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絶体絶命悪役令嬢  作者: 8D
絶体絶命悪役友情
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六話 行きついた答え

「では、事件の前後について語ろうか」


 レセーシュ王子がそう切り出し、語り始める。


「お願いします」


 私は答えた。


「まず、何故ジェイルがあの場所にいたのかだが」


 確かにそれは気になる。

 あんな人気ひとけのない場所、一般の生徒はまず行かない。


「彼女らは、生徒会の仕事で用具倉庫へ向かったのだ」

「彼女ら?」

「そうだ。あの日、私はテネルとジェイルの二人に用具倉庫の点検へ向かってもらった」


 テネルとジェイルは生徒会に所属している。

 そして、このレセーシュ王子は生徒会長だ。


「裏庭にある用具倉庫へ向かうには、現場の校舎横を通らねばならない」

「用具倉庫? そんなものがあるんですか? 見た事ありませんけど」


 最近ではよく入り浸っているので、裏庭の事には詳しいつもりだ。

 けれど、そんな物があったとは知らなかった。


「校舎横の壁から裏庭奥の用具倉庫まで、まっすぐに高い植え込みが続いている。通路兼裏庭からの景観を損ねないための目隠しとしての配慮だ。植え込みで裏庭からは見えないようになっている。裏庭から向かう事もできないため、校舎横を通らねばならないのだ」


 だから、ジェイルとテネルは校舎横を通ったのか。


「二人が用具倉庫へ向かった正確な時間はわかりますか?」

「確か、四時十分頃だったか。二人が出てからしばらくして雨が降り出したのを憶えている」

「そうですか」

「そして、あの騒動が起こったのだったな」

「あの騒動……? もしかして、火災報知鐘が鳴った時の事ですか?」

「そうだ。

 その時二人は用具倉庫にいたため、鐘が聞こえなかった。

 あれは、校舎の中なら隅々まで音が届く。

 しかし、裏庭の奥にある倉庫までは届かない。

 校舎外で聞こえるとすれば、校舎のすぐそばにいる時だけだろう。

 だから、グラウンドへ生徒が集まった時も二人だけは集まらなかった」

「本当に二人だけなんですか?」

「そうだ。名簿で確認もした。当学園では、学園を出る時に名札を預ける決まりとなっている。それで学園内に残る生徒を確認する事ができる。その名簿とグラウンドに集まった人間の点呼表を見比べた所、学園内に残っていた生徒の内二人以外の全員がグラウンドへ集まっていた」


 なら、間違いはなさそうだな。


「その後、テネル一人が生徒会室へ戻ってきた」

「二人ではなく? それは何故でしょう?」

「ジェイルに点検をさせ、テネルが私を呼びに行けば行き着く頃には終わると踏んだそうだ。その方が効率的だろう。点検はほとんど終わりかけていた。それまでは、ずっと二人でいたとテネルも証言している」


 つまり、テネルが王子を呼びに行く間、ジェイルは一人で用具室の点検をしていたわけだ。

 そしてそれまでの間、ジェイルは用具倉庫でテネルと二人で点検を行なっていた。


「ただ、思ったよりもすぐに終わったのだろうな。彼女も生徒会室へ戻ろうとした。その途中で、事件が起こった」


 なるほど。

 これで、事件の状況はだいたいわかった。

 あとは、ここからおかしいと思う所を探すだけだが……。


「これが全てだ。おかしな所などなかろう?」

「それはどうでしょうね」


 今の所、特に気付く事はないがとりあえず含みを持たせた言い方をしてみる。

 精神的な風上に立たねば、議論で勝つ事はできないだろうから。


 私はスケッチを見た。

 ふと、校舎の壁を見て疑問が過ぎる。


 あれ?


「ジェイルは、校舎へ戻ってくる途中で頭を打たれた。そう言いましたよね?」

「そうだ。それがどうした?」

「でも、校舎の壁が描かれているのはジェイルの左側。これって、ジェイルが用具倉庫の方を向いて倒れているって事ですよね。 それっておかしくないですか? これじゃあまるで、用具倉庫へ行こうとしている途中に殴られたようです」

「もっともだ。私もそれは気になった。恐らく、失せ物を探すために用具倉庫へ戻ろうとしたのではないかと思われる」

「失せ物?」

「よく見てみろ。ジェイルの首には、スカーフがない」


 あ、本当だ。

 彼女のトレードマークであるスカーフが首にない。

 最初にスケッチを見て覚えた違和感はこれか。


「恐らく、彼女は校舎横まで来て、その時スカーフが無い事に気付いたのだ。だから、戻ろうと振り返った。そして、その時に植木鉢を落とされたのだ」


 なるほど。

 ちょっとひっかかるが、反論する証拠もない……。


 ……いや、本当にそうか?


 じっくりとスケッチを見る。


 ……あっ!


