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絶体絶命悪役令嬢  作者: 8D
絶体絶命悪役友情
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七話 最後の猛攻

「犯人が、テネルだと?」

「はい」


 王子の問いに、私は頷いた。


「馬鹿馬鹿しい。テネルがそんな事をするはずがない」

「どうしてです?」

「……そもそも、動機がない」

「いいえ、あります。王子も知っていますよね。トレーネ家の噂は」

「うむ……」

「そして、今回の容疑者は噂の当人……。レニスです。彼は、レニスに罪を着せるため犯行へ及んだのです」


 そう、テネルはレニスに罪を被せようとした。

 そのための犯行。

 動機はジェイル本人にではなく、レニスへの恨みだ。

 標的はレニスだった。


 マルテュスが私を犯人に仕立て上げようとしたように、彼もレニスを犯人に仕立て上げようとしたのだ。


 私はレニスを見る。

 顔を俯け、震えている様子だった。


 ごめん。

 レニスにとっては辛い話かもしれない。

 最愛の兄が、自分を裏切っていたなんて。

 でも……。


「動機はわかった。しかし、事件があった時に彼は私と共にいたのだ。犯行は不可能だ」

「本当に、王子の言う時間に事件があったのならそうでしょうね。でも、事件があった時間はその時ではなかったのです」

「何だと……? 断言するからには、証拠があるのだろうな?」

「はい」


 私は淀みになく頷いた。


「ジェイルは今、ベッドの上でうなされているそうですね。「鐘が……グラウンドへ……」とそれが証拠です」

「先ほどの証言か。それが何の証拠となる?」

「わかりませんか? 鐘とグラウンド。このキーワードは、議論の中でも出ましたよね」

「……火災報知鐘とグラウンドへの避難か」

「はい。

 私達は、火災報知鐘が鳴った場合速やかにグラウンドへ向かうよう教えられています。

 それは彼女も例外ではありません。

 そして、彼女がそんなうわ言を口にするという事は、彼女が火災報知鐘の音を耳にしていたという証明になるのではないでしょうか」


 私は視線を王子から外しながら語る。


「ぐぐ……」


 唸る王子に、流し目をくれる。

 そして続けた。


「おかしいですよね。二人はその時間、用具倉庫にいたはずなのに」

「……用具倉庫にいても、聞こえるかもしれないだろう」

「そうはいきません。用具倉庫まで鐘の音は届かないと断言したのはあなたです! 王子!」

「ぐおっ!」


 レセーシュ王子はたじろいだ。


「だが、彼女のうわ言が鐘を聞いたから発せられたとは限らない。たまたまかも……」

「かもしれません。たまたま、彼女が夢を見ているだけという事もありえます」


 私は素直に認めた。

 それを不審に思ったのか、王子は怪訝な顔をする。


「思えば、私達の議論は不確かな事ばかりでした。決定的な証拠に欠け、真実を証明するには足りないものばかり……。彼女の無実を証明する証拠はありませんでした。ですが、彼が犯人であるという証拠はすでに見つけたんですよ!」

「それは何だ?」


 強い口調で王子は問う。

 私はそれに答えた。


「彼女は、火災報知鐘が鳴った時にはすでに倒れていた。ですが恐らく、彼女が倒れたのはそれよりも以前です」


 私は、スケッチを王子へ向けた。


「これを見てください」


 スケッチのある一点を指す。

 ジェイルの足の裏だ。


「それがどうした?」

「綺麗だと思いませんか?」


 私の言いたい事が理解できなかったのか、王子が怪訝な顔をする。


「泥がまったくついていません。現場は雨によってぬかるんでいたというのに」

「あ……」

「つまりこれは、彼女が地面のぬかるむ前。雨がまだ降っていない時に倒れた事を意味しています。本当に王子達に発見された直前に彼女が倒れたのなら、彼女の靴の裏は泥で汚れているはずです」

「そんな……馬鹿、な……」


 そう。

 彼女は、雨が降る前に倒れていた。

 だから、その後にあった火災報知鐘の音も聞く事もできた。

 そして、重度の風邪をひいたのはあの場で雨ざらしになっていたからだろう。


「よく見れば、彼女の後ろには足跡もありません」

「私が、描き忘れただけかもしれな――」

「それはありえません! 現場にあった他の足跡は描写しているのに、肝心のジェイルの足跡を描写し忘れるなんて不自然です。それにあなたは、御自分の記憶に自信を持っているんでしょう?」

「黙れ! このドリル!」

「黙りません! 私のドリルは虚偽を突き崩し、真実を追究するドリルです! 真実へと掘り進むまで、絶対に止まらない!」

「ぐぐぐ……」


 レセーシュ王子は悔しげに呻き、私を睨みつけた。

 けれど、反論の言葉は出てこない。


 納得、させられたようだ。


「これが確かな証拠。そして、彼女が雨の前に倒れたという事が証明された事で明らかな矛盾が顔を出します」

「……テネルとジェイルはその時一緒にいた。テネルが生徒会室へ戻るまでずっと」

「はい。テネルは、しっかりと王子に証言されたそうですね。なら、それは明らかな嘘という事になる。だから、犯人は彼以外にありえないんですよ!」


 私は王子をまっすぐに睨みつけ、強く言い放った。


 これが、私の証明だ!

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