘する。


「あなたは言ったはずですよ。まっすぐにゴミ捨て場へ向かった、と。講堂の裏側をわざわざ通るなんて、遠回り以外の何物でもないじゃないですか! つまり、あなたが間違いないと太鼓判を押した証言は複数の嘘に塗れたものだった。という事になります。違いますか?」

「そ、それは……」

「この矛盾について、納得のいく説明をしていただきましょうか」


 私の追及に怯んでいた彼女だったが、その表情に余裕が戻った。


「いいわ。説明してあげる」


 いやに素直だな。


「確かに、私は嘘をついたわ。でも、それは些細な事よ。私がゴミ捨て場に着いた時、そこには誰もいなかったわ。私は破片を捨てて、帰ろうとした。けれど、その時二人がゴミ捨て場に現れたの」

「二人、とは?」

「カイン様とジェイル様よ。私は咄嗟に、奥へ隠れたわ。講堂の裏側よ」

「どうして隠れたのですか?」

「二人の様子が尋常じゃなかったから……。一目見てわかったわ。二人の仲がとても険悪である事は……。自慢じゃないけれど、そういう修羅場を嗅ぎ分ける嗅覚は鋭いのですわ。私」


 妙に説得力のある証言だ。

 彼女なら、そういった場面にも何度か出会っていそうだ。


 彼女自身の起こした問題で……。


「そんな二人の近くにいては、どんなとばっちりを受けるかわかったものじゃないでしょう?だから、隠れてやり過ごそうとしたの。すると二人は口論を始めて、私は出るに出られなくなってしまった。そして、事件は起こった」

「事件……」

「そう、カイン様はジェイル様を殴り、私はあまりの惨劇に悲鳴を上げた。そういう事よ」


 ……確かに、その証言に筋は通っている。


 彼女の位置関係もそれで納得できる。


「何故、今までそれを隠していたのですか?」

「隠していたなんて人聞きが悪いわね。そうやって、陥れたのかしら? 私の愛しいあの方も……」


 セイルは言うと、妖艶に微笑んだ。


 あの方……。

 前の事件の話か……。


 そちらこそ人聞きが悪い。


「簡単な話よ。そんな物、些細な違いだったからよ。それで、何か状況が変わるかしら?」


 何か変わるだろうか?

 ……何も変わらないな。


 少なくとも今は。


「……こちらとしてもそれは困ります。今後は、正確な証言をお願いします」

「気をつけるわ」


 ルーに注意され、セイルは応じる。


「さて、美術準備室で起こった事についてはこれで把握できましたね。では、議論を再開しましょう。容疑者の犯行について」

「待ってください」


 私はルーに待ったをかけた。


「何ですか?」

「被害者は美術室に呼び出された。その可能性を指す証拠が出たからこそ、セイルさんに証言を求めたはずです」

「そうですね」

「ですが、証言によれば美術準備室にいたセイルさんはそこで被害者と容疑者に会っていない。これはどういう事ですか?」


 ルーはすぐに答えず、ふむ、と小さく唸ってから答えた。


「何もおかしな事ではありません。セイル嬢の証言によれば、被害者と容疑者がゴミ捨て場に現れたのは、彼女がゴミを捨てた後の事……。なら、セイル嬢が美術準備室を出た後に被害者と容疑者が美術準備室へ訪れ、その後現場へ向かったとすれば何も不自然はありません」


 わざわざ呼び出しておいて、場所を変えるのは十分不自然だと思うけど。

 ……確かに、否定できるものではない。


「何より、被害者が美術準備室へ入る所は目撃されています」

「え、そうなんですか? ……容疑者は?」

「そちらは目撃証言がありませんでした」


 少なくとも、ジェイルは美術準備室へ向かったという事か……。

 なら、ジェイルが美術準備室からゴミ捨て場へ移動したという部分は間違いなさそうだ。


「では、カインが美術準備室へ向かったという証拠はないという事ではないか!」


 アスティが台をバンッと叩きながら口を挟む。


 私よりも使いこなしてるじゃないの……。


「だから、容疑者の犯行ではないかもしれない?」

「そうだ。呼び出した人物が、カインであるとはかぎ――」

「いいえ、その結論には到りません」


 アスティが言いかけた言葉を遮り、ルーが反論する。


「何だと?」

「そこに至る経緯は、確かに不明な点も多い。しかし、容疑者は現にゴミ捨て場で被害者を殴り倒した所を目撃されているのです。その点だけでも、容疑者が疑わしいという部分は覆せません」

「な、何ぃっ!」


 ルーに論破され、アスティが仰け反った。


 なんか、私の代わりにアスティがリアクションをとってくれるおかげが、今回の私は落ち着いていられるなぁ。


 しかし、美術準備室からゴミ捨て場へ移動してから殴った、か……。

 本当にそんな事をしたんだろうか?