「いえ、それはおかしいです」


 胸を張って言い放つ。


「何だと?」


 王子が私を睨みつける。

 反証するたびにいちいち睨み付けないでほしい。


「何故なら、スカーフはちゃんとスケッチに描かれているからです」

「どこにあると言うんだ?」

「ここです」


 私はスケッチに指を差した。

 示したのは、ジェイルの後頭部。

 白い包帯だ。


「これは包帯だ。前の事件の怪我に巻いていたものだ」


 私は首を横に振る。


「いいえ、違います。何故なら、彼女の怪我はすでに治っていたからです」

「何!?」

「彼女の頭は、とうに治っていました。これは他の方から証言をもらえばわかるはずです。何せ、ここ数日の彼女は包帯を巻いていませんでしたから」


 レセーシュ王子は黙り込み、思案する。

 最近の彼女を思い返しているのだろう。


「確かに……。思い出したぞ。ここ最近の彼女は包帯を巻いていなかった。けれど、今日は巻いていたんだ」

「それはいつ見ました?」

「生徒会室へ彼女が来た時だ。その時には巻いていた」

「そうですか。なら、昨日の登校から放課後までに彼女は怪我をしたのでしょうね。そして彼女は怪我の手当てのため、包帯代わりにスカーフを頭へ巻いていたんです」

「スカーフだと?」

「ジェイルは、子供の頃から怪我をした時の包帯代わりとして、スカーフを常用していたのです。つまり、彼女がスカーフを探して戻ろうとしたという事はありえません」

「憲兵! 医師に連絡しろ。彼女の頭部に巻かれていた包帯と損傷について詳しい情報を提出させろ!」


 レセーシュ王子が命じると、憲兵の一人が講堂を出て行った。

 しばし待って。

 憲兵が戻ってくる。


「どうだった?」

「確かに、巻かれていたのは包帯ではなくスカーフでした。傷は、後頭部の打撲と側頭部の切り傷の二種類ありました。スカーフの側頭部に当たっていた部分には薄く血が滲んでおり、比較的最近の傷であるそうです。なお、後頭部の打撲は前の事件の傷が開いた物だとの事です」

「ぬぅ……」


 やっぱり、そうだ。

 多分、切り傷というのは昨日の内に学校で負った傷なのだろう。


「誰か、昨日の昼間にジェイルが怪我をした所を見た人はいませんか?」


 私は講堂内の生徒達へ声を上げる。


 ……びっくりするぐらい誰も何も答えてくれない。


「あんなに大声を張り上げて、はしたないわね」

「本当よ。これだから名ばかりの令嬢は……」


 それどころか、そんなヒソヒソ話が聞こえてくる有様である。


「誰か、見た者はいないのか!」


 アスティが声を張り上げる。


「はい! 見ました」

「私も、見ました」


 すると次々に声があがった。


 ……まぁ、いいけれど。


「文化祭準備のため木材を運んでいた男子に声をかけた所、その男子が振り返った時に木材が大きく振られ、それに当たっていました」


 コントかっ!


「続いて報告致します」


 憲兵がさらに続ける。


「どうやら、ジェイル嬢の意識が混濁している原因は打撲によるものではなく、重度の風邪を発症してしまったからだという話です」

「風邪だと?」


 えー?

 じゃあ、今ベッドで伏せているのは頭を殴られたからじゃないって事?


 ジェイル……。

 本当に超合金でできているんじゃないだろうね?


「意識はまだ戻っておりませんが「鐘が……グラウンドへ……」とうわ言を繰り返しているようです」


 鐘?

 グラウンド?


 もしかして、聞こえていた?


「ふむ」


 王子は唸ると、私に向き直った。


「どうやら、怪我についてはお前の言う通りらしいな」


 レセーシュ王子が言う。


「そのようで」

「だが、だからと言って何も変わらない」

「どうしてですか?」

「お前だって、不意に振り返りたくなる事もあろう」

「それは……」


 あるな。

 ミュージックビデオとか、アニメのオープニングみたいに。


「結局の所、これも先ほどの問答と変わらぬ。振り返らなかった証拠も振り返った証拠もない。何の証明にもならない。それに、証明した所で状況が変わるわけではなかろう?」


 どうだろう?

 正直に言えば、この矛盾を暴いた所でレニスの無実を証明できるかはわからない。

 けれど、せっかく見つけた矛盾だ。

 何かしらの取っ掛かりにならないだろうか?


 ジェイルは用具室の帰りに倒れた。


 なら、どうして用具倉庫の方向を向いて倒れていたんだろう。

 これじゃあ、帰る途中じゃなくて行く途中で倒れたみたいだ。

 でも、犯行時間は五時頃。

 帰る途中のはずだ。

 でも、行きはテネルと一緒だった。

 それから用具倉庫の整理を一緒に行ったのだから、犯行が行なわれたとすればテネルが先に戻って一人で戻ってくる途中しかチャンスは無い。


 これでは、レニス以外に犯行が可能な犯人が思い浮かばない。


 ちょっと考え方を変えよう。

 さっきまでの私の主張を真実として仮定してみよう。


 植木鉢は落とされたのではなく、鈍器として殴る用途で使用された。

 それも後頭部の打撲から見て、背後からだろう。

 そして、ジェイルは用務倉庫から戻ってくる途中ではなく行く途中で殴られた。


 ……ん?


 もしかして……。

 そういう事なの?


 信じたくないけれど……。


 もしそうなら、全部説明がついてしまうんじゃないだろうか?


「王子、一つよろしいでしょうか?」

「何だ?」

「事件を目撃した時、どうして屋上を見ようと思ったんですか?」

「あれは確か、テネルが悲鳴を上げて腰を抜かしたのだ。その時にたまたま上を見て、私もその視線に釣られた」


 なるほど。

 そういう事か。


「王子、どうやら私は私情で目を曇らせていたようですね」

「……レニスの事か? ようやく、己の過ちに気付いたか」

「いいえ、違います。私が言っているのは、テネルの事です」

「テネルだと?」


 睨みながら問い返され、私は頷いた。


「彼はレニスの優しい兄。だから、そんな事はしないと思い込んでいました」


 攻略対象だから、という部分もある。

 でも……。

 その考えが、こんな簡単な見落としをさせていた。


「けれど、どうやらそれが間違いだったようです」

「何が言いたい?」


 一層険しい表情で、レセーシュ王子は私を睨んだ。

 相変わらず、怖い顔だ。


 でも、退かないぞ。

 私も睨み返す。


 これを言えば、レニスは悲しむかもしれない。

 けれど、謂れのない罪を彼女が負わなければならないのは許せない。


「ジェイルを殺害しようとした犯人。それは、テネルです」


 私は強い口調で言い放った。

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