「なら、どうして二人はゴミ捨て場へ移動したのでしょう?」


 私はルーに訊ねた。

 彼女が答える。


「そればかりは証明できず、察する事しかできません……。ただ、そもそも容疑者は手紙で被害者を呼び出し、被害者はその手紙で呼び出される程度に容疑者と親しかったのだと思われます」


 可能性はある。

 私の見る限り、ジェイルはレセーシュ王子と親しい。


 けれどカインは、レセーシュ王子と同じく攻略対象だ。

 ジェイルと恋仲になるという事も十分に考えられるため、親しかったという部分を完全には否定できない。


「そして手紙で呼び出すという事は、あまりその関係をおおっぴらにしたくはなかったのでしょう。美術準備室の隣には展示物を見に来た多くの人々がおり、その人々に発見されるのを嫌って人目のないゴミ捨て場へ移動したのではないかと私は推測します」


 なるほど。

 不自然だった状況に、一応の筋は通った、か。


 実際にジェイルは美術準備室へ向かっている。

 手紙に呼び出された事は間違いないのかもしれない。


 ただ、本当に手紙を出した相手はカインだったのだろうか?


 それに一つ、彼女の推理にはひっかかる部分がある。

 指摘してみようか。


「ルーさん」

「何でしょう?」

「あなたの推理によれば、二人は一緒にゴミ捨て場に向かったとの事ですが……。それは、おかしくないですか?」

「どういう事でしょう?」


 ルーが鋭い眼差しで私を睨む。


 迫力があるなぁ……。

 でも、人相の悪さなら私も負けない!


 私もまた、対抗して視線を鋭く細めた。


「一つお聞きしたいのですが、被害者が容疑者と共に美術準備室を出たという目撃証言はないのでしょうか?」


 私の言葉に、ルーは表情を険しくした。

 私の言いたい事を察したのかもしれない。


「ありませんね」

「やっぱり、おかしいですね」


 私は台をペチッと叩く。


「どういう事でしょう?」

「他ならぬ、あなたが言った事です。セイル嬢が美術準備室を出たという目撃証言。そして、被害者が美術準備室へ入ったという目撃証言もある、と」


 ルーは答えず、黙り込む。

 そんな彼女に私は続けた。


「つまり、それらの目撃証言を得られる程度に、その時の美術室付近の廊下には人の目があったという事。そんな場所で一緒にいたというのなら、その時の目撃証言が一切得られないのは不自然ではないですか!」


 私は言って、勢い良くルーへ人差し指を突きつけた。

 しかしルーは、私の指摘を平然と受け止める。

 相変わらず落ち着き払っていた。


 アスティもレセーシュ王子も、反論を返されると何かしらのアクションを取っていたが。

 ルーは全然動じない。


 正直、やりにくい……。


 そう思いつつ、私はさらに続けた。


「何故このような事が起こったのか……。それは『二人が美術準備室から出た』という『事実』がなかったからという事に他なりません」

「それは……」

「まして、容疑者の美術準備室内での目撃証言も今の所一切ありませんね。それはそもそも、容疑者が美術準備室へ向かったという事実そのものがなかったから……ではないでしょうか? どうなんですか? それとも実際は、目撃証言があるのですか?」


 私はルーに対して、改めて目撃証言の有無を問う。


 もし、カインが美術準備室に行っていないのならば、あの手紙の差出人もカインではない可能性が高くなる。


「確かに、容疑者の美術準備室付近における目撃証言は一切ありません」


 ルーが答える。


 やっぱり。


「そうなると、おかしな部分がもう一つ出てきます。部長が被害者の姿を見ていないという事です」


 私は追及を続ける。


「容疑者はともかく、被害者が美術準備室へ入った所は目撃されています。それを見ていないのは不自然な事ではないでしょうか。しかも部屋から退出した姿を目撃されていないのに、彼女はゴミ捨て場でその姿を発見された。これも明らかにおかしな事です」


 誰にも目撃されず、美術準備室から出入りする事は難しい。

 それは今しがた証明した事実だ。


 なら、彼女はいつゴミ捨て場に移動できたというのだろう。

 これがまかり通るとすれば、ジェイルがワープでもしたとしか思えない。


 私の疑問に対し、ルーは目を閉じた。

 腕組みをして、静かに佇む。


 反論せず、彼女が口を閉ざした事でしばしの沈黙が場に訪れた。


「なるほど」


 やがて静寂の中、彼女の一言が響く。


「アリシャ様。つまり容疑者、カイン・コレルに犯行は不可能。そう主張されるのですね?」

「はい」

「わかりました。恐らく、それはあなたの言う通りなのでしょう」

「え?」


 思いがけず、彼女はあっさりとその事実を認めた。

 あまりにあっさりとしているので、思わず驚きの声を上げてしまったくらいである。


「そして彼が犯人ではないのなら、別に真犯人がいるという事」


 そう言って、ルーはセイルへと目をやった。


「私は、その真犯人としてセイル・ギュネイを告発します」

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